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番外編1(中編)

「これどういうこと……何でしょうか!」

「ふふふ、ごめんなさいねぇ」


 ギリギリ言葉を取り繕ったミュゼットの前には、優雅にほほ笑むハンズベル公爵夫人、つまりアンジェラの母親と、頭を抱えているアンジェラ。そして大量のドレスのデザイン画を持つアンジェラの二つ年下の弟、もうすぐ十四歳になるキースが満面の笑みで座っていた。


 テーブルにはお茶とお菓子、そしてデザイン画のほかに、数字がたくさん書かれた用紙が置かれている。


 容姿には一番上に『ミュゼット・ネディクト様』と書かれている。


「どうしてここに……私の最大の秘密が……」

「ごめんなさいねぇ、この子のワガママに付き合ってもらって本当に感謝しているわ」


 ハンズベル公爵夫人はそれはそれは嬉しそうに笑っている。


「ミュゼット、ごめんなさい。だまし討ちみたいに黙って連れてきてしまって」

「うう……アンジェラにそう言われたら許すしかない……」


 事の起こりは今日、ミュゼットがハンズベル公爵家のタウンハウスに訪れてすぐの事だった。


 ハンズベル公爵家からわざわざベンジャミン商会本店まで迎えの馬車を寄こし、恭しく丁寧にタウンハウスまで運ばれてきたミュゼットは、まずアンジェラに迎えられた後ハンズベル公爵夫妻と軽く挨拶をした。その後公爵は急な仕事が……と残念そうに去っていき、次にやってきたのがアンジェラとそっくりのキースだった。


「ミュゼット嬢、僕はドレスのデザインを描くのが趣味で、モデルをいつも姉上や母上に頼んでいてるのです。ですがたまには他の方へのドレスも考えてみたいのです。ぜひモデル役を引き受けていただけませんか?」


 と丁寧に、ミュゼットが大好きなアンジェラとそっくりな顔でほほ笑んで言うものだからミュゼットは「はい!もちろん!」と即答した。


 そしたらすぐに応接間に連れていかれ、お茶などがセッティングされると同時にデザイン画となぜかミュゼットのサイズ表が置かれていた。


 キースはウキウキした顔でミュゼットに話す。


「デザイン画を描くのには必要な事なのです。モデルを引き受けてくださったので、僕の店からもらってきました」

「いや早すぎ……店?」

「ハンズベルの名前は出していないんですが、うちは仕立て屋をやってるのですよ。『プリセプス』って聞いたことありませんか?」

「……商会で付き合いがあって、ドレスを作ってもらったことがあります」

「あの店は僕の店です」

「ええええ……」


 ミュゼットがちらっとアンジェラを見ると、アンジェラはこくんと頷いた。どうやら嘘ではなく事実の事らしい。王都でも大人気の仕立て屋であるプリセプスは人気がありすぎてドレスを頼むのに数か月から一年待ちとも、店に気に入られなければ依頼することさえ出来ないとも言われている。

 ベンジャミン商会が仕入れている他国の布を好んで購入してくれる店でもあり、その縁から結婚祝いとしてドレスの仕立券を頂いた。唯一ギリギリ似合っている紺色のドレス数点はその時のものだ。


「僕の店とはいえ実際のオーナーは父名義です。未成年ですし経験も浅いですから僕はデザインの一部を担当しているにすぎません。ミュゼット嬢のドレスは僕以外がデザインしたものになるんですが……」


 キースはそこで言葉を切り、すうううと大きく息を吸った。


「ぜんっっっっっぜん!!全く!!!!これっぽっちも!!!!ミュゼット嬢に!!似合っていなかった!!!!」


 大きな声でそう主張したあと、キースは肩ではぁはぁと息をした。「失礼、興奮してしまって」と小さく呟いて紅茶をグイっと飲んでいる。


「ええっと……そう、ですか?こちらで作ってもらったドレスが一番似合ってると自分では思うのですが」

「確かに、そうかもしれません。ミュゼット嬢は濃いめや暗めの色合いが似合いませんから、うちのドレスはその中でもましな出来ではあると思います。ですが似合ってないことには変わりありません!僕は許せない!」


 こめかみをぴくぴくさせながら熱弁するキースの迫力に押され、ミュゼットはそうですかと頷く以外出来ない。

 そこにアンジェラが助け舟を出した。


「実はね、入学すぐくらいの頃に行われた王家主催の夜会で、キースはあなたを見たそうなの。その時プリセプスのドレスを着てたでしょう?」

「たしかに……」


 もう十ヶ月近く前の話だが、確かに父と一緒に参加したパーティーでプリセプスで作ってもらったドレスを着たと思う。入籍したのが入学の二ケ月前で、ドレスは入籍後すぐに依頼したものだった。

 その時は経った二ケ月でこんなに美しいドレスを作ってもらえたことに驚いてウキウキしていたのだが、鏡に映った自分はなんともドレスに負けているとがっくり肩を落としたのをミュゼットは忘れてはいない。


 それを見られていたのだと思うと、何とも言えない気持ちになった。


「ドレスが本人の魅力を消してどうするんだ!!……って、キースがぷりぷり怒りだして」

「姉上、ぷりぷりとかやめて下さい。僕は男です」

「はいはい。とにかく怒ってね、どうしてもドレスを作り直したい!!って騒いでいたの。でも、あなたがまた依頼することは無かったからタイミングがなくて」

「ドレスもう間に合ってますから」


 ミュゼットは三年間学園に通ったらこの国を出るし、隣国に行けばドレスの色に決まりはないので自分に似合うものを着ることが出来る。

 夜会にそれほど頻繁に出るわけではないし、お茶会も母親は良く出かけているがミュゼットは殆ど誘いがない。以前はエルリックたちを惑わせていると思われていたせいで、今はエルリックたちがミュゼットを追いかけて茶会まで来るんじゃないかと面倒くさく思われているせいだ。いくら王族や高位貴族と言えど、招かれていない茶会にやって来たら邪魔者でしかない。重大なマナー違反でもあるのに、彼らはそれを簡単に犯しそうだと思われている。


「短い時間とはいえまだ夜会にもお茶会にも呼ばれるでしょう?その時にあのドレスを着ていくなんて……許せないんですよ!」


 キースは拳をぎゅっと握った。


「だから姉上がミュゼット嬢と友達になったのなら、ぜひうちに遊びに来てもらってくださいとお願いしたのです!男の僕がミュゼット嬢に直接ドレスをプレゼントするなんて絶対に出来ませんが、姉上からならおかしくはないでしょう!!」

「えっと、つまり」

「ごめんなさいねミュゼット、弟があなたのドレスを作りたくてしょうがないのよ。私もあなたにはもうちょっと似合うものがあると思うから、許して欲しいの」

「うう……わかりました。でもお金はお支払いしますので」

「だめよ。わたくしと弟のワガママですもの」

「そうねぇ、わたくしからもお願い。もらってくださるとうれしいわ」


 ハンズベル公爵夫人にまでお願いされると、ミュゼットはもう何も言えなかった。


「お任せしまぁす……」


次で番外編1は終了です、23時に公開します。

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