文学少女JKはお願いする
1月1日。新しい年の始まりを迎える日。
昨年は大変良い年になりました。主に、将人さんのおかげで。
本年も何卒よろしくお願い致します(意味深)。
「はい、これで良い?」
「おお!ありがとう!やったぜ!」
目の前の鏡を見れば、母親に着つけてもらった振袖に身を通した自分の姿。
うんうん、悪くないんじゃなかろうか?
これなら将人さんも褒めてくれるはず!
「にしても良かったねえ、あんな子、誘われまくりだろうに、よく汐里と初詣行ってくれることになったねえ」
「うるさいな、良いでしょ別に!」
「あ、そっか、大学のお友達は実家帰っちゃったりとかしてるのね。そうじゃないと貴方に順番回ってこないもんね」
「実の娘虐めて楽しいか???」
なんて失礼なこと言うんだこの母親は……まあ、実際その可能性が高いのがまた腹が立つけれど。
夏祭りでは先を越されてデートできなかったため、今回は早めに初詣の誘いをしておいて良かった。
我ながら和服にはそこそこ自信があるのだ。スタイル良くないのを気にしなくて良いしね!
「まああんまり期待してないけど、ちょっとは将人君と思い出作れると良いわね」
そう言われて、そう言えば思い出す。お母さんは、将人さんと私の間にあったことを知らないんだった、と。
ファーストキスは失敗したけど……キスしてもらって、からの……。
「でゅふふ」
「え、なに気持ち悪い」
私としたことが、思い出して興奮してしまいました。大変失礼致しました。
「おうふ、失敬失敬。いやあ、人生とは分からないもんですな。ああ、そうそう、将人様を呼んできてくれたことは感謝しているよ母上。ボーイズバーのことは黙っておいてあげよう」
やる事やると世界が変わって見える、って何かの動画で聞いていたけれど、あながち間違っていないのかもしれないね?
うんうん、現実も意外と捨てたもんじゃないって、去年の私に教えてあげたいよ。
「それでは母上、行って参ります」
「はあ。いってらっしゃい?」
怪訝そうな顔をするお母さんを残して、優雅に家を後にする。
今日はとても良いお正月になりそうですねえ!
待ち合わせ場所は、この辺りでは大きい神社が近くにある駅。
まだ改札出た所に将人さんの姿はない。まだ待ち合わせ時間より前だし、当然か。
スマートフォンを開くと、将人さんからのメッセージは無い。けれどその代わりに、お母さんからのメッセージ通知が。
『撮っておいたよ。では楽しんで』
どうやら振袖姿を撮っておいてくれたらしい。
画像には私が振り袖姿で両手を広げている様子が、写っていた。
ふむ、我ながら写りも悪くない。そういえばまだ新年になってから友達にも全然連絡とってなかったし、送っておこうかな。
【聖女の集い】
《篠宮汐里》【画像を送信しました】
《篠宮汐里》『やあやあ諸君あけましておめでとう。私は新年早々今から将人様と初詣デートです。うらやましかろう』
これでよし、と。
改札前の人だかりに目を移すと、私と同じように振袖姿の人もちらほらと見受けられる。
あ、男の人の着物姿だ。良いな。
きっと将人さんも、着物が似合うだろう。身長も高いし、スタイルが良い。
そんな妄想をしていたら、通知が。
【聖女の集い】
《三秋》『正月早々うざいな』
《まな》『お前のピン写どうでも良いから将人さんの写真くれよ』
《初美》『やめたれよ、嘘かもしれないだろ。見栄張りたかったんだよ』
《まな》『そっか……なんかごめんな……』
「なんて失礼な奴らなんだ……」
どうして私はこいつらと友達なんだ?
「あー、俺なんか悪い事しちゃった?」
「ひゃい?!」
急に声をかけられて後ろを振り返ると、そこには将人さんの姿が!
こんなこと前もあったな?!
「おおおおはようございます!というか将人さんになんにも失礼なことなんてありません!!」
「すごい勢いだね」
失礼なのは奴らであってむしろ将人さんに説明するのすら失礼というかなんというか。
そして今日も将人さんのお姿は本当に神々しい……。
……と同時に、将人さんと前回あったことを思い出してしまう。
やばい興奮してきたな?
「あ、あけましておめでとうございます」
「そうだね、あけましておめでとうございます。行こうか?」
「はい!」
私としたことが新年の挨拶すら忘れてしまっていた。
ここから立て直さないと……。
「振袖、凄い似合ってるね、和服似合いそうだなとは思ってたんだけど、やっぱり想像通りだった」
にっこりと笑う将人さん。
ん――――100万点!
