2-4 1年生の武術最強 (1)
生徒会の顔合わせをした翌日、いつもの様に日が昇り始める時間に起きた僕は日課の魔力操作の訓練を行っている。
前世では魔力なんてなかったけど、こっちの世界では普通に存在している。人も魔物のような動物も持っているし、微弱ではあるけど、自然の木や草の中にも、この空気中にもあるんだよね。
魔術は、その魔力を魔術回路に通して変換して、この世界の事象に干渉することなんだ。僕が顔を洗うために出した水も魔術回路を通して変換した水属性の魔力と空気中の水分が干渉して発生している。
で、魔力操作はこの魔力を操作するんだけど、初めは全然できなかったんだ。
だって、魔力って何?っていう状態から始まったからね。初めて魔力を動かしたときは何かグニュグニュした感触というのか、変な感じだったよ。
それが今となっては凄くスムーズに動かせるようになったもんだ。とは言え、父上や母上はもちろん兄上達にも、ましてはセバスには遠く及ばないけどね。
あの決勝戦の時はそのセバスくらい動かせていた気がするんだけど……。あれ、どうやったんだろうね?
それを再現したくて、ここ数日は魔力操作に力を入れているんだけど、全然思い通りにできない。もっと大量の魔力を一瞬で練れていたんだけど、何をどうやっても再現できないから凄くもどかしい日々だよ。
強くなろうと決意したから余計にね……。
そう言えば、あの時は身体能力も馬鹿みたいに上がっていたけど、あれも良く分からないんだ。あの一瞬だけは絶対にウィルより早く動けていたと思う。
は~、ソフィーをこの危険が多い世界で守り切るにはあれを再現できるようにならないといと思うんだけど、ままならないね……。
まぁ、焦っても出来ないものは仕方ないし、今度帰ったらセバスに聞いてみようかな。
*****
そうして悶々と訓練をしている内に、時間になったのでウィルを起こして、朝食を食べた。食事中はずっと「身体が痛て~」って言ってたから、よっぽど昨日の部活動がこたえている様だね。
その後、午前の講義の為に講義室に向かう。今日の午前の講義は専門科目だけど薬草学だからソフィーやリリーとも一緒だ。
講義室に着いたら、既に座っているソフィー達の元に向かう。
「やぁ二人ともおはよう」「うぃ~っす」
「あ! ウィルくんもギルくんもおはよう。」
「あら、ギルとウィルじゃない。っていうか、ウィルはなんか死んだ魚の目をしてるわよ? 何かあったの?」
ウィルの顔色の悪さが気になったのか、リリーが心配したように聞いてくる。
「いや~、昨日行ったセントリア流槍術部の練習が結構キツかったんだよな。お陰で、体中バキバキだぜ……」
「へ~、あんたでもキツイって相当ね。そう言えば、自治団体の兼務の件はどうなったのよ?」
リリーがウィルの兼務について聞いている。うん、僕もそれは気になったからすぐ聞いたしね。
「あ~、それな。昨日ギルには言ったけど、部活の先輩が武術委員会に兼務で入ってるらしいから、そっちに入ることにした。あんましやることないらしいけどな」
「そりゃ、兼務じゃあんまし仕事任せられないもの。イベントの時の手伝い要員とかでしょ」
「お、よく分かったな。なんかそんなこと言ってたわ」
ギルは昨日、僕に教えてくれたようにリリーに答えている。
「まぁウィルのメインは部活の方だからそっちを頑張らないとね。そう言えば、リリーやソフィーはどうだったんだい?」
「あたしは顔合わせと、活動内容を簡単に聞いた後は、学園内を風紀委員会の先輩達といろいろウロウロして地理の確認をしてたわ。そう言えば、よくイジメがある場所とかに連れて行ってもらったんだけど、ちょうど貴族の子達が平民の子をイジメてたから早速先輩に見本見せて貰ったの! いや~風紀委員会って正義の味方って感じでいいわね!」
「ははは。何かリリーらしいな。ソフィーはどうだったんだい?」
「私も顔合わせだったよ。いろいろ先輩達と話してたら、リリーちゃん達が怪我した先輩達を連れて来たからそこからは治療をしてたけど、その先輩達ってイジメしてた人達だったのね……」
「そーなのよ! あぁいう連中には痛い目を見て分からせないとね!!」
ソフィーの質問にリリーは力強く拳を握って答えている。うん、リリーに風紀委員会は天職だったかもしれないな。
「おっそろし~女だな。爆炎魔術なんて使うなよ?」
「あ、あったり前じゃない! あんた、あたしを何だと思ってんのよ!?」
「ははは」「ふふふ」
ウィルとリリーのやり取りが面白くて、僕とソフィーは笑い合う。
薬草学の講義は、基本的な薬草の種類や採取できる場所についての講義だった。
