2-17 寮対抗宝探し 初日 (1)
一夜明け、遂に寮対抗宝探しの当時となった。天気は快晴で絶好のイベント日和だ。皆、既に準備は万端でいつでも出発できる状態になっている。
寮対抗宝探しの期間中に野営するのはビルウッドの森の手前の荒野であり、昨日も荒野に作ったテントで一夜を過ごした。慣れない事だから起きた時は体が痛かったけど、今は興奮状態だからその痛みも全く感じない。
周りの生徒達も同じように興奮していて、今か今かと始まるのを待っている。そして、隣ではウィルが「やってやるぜ~!」と言いながらテンションを上げ続けていて、手にはこの前ダンテの武器屋で買った槍を握りしめている。
僕もウィルもこの日に向けて武器の慣らしは万全だ。僕の刀の「日黒刀」はと言うと、早く獲物を斬らせろと僕に訴えかけているように感じる。この刀には意思のようなものを感じるんだよね。
今、僕達はセルオウス学園長からの開会の言葉を待っている状態だ。
そのセルオウス学園長は教師陣に対して、何かを喋っている所だったが、今し方終わったみたいで、こちらに向かって歩いてくる。
「諸君、いよいよ『寮対抗宝探し』の当日となったのぉ」
セルオウス学園長はあまり大きな声で喋っていなさそうだけど、なぜかはっきりと声が聞こえる。これも何かの魔術なのだろう。風属性かな?
「皆承知しておるじゃろうが、このイベントは近隣の町の安全の為でもあるのじゃ。儂が言うまでもないことじゃが、是非全力で臨んで欲しい。また、このイベントの為に生徒会を初め多くの生徒達が準備を頑張ってくれたんじゃが、この場を借りてお礼を言わせてもらう。本当にご苦労様じゃった」
セルオウス学園長はそう言って軽く頭を下げてくれた。あのセルオウス学園長にお礼を言われるなんて恐縮だ……。
「さて、その生徒達のおかげでこのビルウッドの森周辺に危険な魔物がいないことは確認できておるが、万全を期して教師一同が皆を護っておるので存分に力を振るって頑張るのじゃぞ」
セルオウス学園長はそう言うと、僕達を見渡す。いよいよか!
「それでは、これより『寮対抗宝探し』を開始する!」
次の瞬間、パンッという発砲音が鳴り響いた。
「「「「「うぉーっ!!」」」」」
生徒達が一斉にビルウッドの森に向かって駆けて行く。これだけの生徒が一斉に走り出すと凄い迫力だ……。
「さぁ僕達も行くぞ!!」
「「「「おぉー!」」」」
僕とウィルは魔物を狩ることを担当することになっていて、それは各学年2人ずつの8人チームで行う。そして、チーム代表で4年生のジルという先輩が僕達を先導して掛け声をかけてくれたので僕達も返事をしてビルウッドの森に向かって走り出した。
ソフィー達が少し心配だけど、まぁ先生も先輩もいるから問題ないだろう。
*****
ビルウッドの森の中は草木が生い茂っているので少し薄暗い。
「皆、隊列は崩さないように! 危険が少ないとは言え、魔物は魔物だ。何があるか分からないからね!」
ジル先輩が先頭から声を掛けてくる。
今、僕達1年生は一番経験がないので隊列の間に配置されている。先頭にはジル先輩がいて、そのすぐ後ろに槍を持った先輩と盾を持った先輩がいる。そして、後方には魔術が得意な先輩と弓を持った先輩、盾を持った先輩がいる。ちなみに1年生は僕とウィルだけだ。
しばらく歩いたところで前方から草が擦れる音がしたので、皆が一斉にそちらの方を向いた。
「グリーンウルフだ! 群れだと少し厄介だな。1年生と後衛の皆は群れだった時の対処を頼む。よし、行くぞ!」
そう言って、前に居た3人の先輩が一気に駆けていった。
「エアーカッター!」
ジル先輩がグリーンウルフとまだ距離がある所から風魔術で攻撃をした。グリーンウルフは「キャン」と言って、瞬殺されている。流石だ……。
「群れだ! 皆気を付けて対処してくれ!」
どうやら群れの様だ。隣でウィルが「よっしゃー!」とやる気に満ちた叫びを上げている。
結論から言うと、僕達は全く必要なかった。十数匹いたグリーンウルフの群れは後衛の魔術が得意な先輩と弓を持っている先輩があっという間に片付けてしまったからね……。
確かにグリーンウルフはあまり強い魔物じゃないんだけど、全く出番なしだとは思わなかった。やっぱり、この学園の先輩達はレベルが高いね。
「おい、ギル、オレ達全く役に立たなかったぞ……」
ウィルも同じように思っているのか、苦笑しながら話しかけて来た。
「うん、そうだね。これは本当に万が一の事態がないと出番はないかもね。しばらくは魔物の証明部位を集めることになりそうだな」
