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1-20 学年別対抗戦 因縁対決


 痛い…、怖い…、死にたくない…。なんで僕達が死なないといけないの? 何にも悪いことしてないよ。それどころかお父さんとお母さんの言うこともよく聞いていたし、妹の為に頼れる兄貴になろうと頑張ってたんだよ?


 嫌だ、嫌だ、嫌だ…。


「お兄ちゃん、怖いよ…。死にたくないよ…」


 妹の声が聞こえる。安心させてあげないと。もうすぐお父さんとお母さんが帰ってきて、僕達を助けてくれるはずだから。


 だから、僕がしっかりしないと。


「●●●、大丈夫だよ…、もうすぐお父さん達が帰って来てくれるよ…」


「うぅ…、嫌だよ…」


 もう思い出せない妹の名前を呼び、大丈夫と励まそうとするけど、僕の声は小鳥の囀りのように小さく、余計に妹を不安にさせてしまう。


 妹は目に涙を浮かべて僕の手を握り締めてくるけど、僕の力はどんどん弱くなっていく。多分、机や棚に潰される直前に妹を庇おうとしたからだろうな。


 あぁ、だんだん意識が朦朧としてきた…。


「やだっ! お兄ちゃん!」


 朦朧とする意識の中で、泣きながら精いっぱい声を出している妹がぼんやりと見える。


 もう声が出ない。こんなのあんまりだ…。


 神様、助けて。お父さん、お母さん…。


「うぇ~ん、ひっ、ひっ、嫌だよ~、一人にしないでよ~」


 …ごめんね、もうダメみたいだ。


「お兄ちゃん、待っててね。私もすぐ行くから。…大好きだよ」


 薄れゆく意識の中、僕は最後に思った。



 あぁ、僕も大好きだ。



 ・

 ・

 ・



 意識がだんだんと覚醒していく。


 前世の最後をここまでしっかり見たのは初めてだな。そのせいか、僕の目元には涙が滲んでいた。


 ゆっくりと目を開けると、そこにはソフィーとリリーが僕を覗き込んでいる。すぐ後ろにはウィルがいる。…ここは医務室かな?


「ギルくん!」

「ギル!!」


 ソフィーとリリーが声を荒げる。後ろでウィルも安心したように溜息を吐いている。


 どうやら、僕は皆を相当心配させていたらしい。


 でも、どうしてこんなに皆が焦ってるんだろう?


「控え室に転移して来たと思ったら、意識がないまま倒れ込むんだもん。ホントに心配したんだから。それにさっきからうなされてたからビックリしちゃった…」


 ソフィーが目に涙を浮かべながら声を掛けてくれる。どうやら無理が祟って意識を失っていたらしい。情けない…。


「ごめん、ちょっと無理したから意識を失ってたみたいだね。僕はどれくらい寝てたの?」


「4時間くらいよ。もうお昼休憩も終わって今は3年生の試合をしているところよ。1年生は知っての通りノーマンダスが優勝ね」


 リリーの回答を聞いてびっくりした。そんなに意識を失っていたのか…。


 しかも1年生の決勝は惨敗だもんな、本当に情けない…。


「皆、ごめん。僕の作戦は完全に読まれていたみたいなんだ。僕の霧魔術で皆を危険に晒してしまったね。本当に申し訳ない…」


「何言ってんだよ! 誰もギルのせいだなんて思ってねーって!!」


「そうよ! あたし達皆で負けちゃったんだから、来年こそはリベンジよ!!」


 ウィルとリリーが励ましてくれる。隣でソフィーが大きく頷いている。


 ダメだね、しっかりしないと。うん、今回は負けちゃったけど、次こそ勝てる様にこれから鍛え直さないとな。


「皆、ありがとう。いろいろ課題の残る試合だったから今後に生かさないとね。さぁ、僕はもう大丈夫だから先輩達の試合を見に行こうか」



 僕は医務室の職員に問題ないか診てもらって、心身共に異常がないというお墨付きを貰った後、皆で観客席に向かうことにした。とは言え、まだ体は若干痛むけど動け程ではない。