ソフィーみたいに回復魔術を使える人ばかりだったら必要ないけど、多くの人は市販の回復薬や解毒薬なんかを買って使っている。そして、その材料はその薬草から出来ているので、薬草の見分け方や採取場所を知るのはとても重要なんだ。
ふと横を見ると、今回の講義では知らない内容があるからか、ウィルもリリーもきちんと講義を受けていて、少し感心した。
ソフィーも真面目に講義を受ける二人を驚いたような見守るような顔で見ていて、僕はそんなソフィーを見て癒されていた。
*****
薬草学の講義が終わってから本当の食堂で食事を取ったあと、午後は武術の講義なので、皆で闘技場に向かう。
実は、今日は学年別対抗戦の後の初めての武術の講義なので、少し楽しみにしているんだ。今までは型の練習とかばっかりだったからね。
皆が集まったことを確認してアルメリア先生が学年別対抗戦の開会式でセルオウス学園長が話していた台に登っていくのが見える。
「はーい! 皆集まったかな? 今日の武術の時間は実戦形式で組手をしてもらいます! と言っても、今日は魔術禁止! 普段、後衛に居る子も相手に近付かれた時を想定して接近戦に慣れる必要があるから頑張ること! まずは適当に近くに居る人と戦って、その後は勝ったもの同士、負けたもの同士で戦って行ってね。最後まで勝ち続けるのは誰かな?」
アルメリア先生がニッコリと笑顔で説明する。そして、その説明を聞きながら周りの生徒達の目がギラギラしているのを感じる。もう来年の学年別対抗戦に向けての戦いは始まっているからね。僕も負けていられない。
「おい、ギル。オレ達はもう少し人数が減ってからやるか!」
ウィルは僕と同じことを思ったようだ。
「そうだな。僕もできればウィルとはもう少し後で戦いたいな」
「おぅ!じゃあまたな!!」
そう言って、ウィルは別の生徒の方に駆けて行った。僕も頑張ろう。
その後、近くに居た生徒と戦いながら3回勝った。計算上は3連勝しているのは12人くらいしかいないはずだ。そろそろ魔術なしだと厳しくなってくるな。
と、そこに紺色の髪をなびかせて昨日ぶりの生徒が颯爽と歩いてくる。
「やぁ、ギル。手合わせ願おうか」
「あぁ、レイ、やろうか」
レイと向かい合う。どうしようかと思ったけど、レイは受け主体なのでこちらの出方を窺っている。じゃあ、行こうかな。
「ふっ」
僕は最短距離で突きをしたけど、それをレイは軽々と受け止めた。
「おっ、意外にいい突っ込みじゃないか。でもそんな直線的な攻撃は僕には効かないよ」
レイの言葉通り、その後の攻撃もきっちりと対処される。しかも途中でフェイントとか入れてみたけど全然無駄だった……。
「なかなかいい動きじゃないか。君は魔術主体で武術はそこまでだと思っていたけど、僕も見る目がない」
「ふん、全ての攻撃をきっちりと受け切っているヤツに言われると嫌味にしか聞こえないぞ」
「ははは。僕も伊達に訓練していないということさ」
そんな会話もしながら戦うけど、なかなか突破口が見えない。しかも向こうはちょくちょく反撃してきてて、それを捌くのが結構キツイ。仕方ないから少し賭けに出てみるか。
数度目のレイの反撃が来たタイミングで少しよろけてみる。
「おっと、隙ありだね!」
「ふっ」
僕はそのタイミングで体を反らしてレイの反撃を紙一重でかわして、その態勢のまま剣を横なぎに振るった。これで勝ちだ!
バキン!と剣がぶつかる音がする。
「嘘だろ……」
「なかなか、いい動きだけど、まだまだだね」
僕の奇襲はしっかりとレイに止められていた。剣の返しの速度が尋常じゃないと思うんだけど……。
僕は態勢を崩したまま剣を振ったので、その後のレイの攻撃に対応できる訳もなく負けてしまった。やっぱりこの学園はレベルが高いな。
「流石、レイだな。完敗だよ」
「ははは。魔術なしの組手で負けるわけには行かないな。でも楽しかったよ、またやろう」
「あぁ、今度は一撃入れれるように頑張るよ」
そう言って、レイと別れる。
ふと視線を移すと、向こうでガッツポーズをしている親友の姿が見えるので、あいつは勝ち進んでいるんだろう。相変わらず接近戦だと負けなしだな……。
勝っているのはウィルやレイの他には、身体能力測定でトップだったリーオンやノーマンダス代表のドワーフの男子生徒達が残っていそうだな。
この中の誰が最後まで勝つのか凄く興味がある。
もちろん、できればウィルに勝ってもらいたいけどね。
お読みくださってありがとうございます。
長くなってきたので一旦区切りました。
こういう日常みたいなのを面白く書くのって難しいですね……。
読者の皆様を飽きさせず、楽しませることができる内容にできるように日々努力します!
さて、相変わらず拙い文章ですが今後も引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。