「ちげーねー」
僕達が拍子抜けしていると、先輩達が帰ってきた。
「皆無事で何よりだ。さぁ、まだ始まったばかりだ。気合を入れていこう。グリーンウルフの群れ程度じゃかなり点数は低いからね」
ジル先輩が皆に声をかけてくれる。先輩達は頷いているので、気持ちはもう次に向かっているのだろう。
「1年生の二人はしばらく僕達の動きや、魔物の証明部位について見ておいてくれ。その内、二人にも活躍して貰うつもりだから、その時は宜しく頼むよ」
「「はい」」
ジル先輩の言葉を受けて、僕とウィルは返事をした。うん、是非活躍させてください。
*****
それからしばらくは弱い魔物とちょくちょく戦闘になる程度で、偶に僕達も戦闘に参加させてもらっているが、全く危険という感じはない。
うん、事前情報の通りだね。ただ、こんな弱い魔物でも普段戦闘訓練を受けていない一般の人達にとっては脅威であることに変わりはないので手は抜けない。逆に少しでも多くの魔物を倒していかないといけないからね。
と、ふと遠くの方で何かが光った気がした。
「ジル先輩、向こうで何かが光った気がします。ヒントが入った宝箱かもしれないので見に行ってもいいでしょうか?」
僕はジル先輩に伺いを立てた。
「そうか。報告ありがとう。じゃあ行ってみようか」
ジル先輩はそう言ってチームを僕が言う方向に向けて動かしてくれた。
そして、そこに着くと、木の上の方にヒントが入った宝箱があった。まぁ事前に準備してたから形はバッチリ覚えているんだよね。
「おぉ! お手柄だな。じゃあ狼煙を上げて知らせようか」
ジル先輩はそう言って道具箱を漁って狼煙を取り出して火をつけた。この狼煙は煙が上がり始めた時に音もなるので、宝探しチームに伝わるらしい。そして、ここで待っていれば宝探しチームが来て、ヒントを回収していくという手筈になっている。
ちなみにヒントは1枚見ても全く意味が分からないようになっているらしいので、僕達が見ても全く意味はない。ここで宝探しチームが来るまで魔物に警戒しながら待機することになる。
しばらくするとミア先輩の声が聞こえて来た。
「お、ジル先輩達のチームだったんですね。助かります」
「あぁ、今はどんな状況だい?」
「先輩達が見つけてくれたヒントで3枚目ですね。いいペースですよ。10枚で宝の場所が分かるはずなので、あと7枚ですね」
「そうか、他の寮の状況が分からないから何とも言えないが、何とか頑張ってくれよ」
「任せて下さいよ」
先輩達はそんな会話をしながらヒントの受け渡しをしていた。
「あら、ギルとウィルじゃない。あんた達のチームだったのね?」
すると、そこでリリーが僕達を見つけて声を掛けて来てくれた。後ろからソフィーも笑顔を浮かべながらこちらに向かって来る。
「おぅ! このヒントはギルが見つけたんだぜ!」
「へー、お手柄じゃない」
「偶々だよ」
「ギルくん凄い!」
「ありがとうソフィー。そっちはどうだい?」
「うん、魔物は基本的に避けながらヒントを探しているから問題ないよ。ただ、歩きっぱなしでちょっと疲れちゃったけど」
ソフィーは苦笑しながらそう言った。まぁソフィーは戦闘要員じゃないからこの移動距離は堪えるだろうね。
「身体が辛いようならミア先輩に言うんだよ」
「うん、でも頻繁に休憩を入れて貰ってて、その時に回復魔術で少しずつ回復してるから何とかなってるよ。でも体力が回復する訳じゃないから大変は大変なんだけどね」
「ははは。確かにソフィーなら疲労を回復しながら進めるから少しは楽かもな。でも無理はしないようにね」
「うん、ありがとうギルくん」
そう言って笑うソフィーの笑顔を見ると、本当にまだ大丈夫そうだ。まぁリリーもいるし、チームリーダーはミア先輩だから問題はないだろう。
そうして、宝探しチームと別れて僕達は再び魔物狩りを再開した。
危険が少ないのはいいことだけど、折角だからもう少し骨のある魔物に出てきてもらいたいものだ。
そんなことを思っていたからという訳では無いだろうけど、この後、ちょっと厄介な魔物と遭遇してしまった。
その魔物の名前は「フォレストファング」。このビルウッドの森の生態系の中ではかなり上の方の魔物の群れだ……。
お読み下さりありがとうございます。
やっとイベントが始まりました。
実は、今回はどこを勝たせるかまだ決めてません(笑)
この後どうなっていくか乞うご期待です!
さて、相変わらず拙い文章ですが、引き続き楽しんで頂けると嬉しいです。
それでは、また明日。




