2-8 セルシアでの休日 (1)
セルシアの町に行く事を決めてから数日は普段の講義と生徒会の活動に明け暮れる日々だった。特に生徒会は普段の業務に加えて次のイベントの準備をしているので目が回る程の業務量だった。
それは他の委員会も同じだったようで風紀委員会のリリーも保健委員会のソフィーも同じように大変だったという話を聞いたし、兼務のはずのウィルも少しとは言え武術委員会の仕事を手伝ったと言っていた程だ。
ただ、休日にセルシアに行く、というモチベーションがあったので皆頑張って来れた。
そう、遂に今日はその休日になったのだ。
ここ数日、レイやユリアから生徒会の活動の合間にセルシアの町についていろいろ聞いておいたんだ。
「んぁ~、もう朝か」
お、どうやらウィルが起きた様だ。
「おはようウィル。さてセルシアに行く準備をしないと」
「そうだな」
そう言って、僕達はセルシアに行く準備をする。学園の中に居る間は制服を着ていれば何も問題ないけど、せっかくセルシアに行くのだから着飾って行かないと女性陣に怒られてしまうだろう。
「何か、こんな服着るの久しぶりで変な気分だな~」
「そうだな。でも制服で行こうものなら多分リリーが怒るぞ」
「はは。ちげ~ね~」
僕達は貴族としての最低限の身だしなみを整えて待ち合わせ場所である、寮の中央棟のエントラスに向かう。最低限というのは、別に貴族のパーティなどではないので、貴族として恥ずかしくない程度の服を着ただけだ。
街中で装飾品をジャラジャラしても感じが悪いだけだしね。
そうして、寮の中央棟のエントラスで女性陣を待つこと十数分、やっと来たみたいだ。
「お待たせ~! さぁ行くわよ!!」
「遅くなってごめんね」
僕とウィルは二人の姿を見て少し固まる。普段の制服姿に見慣れていたので、二人の私服姿に少し見惚れてしまった……。
リリーは動きやすそうな膝下丈の赤いスカートに白いブラウスを着ていて活発な印象を受ける。一方、ソフィーは長めの丈の白いワンピースに水色の薄めの上着を羽織っていて清楚な印象をしている。
「どう? 似合ってるでしょ?」
僕達の反応を見てリリーが面白そうに訪ねてくる。ソフィーは若干恥ずかしそうで、そんな姿も可愛らしく見える。
「あ、あぁ、とても似合っているよ」
「でしょ~」
僕は何とか言葉を絞りだし、満足したようにリリーは満面の笑みだ。
「それじゃあ行きましょうか!」
リリーが張り切って言葉を発して、僕達は外に出る。
*****
セルシアの町は歩いて行くにはちょっと距離があるのでどの生徒も馬車を使って行く。
僕達も事前に馬車を手配していたので、その馬車に4人で乗る。この時にはエントラスでの惚けていた状態は脱していたので普通に会話出来ていた。
「それにしてもあんた達もそんな服着るとやっぱり貴族なんだなって思うわね」
「そうか? あまり貴族然としていない服を選んだんだけどな」
「そうは言っても、そんな上等な生地は平民には手が出ないもの」
「まぁ、それはそうかもしれないな」
確かに伯爵家の子息に着せる服なので、それなりに上等な生地を使っていると思う。しかもあの母親は息子達を溺愛しているので、服には相当気を使っていたはずだ。
「いや、それはお前らも同じだって。特にリリーって普段の様子だと貴族って感じしないし、『馬子にも衣装』とはよく言ったもんだな~」
「はぁ? あんた塵になりたいの?」
「……じょ、冗談だって」
ウィルが照れ隠しに冗談を言っているがリリーには通じなかったみたいだな。あのエントラスではリリーの格好を凝視していたから相当インパクトが強かったんだろう。
「ははは。ウィルのは照れ隠しだからリリーもそんなに気を悪くするなって。それにしても二人とも凄く綺麗で驚いたよ」
「そうでしょ~。今日は気合を入れたんだから!!」
「ふふ、ありがとね。ウィルくんもギルくんも格好いいよ」