 *****



 なんだかんだ時間が掛かったからか、3年生の試合は終わっていて、4年生の3位決定戦が始まっていた。4年生の3位決定戦はノーマンダスとシルファリーの試合で、シルファリーの攻撃的な連携でノーマンダスを翻弄している。


 僕達は観客席の後ろの方で観戦することにした。


 試合は序盤からの優位が変わらず、そのままシルファリーが3位となった。


 やっぱり4年生は動きが全然違うと思う。一人ひとりの技量が高いし、それでいて連携もしっかりしている。


 僕達ももっと頑張らないとな。




 ひとしきり歓声が落ち着くと、オルフィス副生徒会長達が動き出す。さぁ、このイベントの最後の試合だな。


 オルフィス副生徒会長は僕達を見ると、驚いた表情をしたけど、すぐにいつもの穏やかな顔に戻ってこちらに歩いてくる。


「やぁ、もう体は大丈夫かい? 意識がないって聞いて心配していたんだよ」


「心配をお掛けしてしまいすみませんでした。はい、もう大丈夫です」


 どうやら先輩達も心配させてしまった様だ。


「そうかい、それは良かった。それにしても君達の決勝戦は残念だったね。こちらからは霧の中の戦いの様子は何となくしか見えなかったけど、クロエも傷を負っていたし、もう少しだったんだろう?」


「はい、クロエはあと一歩だったんですけど、力不足でした。サラザーヴァ代表として優勝したかったのですが…」


「まぁ、君達はまだ1年生。これから頑張ればいいよ。僕達はこれが最後だから絶対に勝つけどね」


「はい、頑張ってください」


 僕達はしっかりと握手をして、オルフィス副生徒会長を送り出した。


 先輩達はこれが最後の学年別対抗戦だから意気込みが凄い。


 4年生の決勝戦が始まるまで、サラザーヴァの同級生達が声を掛けてくれる。優勝できなかったことを攻める声はなくて、皆が惜しかったな、とかよくやった、とか励ましてくれる。


 僕は、次こそはこのサラザーヴァの代表として勝ちたいと心の底から思った。




 *****



 4年生の決勝が始まろうとする中、代表者たちが主審の先生を挟んで並んでいる。


 オルフィス副生徒会長がアリス生徒会に何か話しかけているのが見える。多分、今年こそは勝つよ、とか言っているんだと思う。


 対するアリス生徒会の反応は芳しくなく、あまり興味なさそうな感じで何か喋っている。


 オルフィス副生徒会長がニコニコしているからそんな変なことを言っている訳じゃないと思うけど、ホントにアリス生徒会は反応が薄いなと感じてしまう。



 4年生の主審が生徒達に言葉を掛けて、4年生達が頷いている。始まりそうだ。



 次の瞬間、お互いに一気に距離を取って臨戦態勢になる。ここからでも4年生の皆が魔力を練り上げていて、すぐにでも魔術に展開しそうなのが分かる。


 ウィルディネアの4年生は決勝では皆で戦う様だ。予選ではアリス生徒会だけが動いていて、実際それで事足りてしまっていた。


 アリス生徒会の前に二人、後ろに一人が三角形の配置になり、真ん中にアリス生徒会が来るようにしている。


 あの三人でオルフィス副生徒会長からアリス生徒会を守るつもりなのだろう。


 この試合、開始直後が最大の山場になりそうな気がする…。



 主審の先生がそれぞれの生徒を見渡している。そして遂に。



「始め!!」


「クイックサンダー!」

「ツリーシールド!」


 なんとオルフィス副生徒会長はクロエが使っていたクイックサンダーで先制してきた。そして、ほぼ同時にアリス生徒会の前に居た男の先輩が木魔術で大きな盾を作ってクイックサンダーを防ぐ。


