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エピローグ 疑惑

 

 ここはセントリア魔術学園のとある一室。部屋の中には本棚がいくつもあり、その一つ一つに本がびっしりと敷き詰められている。この世界での本は全てが一点物なので、ここにある一冊一冊は全てが高級品である。


 そんな本棚がたくさんある部屋の奥に大きめの机があり、その上はきちんと整理整頓されていて、この部屋の主の性格を端的に語っている。


 今、この部屋に居るのはその主と小柄なドワーフの女教師のみ。


「アルメリアよ。其方をここに呼んだ理由は分かっておるかの?」


「はい、セルオウス様。ギルバート・ウォリスの事ですね?」


 この部屋の主であるセルオウス・フリンティアと1年生の担任のアルメリア・エレインが話を始めた。どちらも顔は真剣そのもの。これからの話題がとても重要な内容であることが明白だ。


「うむ。霧魔術で多くの者達は気付いていないと思うが、あの気配は間違いなく鬼人のものじゃった。それは近くで見ていた其方が一番分かっておるじゃろう」


「はい、角は通常の鬼人よりも小さくて、よく見ないと分からない程でしたが、あの気配は間違いなく鬼人でした。それで、セルオウス様はこの件について確認されたのですよね? どうだったのでしょうか?」


 アルメリアはとても不安そうで、そんなアルメリアの言葉を受けてセルオウスは深く溜息を吐いてから話し始める。


「まず初めに言っておくと、真偽は定かではない。ただ、儂がウォリス伯爵に直接話を聞いた限りでは、彼は0歳の時からずっとウォリス伯爵領で生活しておる。そして、今までの成長を見る限り、性根の優しい、とても優秀な子供として育っておるそうだ」


「…そ、それでは彼は、我々の()ではない、ということでしょうか?」


 セルオウスの淡々とした説明を受けて、アルメリアは不安が溢れる表情でセルオウスに恐れていた事態にならないかを確認をする。


「恐らく、としか言えないのが辛いのぉ」


「それでは、私はこのまま彼を生徒として扱っていいということで宜しいでしょうか?」


 アルメリアは安堵したような、それでも安心できないような何とも言えない顔で続けて質問をする。


「うむ、普通の生徒として接して上げて欲しい。実際、今回の件で一番衝撃を受けていたのはウォリス伯爵家側じゃったわ。あちらとしても今回の件は想像の範疇を超えておったらしいの」


「そ、そうだったんですか。知らなかったのなら、それは想像を絶する程の驚きだったでしょうね」


「そうじゃな、ウォリス伯爵はある程度覚悟しておったのか直ぐに冷静になったが、妻のエヴァは終始泣き崩れておったわ」


 セルオウスがウォリス伯爵との会話の時の様子を語る。


「ウォリス伯爵にの、あの子はウォリス伯爵家の一員だから責任は全て自分が持つので普通の生徒として扱って欲しいと頭を下げられてのぉ。彼奴にそこまで言われたのは初めてじゃから少々驚いたものじゃよ。彼は愛されておるの。幸い、本人には自覚もなさそうじゃし、意図してあの状態になったわけではなさそうじゃな」


「そうですか。では、一教師の私はその方針に従わせていただきます」


「うむ、頼んじゃぞ。それと、この件はとてもデリケートな問題じゃ。今、ウォリス伯爵がハウゼル王国内で根回しをしておるじゃろうが、うっかり広がろうものなら大変なことになる」


「はい、承知しています。彼と対戦していて、その瞬間を見たクロエさんには予め、この件は内密にするように話しています」


「流石じゃ。彼女も怖い思いをしておるはずじゃから気にかけてやってくれ」


「ちゃんと心得ていますよ」


 この頃にはアルメリアの表情は落ち着きを取り戻して、生徒達を思う慈悲の心が滲み出ている。


「うむ、他の教師陣には儂から伝えておこう」


「はい、お願いします」


 そうして二人の会話は終わり、アルメリアは部屋を後にする。残ったセルオウスは椅子に深く座り天井を見上げて溜息を吐く。


「それにしても鬼人とは…。儂達が守ってやらないとのぉ…」


 その言葉を聞くものは誰もいない。ただ、今後様々な問題が降りかかるであろう一人の男子生徒の為に人族最強クラスの男が深く決意をした瞬間だった。



お読みくださってありがとうございます。


明日投稿できるか分からなかったので、本日投稿してしまいます。


これにて1章は完結です。

これまでお付き合い下さいまして本当にありがとうございました。


2章の開始時期はまだ決めていません。

本作が初めの執筆でちょっと心身ともに疲れてしまったのでとりあえず数日はお休みを貰います。



それでは再三になりますが、ここまで本当にありがとうございました!

引き続きセントリア魔術学園物語を応援して頂けると嬉しいです!!


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