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1-21 再会

 

 4年生の試合が終わり優勝したウィルディネアの二人に向けて歓声が止まない。あの不愛想なアリス生徒会長が観客席に向けて小さく手を振っているから尚更だな。


 そんな中、僕達サラザーヴァの席には淀んだ空気が漂っている。


 4年生の中には泣いている先輩もいた。たとえ代表に選ばれなかったとは言え、ここまで一緒にやって来たオルフィス副生徒会長達に対して心から期待して、応援していたのだろう。


 そんな先輩達の姿を見ると僕も辛い気持ちになってくる。


「凄い試合だったな~」


 隣のウィルが問いかけてくる。


「そうだね。凄くレベルの高い戦いを見せて貰ったよ。でも、できればオルフィス副生徒会長に勝ってもらいたかった…」


「だな」


「あたし達も頑張らないとね!」


 リリーがもう今後に向けて決意を新たにしている。隣でソフィーも頷いている。本当に女の子達は切り替えが早い…。


「うん。もっと頑張って、先輩達みたいになりたいな」



 そんな会話をしていると闘技場の下の方にアルメリア先生が歩いているのが見えた。


「え~、生徒のみなさん!」


 アルメリア先生の声が大きく聞こえる。まるでマイクで喋っているみたいだな。


「2日間、お疲れ様でした! 今から1時間後に閉会式を行うので、それまでに開会式の時と同じように寮ごとに並んでください!」


 その言葉を聞いて、観客席の生徒達はゾロゾロと動き出した。




 *****



 閉会式に向けて並んでいると、オルフィス副生徒会長達が4年生の集団に合流するのが見えた。


 その表情は晴れやかで、今回の負けをもう引きずっていない様に見える。


 パッと目が合い僕が会釈するとオルフィス副生徒会長は手を挙げて応えてくれた。



 アルメリア先生のアナウンスから間もなく1時間が立とうとした所で、開会式の時と同じようにセルオウス学園長が台の上に登っていく。


 台の上に立ち、生徒達を見渡すと穏やかな表情で語り始めた。


「諸君、この2日間、本当によう頑張ったの。代表に選ばれた生徒もそうでない生徒も一丸となって戦った対抗戦じゃったと思っておる。さて、やり切った生徒も悔いが残った生徒もいたじゃろうが、試合は全て終わりじゃ。これから順位と各寮へのポイントについて発表したいと思う」


 そこまで言うと、セルオウス学園長は再び生徒達を見渡す。


 僕達は、セルオウス学園長が話し始めるのを今か今かと待っている。


「まず、順位じゃな。これはもう分かっておると思うが、我慢して聞くんじゃぞ」


 確かに順位は各学年の結果が分かれば改めて聞くまでもない。ただ、僕は2年生と3年生の結果が分からないから、凄いドキドキする。どうなったんだろう?


「まず、1年生からじゃ。優勝はノーマンダス!」


 その言葉を受けてノーマンダスの生徒達が一斉に歓喜の声を上げる。僕はそれを聞きながら、悔しさに拳を握りしめていた。


「2位、サラザーヴァ!」


 今度はサラザーヴァの生徒がはしゃぐ。僕達に向けて先輩や同級生達がおめでとうと声を掛けてくれる。それはありがたくて嬉しいけど、やっぱり悔しくて…。そのせいで僕達のありがとうの言葉はとても硬かったと思う。


 その後、3位がウィルディネア、4位がシルファリーと発表された。


 そして、2年生は1位シルファリー、2位ウィルディネア、3位サラザーヴァ、4位ノーマンダスとなり、3年生は1位ウィルディネア、2位ノーマンダス、3位サラザーヴァ、4位シルファリーだった。


 4年生は見た通り、1位ウィルディネア、2位サラザーヴァ、3位シルファリー、4位ノーマンダスとなった。


 それぞれ発表される度に、各寮の生徒達が騒ぐからここまででも結構時間が経っている。



「さて、最終順位と得点の発表じゃ。今年は、1位以外は大接戦じゃったな。最終順位は後ろからいこうかの。4位シルファリー。まだまだ今年は始まったばかりじゃから、よう励むのじゃぞ」


