銀河のオセロゲーム
30世紀。
人類はワープ航法の実用化で銀河系中に広がっていた。
銀河系辺境のある惑星で人類の天敵に出会うまでは。
その惑星、クワンドル星で知的生命体の遺跡が多数、発見された。
年代測定で5億年前の遺跡だった。
遺跡の古文書を解読すると。
クワンドル星は、20世紀の地球と同じような文明を持っていた。
しかし2つの勢力に分かれて戦争をしていた。
相手を滅ぼそうとさまざまな兵器が生み出され、実戦投入され、
その1つが相手国を滅ぼした。
勝った方は喜ぶ暇は無かった。
その兵器、オドレータは作り出した側も襲った。
あらゆる兵器もオドレータの前には無力だった。
そして結局その勢力も滅ぼされ、クワンドル星の知的生命は絶滅した。
これを読む知的生命がいるなら我々のような間違いをせず、
無益な争いをさけ、平和共存するよう忠告する、というのが最後の言葉だった。
調査隊は複数の勢力から構成されていて、表立って戦争はしていないが
利権を巡って対立していた。
古代兵器オドレータを探し回った。
あるチームが別の遺跡の奥、地下シェルターに冬眠カプセルを発見。
中の生物、ヒューマノイド形のクワンドル人は死んでミイラ化していた。
調査のためにカプセルを慎重に開いた。
真っ黒い埃がカプセルから沸き起こって隊員たちは埃を吸い込んでしまった。
毒煙というわけではなかったので、空気が変質していただけだ、と軽く判断した。
しばらくすると隊員たちは目を見交わして出て行った。
他の隊員と会えば、口から黒い煙を出し、煙は意思ある生き物のように
忍び寄って、その隊員は吸い込んでしまう。
そうして調査隊全員を乗っ取ると基地に帰還。
その基地を汚染占領、増殖して他基地へ。
ある惑星の検疫システムロボットが異常を発見、ナノマシンの
憑依兵器オドレータを判別、広がる状況を警告した。
一人の汚染者が、ある惑星に降り立てば、ナノマシン・オドレータが
広がって人に取り付いて意思を奪う。
記憶を保持しているので判別が難しい。
体内でガン細胞のごとくナノマシン・オドレータが増殖する。
銀河系人類とオドレータの戦争が始まった。
これは人類に圧倒的に不利だった。
感情や自己保存本能の無いマシンなので攻撃は容赦がなかった。
銀河中の居住惑星、巨大居住施設は破壊されるか、オドレータに乗っ取られた。
人類は敗北を続けて、1年後には古代惑星・地球1つが地球人類のエリアだった。
過去、8度の核戦争によって地球はほとんどが呼吸不可能の放射能地帯になった。
そうなって初めて各国は無条件で手を取り合い、
西暦2120年、全人類1億人は地球を見捨てて宇宙に避難した。
そして30世紀、銀河中から逃げてきた避難民1億人が地球に逃げ込んだ。
900年たって、地球の放射能はだいぶ弱くなっていたが
詳しい安全調査をしている時間はなかった。
オドレータに取り憑かれた宇宙戦闘艦隊が乗り込んできた。
避難民の地球人には戦う武器は無い。
あったとしても増殖するナノマシンに対抗できない。
反撃手段を持っていないことを察したオドレータの艦隊は地球に着陸した。
そして宇宙軍の軍人たちが出てきて大気にナノマシンを撒こうとして。
もはやこれまで、と地球人たちは思ったが。
軍人たちはバタバタと倒れた。ハッチを開いた戦艦群も沈黙。
科学者たちが調査、軍人に付いたオドレータは死滅していた。
オドレータが消えても元の人間は生き返らない。
取り憑かれた時点で殺されている。
放射能に弱い!
ラジウムやラドンなど、人間に無害な量でもオドレータには通用する!
クワンドル星の科学は、ナノマシンは開発しても核兵器は発明していなかった。
ウランなどの放射性物質が無かった。
ナノマシンはプログラムで動く。自壊させるキラープログラムを!
放射能を浴びさせる行動を取らせることはできないか?
科学者たちは研究を始めた。
後にわかったことだが。
オドレータの使命は知的生命の抹殺。地球のあちこちに潜んだ人類を
完全に抹殺するため、全部のオドレータが地球に降りてきていた。
やがて調査隊が他惑星にオドレータがいないことを確認、
人類はまた時間をかけて復興を始めた。
手本は「小松左京ショートショート全集」。