 凄くハイレベルな攻防だ。


 そのすぐ後に、オルフィス副生徒会長は自分に瞬雷魔術を掛けたのだろう、体から魔力が迸っている。


 そして、サラザーヴァの後ろ二人の先輩一緒に。


「「ヘイスト!」」


 オルフィス副生徒会長にヘイストを重ね掛けして一気に勝負を掛けに行くつもりのようだ。


 ただ、直後、アリス生徒会の前に居るもう一人の男の先輩が水魔術を使う。


「リップル」


 その魔術は、派手さは全くなく、その先輩を中心に水の波紋が戦場全体に広がっていくように穏やかな魔術だった。


 次の瞬間、オルフィス副生徒会長が瞬間移動の様に一気にアリス生徒会の方に向かって行くのが薄っすら見えたが…。


「!!」


 オルフィス副生徒会長が驚いた顔をしている。


 それもそのはず。あんなに一気に加速したのに、水魔術を使った先輩はオルフィス副生徒会長が動くより早く回り込んでいて、オルフィス副生徒会長の剣を受け止めている。


 あの魔術は見たことがないけど、恐らく相手の動きを察知することができるのだろう。


 完全にオルフィス副生徒会長対策の魔術だと思う。


 その後、何度もオルフィス副生徒会長が高速で移動しながらアリス生徒会に向かおうとするけど、ことごとく水魔術を使った先輩に先回りされていて攻めきれない。


 もうレベルが高すぎて意味が分からないな…。


 しかし、オルフィス副生徒会長は流石で、直ぐに落ち着きを取り戻し、純粋な剣技で水魔術を使った先輩を圧倒し始め、数合打ち合ったところで隙をつき、首筋を切りつけてその先輩を退場させていた。


 観客がどよめく。



 しかし、時間稼ぎの役目はしっかりと果たしたようで、遂にアリス生徒会が動き出した。


「スロウ」


 アリス生徒会が氷影魔術を使うとオルフィス副生徒会長動きは目に見えて遅くなった。そして会場全体もアリス生徒会の魔術の余波か、一気に温度が下がったように感じる。


 しかし、この展開は毎年なのだろう、オルフィス副生徒会長は全く焦ったように見えない。


 そして、驚くことに…。


「サンダーレイ!」


 ドン、バリバリという発砲音を出しながらアリス生徒会に向けて迅雷魔術を放つ。いつ魔力を練りこんだのかよく分からなかったけど、恐らく水魔術を使った先輩と切り合っていた時に片手間に魔力を練っていたのだろう。凄すぎる…。


 その迅雷魔術を初めに木魔術を使った先輩がツリーシールドでガードしようとするが、余波で固まってしまう。


 そして、その隙にオルフィス副生徒会長が剣でその先輩を退場させている。いくら動きが遅くなっているといっても、十分すぎるほど早い動きだから可能な芸当だな。



 ここまではサラザーヴァ優勢に見える。このままいけるか!と思った所で…。


「ジ・スロウ」


 なんと、さらにアリス生徒会が氷影魔術を重ね掛けする。これって多分凄い高度な魔術だと思う…。


 こうなると、流石のオルフィス副生徒会長も普通の生徒くらいの動きになってしまう。

 ここまでされてやっと普通の生徒くらいってそれでも十分凄いけどね。


 ただ、ここまで遅くなるとアリス生徒会と後ろに居たもう一人の先輩の二人で抑え込まれてしまう。


 そして、アリス生徒会が後ろに下がった所で。


「アイスレイン」


 アリス生徒会が氷の槍を雨の様に大量に放つ。あまりの物量に観客席の生徒は言葉を失っている。かく言う僕も呆然とその景色を見ていた。


 あまりの量に、流石のオルフィス副生徒会長も防ぎきれずに何発か重症になる攻撃を食らってしまっている。


 その表情は本当に悔しそうで、あと一歩だったのに!という心の叫びが僕達の所まで聞こえて来る様だ。僕も胸が締め付けられる思いになる。多分サラザーヴァの皆が同じ気持ちだと思う。



 そして、あそこまで善戦したオルフィス副生徒会長も遂に退場してしまった…。



 その後は、やはり一方的な試合になった。


 最後に立っていたのはウィルディネアの二人で、4年生の1位は因縁の対決を制したウィルディネアとなった。



お読みくださってありがとうございます。


すみません、遅くなりました。


4年生はやっぱりアリス生徒会の勝ちです。

世の中そんなに甘くないですよ(笑)


さぁ、あとは章タイトルを回収しに行きますよ!

やっとここまで来た…。



さて、相変わらず拙い文章ですが今後も引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。


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