1-5 学園初日 (1)
食事も終わり、セルオウス学園長が閉会の挨拶をして解散となったので部屋に帰ってきた。
正直、放心状態で、どうやって帰って来たかよく覚えていない…。
ウィルから何度も大丈夫かと話しかけられたが、「あぁ」としか返していなかったと思う。
あまりに衝撃的だった。まさか、この世界で前世の妹に会えるとは…。
それも同級生なので、これから話す機会がたくさんあるはずだ。
そう考えるとドキドキしてきた。
ただ、僕は自分で言うのも嫌だが、ビビりだ…。
あの女の子に対して、僕には前世の記憶があって、君が前世で死に別れた妹に違いないと言ったとして、この人は何を言っているんだろうとか思われたら、あまりのショックに立ち直れる自信がこれっぽっちもない。
しかも、その後、それが噂とかになろうものならこの学園に居られる気がしない…。
両親を説得して、この学園に来たからには、そんなことは絶対に許されない!
なので、当面は仲良くなる方向に注力して、機会を伺うしかないと思ってる。
なんて事を永遠と考えながら眠りについた。ウィルからは最後まで心配されていたと思う…。
*****
薄っすらとした朝日と小鳥のさえずりで目を覚ました。まだ時間は6時前だが、セントリア魔術学園での初日なので起きた。というか、昨日のことを思い出して眠気が吹き飛んでしまったという事の方が主な要因な気がする。
隣のベッドでは、ウィルがまだ寝ていたので、起こさないように静かにベッドから抜け出した後、水魔術でタオルを湿らせて顔を洗った。
こんな時、水魔術が使えてよかったと改めて思う。基本属性はこういった生活に密着した魔術が使えるのでとても汎用性が高く重宝する。
その後、まったく集中できなかったけど、日課の魔力操作の自己練習を行って、7時前にウィルを起こした。
「おい、ウィル、朝だぞ」
ウィルは、眠たそうな目を擦りながら、上半身を起こした。
「うーん、もう朝か…。って! ギル、お前もう大丈夫なのか? 昨日の夕食の時から、お前なんか変だったぞ?」
やっぱり、ウィルにすごく心配かけちゃったみたいだ。
「あぁ、心配かけちゃったな。もう大丈夫だよ」
「そっか、ならいいんだけど、昨日はなんだったんだ? 何言っても、『あぁ』みたいな返事しかしなかったし」
まぁ、当然聞かれるよな。とは言え、前世の記憶のことは言いたくないし、適当にはぐらかそうかな。
「うーん、ちょっと恥ずかしい話なんだけど、同じ寮のテーブルで、1年生席の後ろ側に、長い銀髪で瞳が綺麗な青色の女の子がいただろ? その子の事が気になっちゃってね。ははは」
「はぁーーー!! 一目惚れで放心状態になってただけなのかよ! 心配して損したじゃねぇか!!」
案の定、ウィルは呆れていた。と思ったら今度はなぜかニヤニヤしている。怖いぞ親友よ。
しまった、もう少しまともな言い訳をすればよかった。凄く早まった気がしてきたけど、もう後の祭りだ…。
*****
その後、制服に着替えて、寮の中にある食堂に行き朝食を取ってから、本棟の1年生用の講義室に行った。
いやー、ウィルが居てくれて助かった。どうも入学式の食事の後に、今日の授業などについて簡単に説明があったらしいけど、僕は放心状態だったので、当然何も聞いていなかった訳で…。
講義室は広く、机は奥の教壇に行くに従って下がっており、恐らく100人座ってもまだ余裕がありそうだ。
席には既に多くの学生が座って談笑していた。
僕はあの女の子を探す為に、あえて後ろの方の席に座った。ウィルからは、なんで後ろに座るんだよと愚痴られたけど、これだけは譲れない。
数分経った頃、あの銀髪の女の子が入って来た。
その子を見たことでやっぱり鼓動が早くなるのを感じる。隣のウィルも気づいたようだ。
「あの子だろ? お前が気になってる女の子って。確かに可愛い顔してんな。ま、親友の恋路を邪魔したりはしねぇから心配すんなよ」
「あ、あぁ、ありがとな」
僕の様子を見てニヤニヤしながらからかってくるウィルに対して、苦笑しながらお礼を言った。
でも、恋路って言われるとやっぱり早まったなと思ってしまう。
だって、前世の妹だし、恋とかじゃないだろう…。
