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ツンデレ系OLは割って入る


 3月までに自分の中で答えを出す。

 そう皆に伝えた時の反応は様々だった。

 恋海やみずほ、そして汐里ちゃんは、今までより積極的にアピールしに来る。

 そのことに関しては素直に嬉しいし、自分もしっかりしなきゃなって思う。

 

 心配なのは……星良さんと由佳。

 二人はどちらかというと焦りとか悲壮感みたいなものを感じて心が苦しくなる。

 とはいえ俺が今の状況をずっと良しとするのも違うと思うし……。


 皆、俺一人の腕では抱えきれないくらいの「好き」をぶつけてきてくれていることは理解している。

 じゃあ俺がそれに対してどう向き合うべきなのか。

 ……俺にとって、「好き」とはなんなのか。


 見つからない答えに悶々としながら歩いていると、いつのまにやら目的地に着いていた。

 いつも通り裏口から入って、控室へ。


 「お疲れ様です~」

 「将人おつかれい~」


 今日は金曜日。

 バーのアルバイトの日だ。

  

 自分のロッカーを開けて、上着と荷物を入れる。  

 早く着替えないと。


 「どした、将人元気なさそうな顔して」


 すると隣にいた先輩のゆうせーさんに肩に手を置かれながらそう言われてしまって。

 

 「……そんなにわかりやすいです?俺」

 「将人は素直だからわかりやすいぞ~」


 ぽんぽん、と頭を撫でられて照れくさくなる。

 

 「なんか困りごとだったら相談乗るけど。お金貸してとかじゃなければな!」

 「そんなことしませんよ!」

 「ははは、まあ将人は常連さんいるし家庭教師もやってるしそこは心配ないか」


 奨学金のこととかあるし、全く大丈夫ってわけじゃないけれど、明らかに異常な値段のお給料は頂いているので……。

 

 「じゃあどうしたん?」

 「え~っと……」


 ちょっとそのまま聞くのは恥ずかしいというか、状況の説明がまず難しいので慎重に言葉を選ぶ必要がある。

 なんて言えば良いんだろう……。 

 う~ん、としばらく考えてしまう。

 そうしてようやく出てきた言葉は。


 「あの、好きってどういう感情なんでしょうか?」


 なんかすごく抽象的な質問になってしまった。

 ゆうせーさんはちょっと驚いたような表情をしてから。

 

 「なんか思ったのと違ったやつきたなあ……けど『好きってどういう感情』か、将人やっぱピュアだねえ~」

 「なになに恋バナ?!俺も混ぜてよ!」

 「将人の恋バナきたあ!」

 「なんで皆そんな集まってくるんですか?!」


 恋愛事情っぽい単語を聞きつけて、控室にいた先輩達が続々集まってきてしまった。

 は、恥ずかしいな!?


 「将人が『好き』ってどういう感情か知りたいんだって」

 「はあ?!将人お前ピュアすぎんだろ」

 「若いって良いねえ……」

 「あ~もうほんと気にしないでください!」


 すぐにでもこの場を後にしてしまいたい気持ちもあったけど、意外にも先輩達はちょっと真剣に考えてくれて。


 「良いのかわかんないけど、俺はあんまり真剣に考えたことないなあ~でも、一緒にいて楽しい~ってことが一番大事かも?」

 「一緒にいて楽しい……なるほど」


 それで言うと、皆楽しい。

 それぞれ違う楽しさがあるし、誰一人としてつまらないと思ったことなんてない。


 「まさき優等生ぶりすぎ。将人良いか?一番の解決法を教えてあげる」

 「な、なんでしょう」

 

 ずい、と俺とまさきさんの間に割り込んできたのは、眩しい銀髪のショートヘア、ゆーたさんだった。

 俺より身長が低いのに迫力があるぜ……。

 

 「ヤった後でも帰らずに一緒にいようと思える子、だ!」

 「うわサイテー」

 「は?!そんなことないだろ。性欲が絡まない純粋な感情こそ、本物の愛だろうが!」

 「そもそもヤった後に帰るってどういう状況なわけ?」

 「え、全然あるくない?」

 

 ゆうせーさんがドン引きしていたが、まあ、性欲が絡まない……のくだりは一理ある……のかなあ?