 4位の発表があったけど、シルファリーの生徒達はガッカリした感じでほとんど言葉がない。


「3位、ノーマンダス。100ポイント!」


 ノーマンダスの生徒達はシルファリーよりは、と言う程度の盛り上がりだ。クロエ達が1位だったけど最終順位は3位か。ということは…。


「2位、サラザーヴァ。200ポイント!」


 その瞬間、ワーっ、という歓声がそこかしこから聞こえる。ここ数年の底辺からの脱却にサラザーヴァの生徒達が歓喜の叫びをあげる。


 僕達も一緒になって歓声を上げる。


 前の方ではオルフィス副生徒会長達が見えるが、本当に嬉しそうだ。


 そして、1位はというと…。


「1位、ウィルディネア。400ポイント!!」


 ウィルディネアの生徒達が一斉に勝利を喜び叫ぶ。


 今回はウィルディネアの強さが際立つ結果となった。1年生以外はどの学年も決勝戦に行っているからビックリだね。ゼルグスはあのプライドの高さだから相当悔しがっているだろうな。



 ひとしきり盛り上がった後、セルオウス学園長が生徒達を鎮めるために手を挙げている。


「静粛に」


 その一言で生徒達は静かになっていく。


「皆、よく頑張ったことじゃから、今日は豪華な食事を用意しておる。各寮の談話室で先輩後輩の垣根を超えて親睦を深めてほしい。さて、積もる話もあるじゃろうし、儂の話はここまでじゃな。それでは、これにて学年別対抗戦は終了じゃ!」


 セルオウス学園長の閉会の言葉で皆が解散していく。




 *****



 セルオウス学園長の言う通り、夕食は豪華で、談話室のテーブルに色とりどりの料理が並べられており、椅子は片付けられていて立食パーティーの形式となっていた。


 オルフィス副生徒会長が初めに挨拶をして、ひと盛り上がりした後で食事が始まった。


 ウィルは真っ先に肉料理に手を出してガツガツ食べている。ホント、こいつは肉しか食べないな…。


 そんなウィルをからかいながら、僕もソフィー達も料理を食べる。一品一品がとても手が込んでいて、どれも本当においしい。



 その後、同級生だけでなく、いろいろな先輩と話しをした。皆、2位という結果に喜んでいる様で、終始盛り上がった。


 オルフィス副生徒会長とも話したけど、寮全体として善戦できたことが本当に嬉しかった様子だった。そんなオルフィス副生徒会長を見ていると、僕達も嬉しくなった。


 同級生達からは賞賛も受けたけど、来年は自分達が代表になるからなという挑戦的な言葉が多くて、負けていられないと思ったものだ。


 ウィルはしばらく肉料理を食べた後は、他の男子生徒と盛り上がっている。



 料理もだいぶなくなってきた頃、オルフィス副生徒会長が声を上げた。


「皆聞いてくれ! この2日間、本当にありがとう! 僕自身、悔しい思いもしたけど、サラザーヴァとして2位という結果は本当に嬉しい。まだ今年初めのイベントだから気は抜けないけど、この調子で頑張って行こう!」


 オルフィス副生徒会長の言葉を受けて皆が一斉に歓声を上げる。


「さあ、だいぶ時間も経ったけど、夜はこれからだよ! 明日は休みだから今日はどこの寮も遅くまで騒いでいるだろうしね! ただ、これだけは言わせてくれ、皆、本当にありがとう」


 それだけ言い終わるとオルフィス副生徒会長が深く礼をしている。そして、会場の拍手は鳴りやまない程、長く続いた。


 この人が寮長で本当に良かったな。



 その後、再び騒がしくなって来たけど、何となく外の空気が吸いたくなって、僕は一人でこっそりと外に出た。


 外は月明りしかないが歩く分には困らない程度には明るい。寮の裏手はほとんど人が居なくて、僕はベンチに腰掛けた。


 上を見上げると星空が本当に綺麗で、これは前世を含めてどこの世界でも同じなんだなとか思ってしまう。


 しばらく星を見ていると、ふと人の足音がだんだんと近づいて来る。誰だろう?と思ってそちらを見るとソフィーがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。ただ、その顔は心なしか不安そうだ。