女の子は友達を探しているのか、キョロキョロと挙動不審気味だ。
次の瞬間、女の子と目が合ってしまった。
まずい、恋とかじゃないとか思ってたのに、綺麗な青い瞳に吸い込まれそうになる。
ただ、目が合ったのは一瞬で、女の子は慌てて反対側の机に向かって歩いて行ってしまった。
その姿も愛らしいので、ずっと目で追っていたいが、これから仲良くなる機会はあるはずだし、昨日の二の舞になって授業に集中できない様なら家族に申し訳が立たないと自分に言い聞かせて前の教壇の方を見る。
すると、ちょうど担任のアルメリア先生が来た。
先生は、その可愛らしい顔で生徒達を見回しながらにこやかに微笑んでいる。
「みんなおはよう!! 昨日はよく眠れたかな? ちなみに私はお酒のせいで爆睡だったけど、今は二日酔いで辛いですっ!!!」
アルメリア先生…。その童顔で二日酔いと言われると違和感しかありません…。
他の生徒もどう反応していいものか悩んでいるのか、みんな苦笑している。
「あれ? いつもは割とウケるのに、今年の1年生は反応薄いわね。まぁいいわ。改めて、今年一年間、貴方達の担任になったアルメリアよ。この外見をバカにした生徒は入学式で宣言した通り半殺しにするからそのつもりでね」
幼い顔で恐ろしいことを言う。
ただ、僕の情報が確かなら、このアルメリア先生は見た目とは裏腹にかなりの実力者で、学園の1年生を半殺しにするくらいなら恐らく朝飯前だろう…。
「さっそくだけど、今日は講義を…、しませんっ! 今日は、このセントリア学園の決まりや、各施設について説明します。まぁオリエンテーションね。お昼からは、寮ごとに分かれてローテーションで学園の施設を実際に見てもらいます」
その後、学園の規則や施設について説明された。
事前に調べていた通りだったが、まず、この学園は各国の貴族、平民問わず集まっていて、身分による差別をしないことを謳っている。
とは言え皆が皆、平等がいいと思っていることはないだろうな。貴族の中には変にプライドが高くて平民を見下している者も多いと聞く。
まぁ僕自身は偉ぶるつもりは全くないし、平民の友達も作っていくつもりだけど。
次に、寮の学生は運命共同体で、一人でも規則違反などがあると寮全体が減点されるようだ。逆に試験で優秀な成績を収めるなど、何かしら良いことをすると加点されるらしい。
1年間のこの点数で寮の順位付けをしているらしい。
確かに先生達がすべての学生を指導するのは難しいし、生徒同士で切磋琢磨して行った方が効果的なはずなので、この制度は割と理に適っていると思う。
ちなみに、この3年間は現生徒会長のいるウィルディネアという寮がずっと最優秀になっているはずだ。
最後に、この学園の施設についてだが、僕達が今居る本棟は、講義室や食堂、中規模の図書室、簡単な実験施設やトレーニングルームなどがあるらしい。
あとは、寮棟と専門棟の二つの建物と、これら三つの建物の間に大きな闘技場がある。
寮棟は、僕達が暮らし始めた寮が四つの班それぞれにあり、この中には皆の部屋の他に、共同の大浴場や談話室、簡易なトレーニングルームなどがあるとのことだ。
そして、四つの寮を繋ぐように円柱形の建物があり、ここには各寮生が交流できるようにかなり広い談話スペースや軽食が取れる区画、売店などもあるらしい。
専門棟はセントリア聖王国有数の大図書館があり、他に専門的な実験施設や、研究室がいくつもあるという事だった。
すべての規則や施設の説明をしている内に、お昼の時間になった。
「それじゃあ、2時間の休憩を挟んでから午後の時間になります。みんな、遅れないようにね!」
アルメリア先生が午前の時間の終了を口にしてから、学生が動き出した。
恐らく、みんな食堂に行くのだろう。
実は、セントリア魔術学園の食堂は結構有名で、僕もこの昼食の時間は楽しみにしていたのでウィルと共に食堂に向かう。
さて、午後に向かって、まずは腹ごしらえだな。
お読みくださってありがとうございます。
長くなってきたので一旦区切りました。
まさか一話で終わらないとは…。
相変わらず拙い文章ですが引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。