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後半、女性に対して無理やりな性的なアレの表現があります。(説明し辛いですが)
気持ちのいいものではないと思いますので、苦手な方は避けてください。後半を読み飛ばした方向けのざっくりまとめを後がきに書いてあります。
「エルリック殿下が話を聞かないのは昔からです」
「うわぁ……じゃない、ええと、そうなんですか」
「ええ、そう、困った人なの。他に王子がいればまだ違ったでしょうけど。ミュゼット、もっと楽に話していいわよ、わたくしはもうこれが標準ですけど、あなたは違うでしょう?」
「正直めっちゃ助かります」
「めっちゃ……?ふふ、面白いわね」
「アンジェラ様は話が通じる貴族で本当に嬉しい……泣きそう」
「……あなた相当苦労したのね」
ベンジャミン商会本店へ送るとアンジェラが申し出たので、ミュゼットはありがたくお言葉に甘え、そこまでの道すがら二人はたくさん話をした。
「話を聞かないお馬鹿さんたちは置いといて、とりあえず生徒会補佐のことはわたくしがなんとかします。それとお昼はわたくしもお弁当にいたしますわ」
「へ?」
「食堂には外で食べるために作られたランチボックスもありますから、それを頼んでわたくしを含めた数人ずつが日替わりであなたとランチをとることにしましょう。これでお昼ご飯を取り上げられるようなことは無くなりますわ」
「それは助かるんだけど……私お嬢様方には相当嫌われてて」
「殆ど勘違いですわ。一度話せば解けます。わたくしからも話しておきますし、皆さまそれぞれピンとくる部分がありますもの。それと、朝ですけれど馬車停側からお入りなさい」
学園には馬車の停車場が作られていて、そこから校舎に向かう道と、徒歩で入れる正面門からの道がある。裏口は朝は通行止めなのでミュゼットはいつも正面門を使っていた。
「わたくしか、わたくしの従者に付き添わせて校舎に入れば囲まれませんわ」
「徒歩で入っていいの?」
「ええ。先生方は別の停車場を使ってらっしゃるのだけど、そこから徒歩で生徒用の馬車停を通って校舎に入っていかれるの。少し早めに校舎に向かえば紛れますわ」
「助かる、助かり過ぎます!!ありがたや~~~~」
「何故拝むの……?」
ミュゼットは馬車を降りるまでずっとアンジェラを拝んでいた。
翌日、いつもの場所から来ないミュゼットを心配したエルリックを含む令息たちば、あちこちミュゼットを探し回った結果アンジェラとミュゼットが楽しそうに談笑しながら校舎に向かう姿を見た。
アンジェラがミュゼットを虐めている!と頭に来たエルリックはアンジェラに文句を言うのではなく……アンジェラがいない間にミュゼットの近くに行って、アンジェラたちが近寄れないようにして守ろうとした。
だが授業の合間はミュゼットにはクラスの令嬢の誰かが話しかけていて、昼に至ってはミュゼットとアンジェラを含む五人ほどの令嬢たちが中庭で楽しそうに弁当やランチボックスを広げていて近寄れない。
それならばと生徒会補佐に正式任命してアンジェラ達とミュゼットを引き離そうとしたが、生徒会顧問に補佐は廃止になったと言われてしまう。挙句にミュゼットを追いかけ回して溜まった仕事をするようにと厳しく言われ監督役の教師が三人生徒会室に配置された。
その間にミュゼットはアンジェラたちと一緒に馬車停に向かい、そこから学園を出て安全に店に戻ることが出来た。
その翌日も、またその翌日も、一週間、二週間経っても、一か月以上経っても状況は変わらなかった。
むしろミュゼットの側にいる令嬢の数は増える一方に見えた。
朝一緒に歩く相手やランチのメンバーは入れ替わっていて、そのメンバーの多くがミュゼットを追いかけ回していた令息の婚約者や身内だった。
特にアンジェラはミュゼットの側に一番多くいる。王太子エルリックの婚約者でもあり公爵令嬢のアンジェラに貴族令息何か言えるはずもなく、エルリックもアンジェラを敬遠して近寄らない。
そうして彼らがミュゼットと話せない時期が長く続いた。
アンジェラのおかげで学園で友達も人脈も作れ、いろんなことを教わるようになり、お昼も楽しく過ごせてお弁当のおかずを交換し合ったりして、楽しく学園生活をようやく遅れる様になったミュゼットは、毎日楽しく過ごしていた。
これで彼らのおかしな行動も落ち着いていくだろう、そう思ったミュゼットは自分の甘さを痛感した。楽しすぎて、油断していたのだ。
「ああ、愛しいミュゼット、寂しかっただろう?」
今、ミュゼットはなぜか馬車に乗せられている、そしてミュゼットの上にはエルリックが乗っている。
(何でこうなった???)
