元気っ娘JDは策士
「将人彼女いたことあるってほんと?」
「うん」
あれは確か3ヶ月ほど前のことだっただろうか。
恋海と将人と3人で授業を受けていた帰りに、将人と2人きりになった電車の中で聞いた事。
恋海から「将人実は彼女自体はいたことあるらしい」という話は聞いていて(その時の恋海の目がちょっと怖かったのは置いておいて)興味本位でそのことについて聞いてみたのだ。
「へ~!ちょっと意外かも!」
「バカにされてる……?」
「いやいや!そんなことはありませんですよ!」
隣に座る将人から胡乱気な視線を受けたので慌てて否定しつつ。
私が「意外だ」と感じたのは将人に彼女がいたこと、ではなく。
その彼女とお別れしているのが意外だっただけ。
だって、私がその彼女さんの立場だったら……絶対に将人を手放したくないって思っちゃうし。
そして将人は優しいから、そんな泣きつかれたら断れないんじゃないかって思ってしまって。
私だったら、「別れよう」って言われたら、全力で泣きわめいている自信がある。
……そんな自信あってもって感じだけど。
と、そんなことはおいておいて。
「元カノの何がダメだったの?将人っちがフるなんて、相当なんかダメなことがあったのかにゃ?」
興味本位、そしてちょっとだけ、将人のことが知りたくて。
そんな風に聞いてみて、将人から返って来たのは、信じられない言葉だった。
「え?あ、違う違う。俺がフられたんだよ」
「……はい?」
にこやかに言われた言葉の意味を理解するのに、5秒もかかってしまった。
「え、え、え、ちょっとまって?今私は「彼女さんの方から将人に別れを告げた」って言われたと思ってるんだけど流石に間違ってるよね?」
「いや合ってるよ???」
「はい????」
「これ2回やりとりする必要あった???」
意味が分かって尚、意味が分からなかった。
いやおかしいこと言ってる自覚はあるけど!
将人を、フ、フる?
将人と付き合った状態で、別れを自分から切り出したってこと?
「……『将人と別れないと親を誘拐する』とか言われた……!」
「いやいやいや!そんな脅迫されてないから!『急にピンときた!』みたいな顔しないで?!ちゃんと理由も言われたし!」
「ど、どんな理由だったの」
おそるおそる聞いてみた。
すると、将人は抱えている黒いリュックに顔を乗っけながら。
「『君は誰にでも優しいんだね』って言われちゃった」
「……なる、ほど?」
がたごとと揺れる電車の中、少しその将人が言われた言葉の意味を考えてみて……ちょっとだけ腑に落ちた。
きっとその子は将人に特別扱いしてほしかったんだと思う。
けど将人は変わらず誰にも優しくて、自分もそのうちの一人でしか無くて……って思っちゃったのかな。
「そうは言われても正直、性格ってなかなか変えられないから、俺に恋人とか付き合うとかは難しいかなあ~って」
「……そっか」
車窓から差し込む夕陽が、将人の横顔を照らしている。
将人がそう思っていること自体はちょっと残念だったけど。
将人の事を知ることができて嬉しかったのは覚えてる。
で、今。
「えっと……私は将人君の元カノです」
「え……」
空が暗くなりはじめ、外の街灯に明かりが灯った、夕暮れ時の大学併設カフェ。
そんな外と比例するように、目の前の女の人の発言で店内もなんだか暗くなったような気がした。
「将人の、元カノ?」
「はい」
そう名乗った女の人は黒髪ショートで、身長は私と恋海のちょうど間くらい。
綺麗よりは可愛い印象の丸顔で、確かに将人と付き合っていてもおかしくないレベルの美人さんであることには間違いなかった。
隣に立つ恋海が固まってる……のと同時にちょっと黒いオーラがではじめてる気がしたので。
「ま、まあまあ、一旦席で話しませんか?みずほちゃん喉乾いちゃったな!」
「あ、はい」
立ったまま話すのも良くないし、恋海の挙動が怪しくなってきたので一旦席に案内する。
幸い私と恋海が話していた席は4人席だったので、スムーズに席に座ってもらうことができた。
「えっと、お名前は……?」
「岡野友莉子です」
「岡野さんですね。私は戸ノ崎みずほ、こっちが、五十嵐恋海です!」
紺色のロングコートを席の背もたれに掛けた岡野さん。
私と恋海もちょっと緊張気味ではあったので、一度飲み物を飲んで冷静に。
……さて、では色々聞いていきますか。
「で、将人と会いたい、と言いますのは……?」
「あ、えっと……別れた時のことを、謝りたくて」
あれ、確か私と恋海が聞いてる話だと、将人の方がフラれてるはず。
それを謝りたいとはどういうことなんだろうか。
「なんかちょっとだけ話は聞いてるんですけど、たしか岡野さんの方からフったみたいな話だったような……?」
「実は、そうなんです」
実は将人の勘違いでした、みたいなパターンもあるかなと思っていたけれど、やっぱりこの子がフったことには間違いなさそうだ。
確か将人が言っていた理由は「誰にでも優しい」だったはず。
その言い方が悪かったとかそういう話なのかな?