そんな会話をしながら馬車は進んでいく。もうセントリア魔術学園はかなり遠くになってきた。
「そう言えば、二人はスイーツカフェ以外は行く所は決めているのかい?」
「うん、私は神殿に行きたいの」
「へー、神殿か。確か、セルシアにはかなり大きな神殿があるんだよな?」
「うん! 私、昔から神殿にはよく行っていたから、セントリア聖王国の神殿って憧れていて」
「あたしは流行の服を買いたいわ!」
「ははは。いいね、今日は二人の行きたい所を中心に回ろうか。僕とウィルはその合間に武器屋とかに寄れればいいかな」
そうして、行く場所を検討しているとセルシアの城壁が見えて来た。都市セルシアと言われるだけあって、立派な城壁だ。
城壁の門には既に列が出来ていて、最後尾に並んだ。
そうして待つこと数十分でやっと僕達の番が来たので、門番にセントリア魔術学園の生徒であることを伝え中に入れて貰った。
セルシアの町は都市というだけあって、建物も多いし、人通りも多く活気に溢れている。セルシアは中央に領主の城があり、城を中心に十字に大きな道があって、その通り沿いにいろいろなお店があるらしい。僕達は南門から来たので、南通りが目の前に見えている形だ。
そして、門をくぐった先は広場になっていたので、ここで馬車を停めて僕達は降りた。
「やっと着いた~!」
開口一番リリーが手を広げて言葉を発した。うん、僕も同じ気持ちだ。
馬車の御車には帰る時間になったらまた戻ってくることを伝えて、僕達はソフィーが希望していた神殿に向けて歩いていく。場所は門番に聞いておいたから迷うことはないはずだ。
そして、言われた通りに進むと立派な真っ白い建物が見えて来た。
この世界には宗教は一つしかなく創造神エリアスという神を信仰している。ただ、神は創造神エリアスの他に各属性を司る6柱の女神がいて、この6柱の女神も尊い存在として崇めている。女神はそれぞれ、火の女神:サラス、土の女神:ノリス、水の女神:ウルス、風の女神:シルス、光の女神:ウィレス、闇の女神:シェロス、と言う。
まぁこの世界と言ったけど、魔族側が何を信仰しているかは分からないから、性格には人族の世界では、だけどね。
神殿を前にあまりの壮大さに皆見入っている。
「お~、これが都市セルシアの大神殿か。直に見るとでかいな~」
「ホントね。フォレスティア国の王都の神殿と同じくらいか少し大きい気がするわね」
ウィルとリリーが大神殿の巨大さについて感想を言っている。隣のソフィーは相当感激している様で言葉を失って見惚れている。
「さて、じゃあ中に入ろうか」
僕の言葉に従って皆が中に入る。
大神殿の中に入った僕達はそのまま大広間に来た。大広間は一番奥に創造神エリアスの像と少し離れたところに1柱の女神の像があった。
「あの女神は誰だろう?」
「あれは光の女神ウィレス様だよ。ここセルシアの大神殿ではエリアス様とウィレス様の神器のレプリカを置くことを許されていると聞いたことがあるんだ~」
僕の問いにソフィーが答える。神器とはそれぞれの像が手に持っているものの事だろう。創造神エリアスの手には金色の盃が、光の女神ウィレスの手には先に玉がくっ付いている杖を持っている。その玉は純白で宝石のように綺麗だ。
「凄い……。まさかこんなに早く神器を見れるなんて」
ソフィーが感激している。かく言う僕達もその荘厳な佇まいに圧倒されていた。
僕はそんな風にうっとりと見惚れているソフィーの顔を横目に見て、愛おしい想いが強くなり、ここに来て良かったと心から思った。
お読み下さってありがとうございます。
またまた今日投稿するために途中で区切ってしまいました。
このデート?でキーワードの「イチャイチャ」感が出せたらな~と思っています。
さて、相変わらず拙い文章ですが、引き続き楽しんで頂けると嬉しいです。