お手洗いに行ってさあ帰ろうとした瞬間、目の前がクラっと歪み、気づいたら走る馬車の中にいた。まだ少し体に力が入らない。耐異常状態の魔道具を身につけているけれど、完全に対抗出来なかったらしい。
(もっと性能を上げなきゃ……いや、それどころじゃない!)
両腕を頭の上で縛られて押さえつけられ、座席に仰向けに寝かされて上にはエルリック。重たい、正直重たすぎる。
さらにはなにか腿に硬いものをゴリゴリ擦り当てられてきて、鳥肌が止まらない。
「アンジェラに囚われたミュゼットをようやく助け出せたよ。やはり愛の力は偉大だね」
「やめて!近寄らないで!」
「照れてるのかい?それとも私を煽ってるのかな?」
「気持ち悪い!やめろ変態!!話を聞けよクソ野郎!」
エルリックはニヘニヘと鼻の下を伸ばして笑い、相変わらずミュゼットの腿に股間を擦り付けながら顔を近づけて来た。
不敬を覚悟してミュゼットは抵抗する。処罰より自分の貞操が大事だ。しかしどれだけ口悪く罵ってもエルリックの笑顔が曇ることは無かった。
「こっちを向いてくれ私の天使」
「誰が天使だこの人攫い!耳が聞こえねぇのか!変態クソ童貞がキモいんだよ!」
「元気いっぱいなのも可愛いけど、初めては静かに楽しみたいな。今口を塞いであげるね……」
エルリックの顔が近づいてきたのでミュゼットは体をよじって顔を背けて何とか回避する。最悪だ、せめて口臭に気を使えよ!と思いながら、とにかく唇を巻き込みぐっと口を固く閉じた、
「緊張してるのかい?私も初めてだから安心して」
(キモい!やめろおおお!あんたのそんな情報いらないんだって!)
「ああ、君はどこもかしこもいい匂いだ、そして柔らかいね」
(嗅ぐな!触んな!スカートの中に手を入れんな!)
抵抗しようと足をバタつかせるが、エルリックの手が太腿を撫で、吐息が耳にかかる。すんすんと嗅がれている音が頭に響いて気持ちが悪い。
ミュゼットの目にはじわっと涙が出てきた。悔しかった。勝手に勘違いされ、好意を持ってると思われ、せっかくアンジェラが協力してくれたのにこうやって下敷きになってバタつくしかできない自分の弱さが悔しかった。
エルリックの手が下着にかかったのを感じて、ミュゼットは覚悟を決めた。
(もういい…………殺そう。死のう。もうやだ。限界。魔道具の暴発事故に見せかけて私も死ねばギリギリ店は助かるかな。魔道具部門は私の責任だから、きっときっと大丈夫)
ミュゼットは万が一のために仕込んでいたピアス型の魔道具を発動させようと魔道具に魔力を大量に流し始めた……
(怖い……でも、やらなきゃ。こんな奴にヤられたくない!まだ初夜だって……)
その時。
ガタン!と大きな音がして馬車が急停車した。その衝撃でエルリックは吹っ飛び反対側の座席に叩きつけられた。
同時にビリ!という音と共にミュゼットの下着は破れ、それでも手足を壁や床につけ踏ん張ったおかげでミュゼットは吹き飛ばされなかった。
(チャンス!逃げなきゃ!)
そう思って馬車の扉に手をかけようとしたが、足にエルリックがしがみついた。そして膝裏をべろりと舐めた。
「ぎゃあ!」
「追いかけっこも楽しそうだけど、今は愛し合おうよミュゼット」
変なところを舐められ体勢を崩し前のめりになったミュゼットの上に乗ろうとエルリックの手が伸びたが、その手は空を切った。
「ミュゼ!無事か!」
開けられた馬車の扉の前にいたの背の高い男性で、エルリックには見覚えがなく、ミュゼットにとっては世界で一番会いたかった人。
「レオーン!!あいだがっだよ゛ぉ゛お゛~~~」
ミュゼットは涙を鼻水をこれでもかと流しながら愛しい人の胸に飛び込んだ。
「……え?誰?」
破り取った下着を握り締めながら、エルリックが呟いた。
後半読み飛ばした方へざっくりまとめ
『エルリック(王太子)が暴走してミュゼットを襲おうとしたけどぎりぎりで回避、助けに来たのはミュゼットの愛しい人「レオン」だった。え、それ誰?』
みたいな感じです。
次は23時公開です