将人が私達にその話をしていることを知られたくないかもしれないので、こちらからは言わないでおくけど。
気付けば隣ですごい表情になってる恋海を制しつつ。
「えっと、だと謝りたいっていうのはどうしてなんですかね?」
なんの気無く聞いたその質問。
しかし返ってきたものは、それはそれはあまりにも衝撃的な内容だった。
「えっと……実は将人と付き合ってる時に、別の人から告白されちゃって。で、私そっちの人を選んじゃったんです」
「は?」
「恋海すてーい!すていすてい!」
岡野さんの言葉にええ~!と思う前に、まず隣にいる親友を止めたのは我ながら英断だと思う。
そして、私達が何かを言う前に、岡野さんは更に言葉を重ねてくる。
「2人は将人の彼女だったりしますか?」
「え?いや、え~っと……今はまだ、違うかなぁって感じでして」
「じゃあ今まだ将人に彼女はいないんですね?」
「え?えっと、そうですね、いないです」
「良かった……」
岡野さんが心から安心したような声音でそう呟く。
良かった……?ん??なんか怪しい雰囲気になってきたぞ。
「ええ~っと……?」
「あ、私、将人に謝って、それで」
そして岡野さんは、さも当然かのように。
「また付き合ってもらえないかお願いに来たんです」
ぴきっ、と。
ただでさえ先ほどから幽鬼のような表情をしていた恋海の額からそんな音がした。
「あの~~、貴方は、将人じゃなくて他の人を選んだんですよね?」
「?そうですね」
「で、その男と上手くいかなかったから、将人によりを戻してもらおうとしている、と?」
「というより、私が騙されてたんです。その男の方は全然本気じゃなかったのに私がバカだったから……だから将人に謝ろうと」
最後まで言い終わるより早く。
「それってちょ~っと虫が良すぎませんかね?」
恋海がにこにこと笑いながらそう口にした。
笑顔が怖いよ恋海チャン!
「確かに、ちょっと虫の良い話ではありますけど……好きだったのは本当なので」
「本当に好きだったら他の人なんか選ばないと思いますけど」
「ま、まあまあ恋海、なんにせよ、決めるのは将人だし」
「そうだけど……」
正直、この岡野さんが気に食わないのは私も一緒だ。
けれど、今私達が将人の彼女じゃない以上、何を言っても無視されるのがオチだろうし。
……それになんとなく、目の前の岡野さんを見ていて……私には確信があった。
「将人ならこの時間はバイトしてると思いますよ~」
「バイト?それどこでしてるんですか?」
「ここから電車で少し行った駅のバーです」
「みずほ、そんなことまで教えなくても……」
「まあまあ、大学違うだろうし、わざわざ遠くまで来たのに徒労でした~は可哀想じゃん?」
うちの大学は駅から15分くらい歩くしね。
結構坂がキツイのよトホホ。
私は自分のスマホケースを外して、そこに入っていた1枚の紙を岡野さんに渡した。
「ここに書いてある場所に行けば多分会えると思いますよ~」
「ありがとうございます!」
その紙を受け取ると、コートを羽織って早々にカフェを出ていく岡野さん。
いってらっしゃいませ~。
「み、みずほ良いの?」
「ん~別に良いんじゃない?さっきも言った通り結局決めるのは将人殿なわけですし」
「そりゃそうだけど……」
「それにさ~こうも思わない?」
私にとって自信があったこと。
それを私は恋海に向けてピースサインをしながら言ってみた。
「私達の将人っちが、あんな人に靡くはずがないじゃん」
ぽかん、とする恋海。
あ、あれ?今結構かっこつけたつもりなんだけどなあ?!
少し間があってから、恋海がふふふ、と笑ってくれて。
「なんかみずほ……たくましくなった?」
「まあ、シュラバも経験したしね!」
「自虐すな」
びしっと、チョップを受けて。
てへへと笑う。
「私たちも行こうか?みずほもうそろそろバイトやばくない?」
「わ!本当でござる!いこいこ!」
カフェの中にある壁掛け時計を見れば、もうそろそろ大学を出なくてはいけない時間。
うちの大学は駅まで歩いて15分くらいかかるからね!(2回目)
外に出れば、すっかり暗闇に包まれた空。冬は日の入りが早いですなあ。
街灯が灯る下り坂をぐーっと伸びをひとつしてから歩いていく。
「でも流石にバーの場所まで勝手に教えちゃてよかったの?」
「それに関しては将人っちには謝りの連絡入れるけど~……」
私は恋海に再びにやりと笑ってみせてから。
「ボーイズバーで働いているって知ったら勝手に諦めてくれるかもしれないじゃん?」
「……みずほやっぱりなんかたくましくなったね」
「にゃははっは!」
その程度で諦めてくれるなら好都合ってね!
元気に笑ってみせて、天を仰いでみれば。
暗闇の中で綺麗な真ん丸の月が空の低い位置に輝いている。
……実は私には将人のことを信じている、という理由の他にもうひとつ思っていることがあって。
もしかしたら、将人が3月に出す答えを、ちょっとでも後押しするような機会になれば良いな、なんて。
いつも将人に励ましてもらってばかりのみずほちゃんは、月に手を伸ばしながらそんなことも思うのでした。