「どうしたのギルくん、まだ体調が悪いの?」


 どうやら体調を気にされていたようだ。まったく情けないやら、恥ずかしいやらで微妙な表情になってしまう。


「いや、少し外の空気が吸いたくなってね。体調はもう大丈夫だから心配しないで」


「よかった。なんかギルくんが居なくなってたから心配になっちゃって…」


 そういうと、ソフィーは僕の隣にちょこんと座った。ソフィーを見ていると、安心するけど、決勝戦で守ってあげられなかったことを思い出して苦しい思いになる。


「決勝戦はごめんね。僕の判断ミスで皆に悪いことしちゃったよ」


「ううん、そんなことないよ。お昼も言ったけど、皆が一生懸命やった結果だから誰もギルくんを攻めてなんていないよ」


 そうなんだけど、そうなんだけどね…。僕は君を守りたかったんだ。もうあんな思いはしたくないんだ…。


 僕は自分の感情がぐるぐると渦を巻いているのを抑えることができない。


 優しい言葉を掛けられると余計に苦しい気持ちになってしまう。


「ありがとう、ソフィー。でも僕は()()君を守れなかった…」


「また?」


 し、しまった!!


「い、いや、なんでもないよ。気にしないで、ははは」


 笑って誤魔化そうとするけど、なんかソフィーがこちらを凝視している。しかも何か凄く目を見開いているんだけど!


「ねぇ、またってどういう事? 私達、この学園で初めて会ったよね?」


 お、おぅ、なんかソフィーがぐいぐいと来る。これはもう誤魔化せないかな…。


「わ、笑わないで聞いてくれよ」


 ソフィーがぶんぶん頷いている。


「は~、実は僕には前世の記憶があるみたいなんだ。その世界はこことは違う所で、とても文明が発展していてね。でも、僕はその世界で最後に妹と一緒に死んじゃったんだ。その妹とソフィーが重なっちゃってね。また守れなかったなって…」


 そこまで言うと、ソフィーが目に大粒の涙を浮かべている。相当驚いているのか、口元を手で覆い隠している。


 まさか…、まさか!?



「実は、わ、私も同じ記憶があるの…」


 その言葉を聞いて、僕は唖然としてしまった。


 僕だけじゃなかった…。僕だけじゃなかったんだ!



 それからは言葉はいらなかった。


 僕達はどちらからともなく抱き合っていた。お互いに目に大粒の涙を浮かべて。


「もう絶対に離れ離れになんてならない。今度こそ僕は君を守るよ」


「うん、うん!」


 もう絶対に別れない。何があろうとも絶対にこの子を守るんだ。


 この世界は前世のように安全じゃない。魔物もいるし、魔族達とは戦争中だ。でも絶対にソフィーだけは守って見せる。


 僕は強く、強く決意した。もう絶対にソフィーを危険に晒させることはしない。


 強くならないと…。





 ####################



 二人が感動の再会を果たしている時、事情を知らない二人組が遠くからその様子を覗き込んでいた。


「あわわわわ、こ、恋だわ!」


 一人の女の子が声を抑えて叫んでいる。


「お、おぉ、ギルのヤツ、抜け目ね~な~」


 一人の男の子が親友の様子に言葉にならない驚きを表している。


「いい! このことはあたし達だけの秘密よ!!」


「わ、分かってるって! でもオレ達がからかう分には…」


「えぇ、もちろんよ」


 覗き見している二人はニヤニヤしながら感動の再会をした二人を見守っている。


 この後、この覗き見をした二人に散々とからかわれて必死に言い訳をすることになるのだが、それはまた別の話。



お読みくださってありがとうございます。


やっと再会を果たしました!!

ここまで長かった…。


1章はあと少しだけありますが、これでほぼ終わりです!

後は2章に向けた布石みたいな感じですかね。



さて、相変わらず拙い文章ですが今後も引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。


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