 でもその方法は……。


 「でもそれ試しようがなくないですか……?」

 「えなんで?とりあえずやってみれば良いじゃん」

 「あっ……」

 「将人やめとけ。こいつはそれで今まで沢山痛い目見てるのに全く反省していないんだ」


 確かにゆーたさん無断欠勤とか、急に怪我してるとか色々ある人だったけどそういう……。

 でも指名客はめちゃくちゃ多くて、うちでもトップ3くらいの売上いっつも取ってるからすごい人なんだよな……。


 とはいえ、流石にそんな選択肢はとれない。

 俺の気持ち的にもそうだし、そんなことしたら本当に俺生きていけなくなりそうな……。


 「お~いなにしてんだそろそろミーティングだぞ」

 「あらもうそんな時間か。まあ将人とりあえずやってみろって!」

 「おいやめろ、将人真に受けなくて良いからな!」


 まさきさんとゆーたさんが慌てて自分のロッカーに帰っていく。

 言ってることはともかく、良い人たちだなあ……。

 最後に残ったゆうせーさんが、やれやれ、と嘆息してから。


 「まあ、色々言われてたけど……俺が思うに、これから先もずっと一緒にいたい、って思える人なんじゃないかなって思うよ」

 「ずっと一緒にいたい、ですか」

 「まあ、考え方は人それぞれだけどね。それに将人は、今間違ったって良いんじゃない?何かもっと詳しく話聞いて欲しいとかだったら、いつでも声かけてね」

 「あ、ありがとうございます」


 ぱちん、とウィンクをしてから、ゆうせーさんはお店のホールの方へと向かって行く。

 本当にいちいち絵になる人だ。そりゃ人気が高いのも頷ける。


 ずっと一緒にいたい……か。

 着替えながら、ふと、ロッカーに付いている鏡に目が行く。


 改めて、よくこんな平々凡々な男を好きになってくれるものだ、と思ってしまう。 

 まあ、この世界はちょっと基準が違くて、俺みたいな男でもちょっとは良く思ってくれるのかもしれないけれど。

 

 ロッカーをばたん、と閉めて、俺もホールへ向かう。

 なんかスマホに通知が来ていたみたいだけれど、もうミーティングが始まってしまうから後で確認しよう。

 

 控室を出て、皆が待つホールへと向かいつつ、ちょっと、考えてみたけれど。


 ……やっぱり俺がおかしいのかな。


 今好意を寄せてくれている人は皆、ずっと一緒にいられたら良いなと思ってしまうのは。


 

 


 「じゃあ将人はいつも通り受付からよろしくね~!」

 「はい~」


 ミーティングも終わり、全員が散り散りになってから。

 俺はいつも通りに受付の仕事へと移っていた。

 

 「いらっしゃいませ、お嬢様」

 「あ、まさと君こんばんは~」

 「ああ、めぐみさん、こんばんは。ゆうせーさんですよね?」

 「そー!よろしくね!」

 「はい!」


 こうして常連さんの顔はなんとなく覚えてきたし、逆にお客さんに覚えてもらうことも増えた。

 ただやっぱりお酒が飲めないのもあって、指名されることはないけれど。


 と、いつも通りに受付の業務をこなしていた、そんなとき。


 カラン、という音がして、俺は受付の業務を遂行するべく、そちらへと向く。

 そして店内に入ってきた女性を見て、俺は目を見開いた。

 

 「いらっしゃいませ……って……え?」


 その女性を、俺は、俺の脳は記憶していたから。


 「え……岡野、さん?」

 「まさとくん……本当にいた」

 

 予期せぬ来客に、思わずたじろく。

 岡野さんは高校の時の同級生で……俺の認識が合っていれば、少しの間お付き合いをした人。

 結局、それはあまりうまくいかずに、別れることにはなってしまったけれど。

 

 「な、なんでここに?」

 「まさとくんのお友達から聞いたの。ここで働いているって」

 

 大学に行ったのだろうか。ということは恋海かみずほから?

 改めて岡野さんを見留める。

 黒髪ショート。あの頃と何も変わらない。

 クラスでは可愛いと人気で、何人かに告白されたという噂を聞いたこともあった。

 だから付き合って欲しいと言われた時は素直に嬉しかったし、付き合ってみようとも思った。

 

 だけど……「誰にでも優しいんだね」と言われて、フられてしまった。

 それが、当時の記憶。

 

 つかつかと、岡野さんが歩いてくる。

 

 「お店に着いたけど……こんなところで働いていると思わなくて、入るかどうかすごく迷った」

 「あ~えっと……なんか、ごめんなさい」

 「謝ることじゃないけど……」


 正直、どんな風に話していたかも覚えていない。

 それに、俺の記憶と、岡野さんの記憶が一致している保証もない。

 俺がこの世界に転移してきたのは1年前。岡野さんとお付き合いしていたのはもっと前のことだから。


 だから、この世界で岡野さんと俺が付き合っていたのかすら、定かではないのだ。


 「まさとくん、あなたに伝えたいことがあってきたの」

 「え?」

 

 受付をやっている俺に構うこともなく。

 ずん、と距離をつめてきた岡野さん。

 


 「私たち、やりなおさない?」

 「え……?」


 言われたことを理解するのに、数秒かかった。


 「私が悪かったの……絶対別れるべきじゃなかったのに……だから、もう一度貴方とお付き合いしたくて、ここまで来たの」

 「ええっと……」

 

 ここが店内であることも忘れるくらいの距離にまで、詰め寄られる。


 気付けばそれを避けるように、俺は壁側へと後ずさっていて……そこではじめて。


 自分がこの状況を嫌がっている、ということに気付いた。

 目の前の人に離れて欲しいと、思っている。

 だから、それをちゃんと伝えないと――





 「うちの将人になんの用ですか?」





 バン、という壁に手を突く音と共に、あまりにも冷たい声音。


 ふわりと揺れる、綺麗な長い黒髪。

 紺色の大人っぽいパンツスーツ。



 「だ、誰ですか貴方」



 ちょっと、いやかなり怖いと思ってしまうけれど、今はこの人が来てくれたことにすごくホッとしている自分もいて。



 

 「私?私は……この子の常連客ですがなにか?」




 にっこりと笑った星良さんは。

 それはそれは迫力のある笑顔をしていた。



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ヒュー! 星良さんかっけぇ!
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