付き合いたい男ランキング10年連続1位!
あーーーこのまま神社じゃなくてホテル行きてーーーー。
「将人さん神社じゃなくてホテル行きませんか?」
「うん、ダメに決まってるよね」
てへぺろ。
流石に調子乗りすぎると関係切られかねないので自重します。
……あ、関係って変な意味じゃないからね?(誰)
初詣のために歩いて行く。
やはりこの辺りでは一番大きな神社であることと、今日が元旦初日であることも相まって、相当な人が並んでいた。
将人さんと参拝の列に並んで、雑談。
「っていうことがありまして……失礼な奴らだと思いませんか?」
「あはは……汐里ちゃんの周りの友達は面白い子ばっかりだね」
将人さんは聞き上手だ。
聞き上手っていうのはもちろんこっちが話したくなるのも当然そうなんだけど、適度に将人さんの話をしてくれるのも嬉しい。
やっぱり一方的に話してるだけだと気が引けるしね。
まあ、話している量的には7:3くらいで私の方が多くはあるんだけど。
「さ、そろそろ順番だよ汐里ちゃん。所作は大丈夫?」
「もちろんです。元清楚としてはこの辺りは常識です」
「元とか自分で言うんだ……いや、良いんだけどね?」
二礼二拍手一礼。
これくらいは当然だよね。
問題は、何をお願いするか。
健康、それも大事。
今年は受験の年だし、合格祈願?将人さんのいる大学に行けたら、嬉しいし。
――でも、やっぱり。
私達の順番が来た。
五円玉を賽銭箱に投げて、二礼。
将人さんとタイミングを合わせて、2つ柏手を打つ。
そのまま手を合わせて……お願いごと。
私は、目を瞑った。
(ずっと、将人さんと一緒にいられますように)
将人さんに想いを告げた日、私は考えた。
これからもし、将人さんを諦めなきゃいけなくなって。私は、次にまた誰かを好きになることができるのだろうか、と。
無理だと思った。
我ながら気持ち悪いとは思うけど、こんなにも素敵な人と、もう出会えるなんて到底思えない。
こんな良い人を経験してしまって、ハイ次なんて絶対にできない。
だから。
ずっと一緒にいられますように。
一番じゃなくても良いから。一緒にいても良い存在になりたい。
目を開ける。
隣を見れば、もう将人さんはお願い事が終わっていたのか、こちらを見ていて。
私達は二人そろって、最後に一礼した。
その後は、順路にあったおみくじを引いてから神社を後にすることに。
「吉って中吉よりもティア高いってホントですか?」
「ティアって表現が合ってるのかどうかは置いておいて、まあ吉は大吉の次に良いらしいからね」
「なんかそう聞くと悪くないですね!2番目!」
私が引いたのは吉。最近こいつがなかなかやれるということを聞いた。うんうん、悪くないじゃん。
ちらっと〈待ち人〉の欄を見たら「既に会っている」とのこと。ふーん、おみくじも中々やるじゃないか。
「それにしても汐里ちゃんすごく熱心にお願いごとしてたけど、なにお願いしてたの?」
「えーっとですね」
ふむ。流石に将人さんに直接「あなたとずっと一緒にいられますようにってお願いしました」は重すぎるか?
なにか誤魔化すためのお願いは……。
と考えてからふと、将人さんが言っていたことを思い出す。
『3月には自分なりの答えを出すから、それまで待っていて欲しい』
ということは、もしかしたら自分は、3月に別れを告げられる可能性が高いということ。
もしかしたらどころではない。普通に考えて、五十嵐先輩とかいる中で私が選ばれる可能性なんてミジンコ以下だ。
……でも、そのミジンコ以下の確率を、少しでも上げるためにはどうしたら良いんだろう。
「……将人さんと一緒にいられますように、ってお願いしました」
「……!」
少しでも、一緒にいたいと思ってもらえる存在でいたいから。
――伝えることを恥ずかしがるのは、やめよう。
目を見開いて驚く将人さんに、私はにこっと笑ってみせた。
いつもありがとうございます。作者のこーたろです。
この度本作は小説4巻、コミカライズ1巻が発売となりました。
4巻は半分近くがネットでは書いていない書下ろしになっていますので、是非お手に取って見てください。
最後までお付き合いよろしくお願い致します。




