1-19 学年別対抗戦 1年決勝戦 (2)
クロエの表情は気になるが、もう霧魔術を掛けてしまっているので引くに引けない。
僕は影魔術でクロエの背後に移動しようと準備をする。影魔術は闇属性の魔術で、影から影に移動したり、影の分身を作ったりできる魔術であまり汎用性はないが、霧魔術で視界を悪くしている状態なら、これほど奇襲に優れた魔術はないと思う。
影移動をするには、あらかじめ対象の影にマーキングする必要があり、その為には相手にある程度近付く必要があるけど、試合開始直前に並んだ時にこっそりとマーキングしておいたんだ。
僕は影魔術の分身を作ってあたかも僕がここに居る様に意識をさせておいて、自分の影からクロエの影に向かって移動しようとするが、そこである違和感に気づいてしまった。
霧魔術でクロエの魔力に干渉して妨害しようとしていたけど、その妨害に対して、無理やり魔力を練りこんでいっているのを感じる。そう、まさに力業。通常より多い魔力を練りこんで妨害に対抗している。
くそっ、僕の力量ではクロエの魔術を抑えきれない。あの魔術が完成する前にクロエを叩かないと!
そう思い、改めて影魔術を使おうとした瞬間…。
「クイックサンダー」
「なっ!?」
クロエは通常より魔力の消費が悪いし、威力もかなり下がるが、展開速度だけは早いクイック系の魔術を使ってきた。クイック系は、その魔術について精通していないと使えないはずなのでクロエの迅雷魔術の力量は僕の予想より上だったことになる…。
直前に魔術を感じ取った僕は回避しようとしたけど、クイックサンダーの狙いは僕ではなく、後ろに居るソフィーとリリー達だった様だ。
まずい! まだ開幕直後だから二人ともそんなに後ろに下がれていないはず。
パン!という発砲音のような音が鳴ったと思った瞬間、パリパリという乾いた音が鳴り響く。
「キャー!!」
「キャッ! リリーちゃん!!」
くそっ! リリー達の声だ。リリーに直撃してしまった様で、ソフィーはすぐ近くにクイックサンダーが来たから相当驚いている。ソフィーだけでも無傷ならいいけど…。
僕は霧魔術の影響でリリーの魔力が消えて行く事を感じていた。
「リリー!! くそっ! ウィル、ソフィー、早く移動するんだ! あの魔術はすぐ二発目が来るぞ!!」
「おぅ!」
ウィルが返事をする。うん、ウィルが一気に斜め後ろに移動しているのを感じる。
ただ、ソフィーが全然移動しない。まずい、余波を食らったか!?
「ソフィー、どうした!?」
「ごめん、身体が痺れてうまく動けない…」
「くそっ! これ以上はやらせない!!」
僕は一気に影魔術でクロエの背後に移動する。ここでクロエを叩かないと絶対に負けてしまう。
そして、クロエの影から出て背後から奇襲を掛けようとしたところで…。
「なっ!?」
なんと、クロエの前後に盾を持った双子が密着して守っているじゃないか。僕の剣は後ろに居る方の盾使いにしっかりと止められてしまう。
「奇襲を掛けて来ることは初めから分かっていたわ」
クロエが静かに言った。やはり読まれていたか…。
そこから僕は双子の盾捌きによりクロエから一気に距離を話されてしまう。その間にクロエの魔力が高まっていく。僕の妨害なんて意味をなさないと言わんばかりに…。
そして、無情にも2発目が放たれる。
「クイックサンダー」
狙いは正確にソフィーの居るあたりだ。ソフィーは全く動けずにいる。
「ソフィー!」
僕はソフィーの名を叫ぶ。
「うぉー!!」
そこに、なんとウィルが瞬雷魔術で動けないソフィーを助けに行っている。頼む間に合ってくれ!
「くっ!」
ウィルはソフィーを突き飛ばしたが、代わりに自分がクロエのクイックサンダーを食らってしまっている。
「ウィル!」
ウィルの魔力が一気になくなる。こんなに一方的な展開になるとは!
僕は必死にクロエに近付こうとするが、双子の盾使いに加えてドワーフの男子生徒まで守りに来たので、全く近付くことができない。この三人、霧魔術で視界が悪いから僕に密着した状態で全然離れさせてくれない。
クロエさえ倒せればまだ何とかなる。そう思うが、守りに徹した3人の鉄壁具合は想像を絶する硬さで、霧魔術で視界が悪いのに全く隙がない。この状況で影魔術なんて全く使う余裕がない…。
そうして、攻めあぐねている間にクロエの魔力はどんどん高まっていく。恐らく、ソフィーの位置が大まかにしか分からなくなったのと、僕が全く近付けないので、じっくり魔力を練っているのだろう。
このままだと予選の時に見せたサンダーを撃たれてしまう。そうなるとソフィーまで退場する可能性が高い…。
できればソフィーを助けに行きたいけど、ここまでの展開になると予想しきれていなかったので、ソフィーの影にマーキングできていないからすぐに助けに行けない…。
こうなったらと、僕は一旦3人から距離を取る為に一気に後ろに下がった。ある程度クロエから離れているので、これで一気に影魔術でクロエに接近できればと思ったんだが。
「シル!ニル!」
ドワーフの男子生徒が盾使いの双子の名前を呼び一気にクロエを守りに行こうとする。
くそっ! クロエの所に戻られる前に影魔術で一気に行くぞ!
僕は急いで魔力を練るが、少し、遅かった…。
「サンダー」
クロエがサンダーを使う。ドカン!バリバリバリ、と先ほどのクイックサンダーの比ではない音が鳴り響く。
「ソフィー!!」
僕の叫びも虚しく、ソフィーは悲鳴すら上げることができず退場させられてしまおうとしている。
その瞬間、前世の最後の瞬間が鮮明に蘇る。妹と二人で机や棚に押し潰されて苦しんでいる瞬間だ。
「お兄ちゃん、怖いよ…。死にたくないよ…」
妹が僕を呼びながら恐怖と戦っていて、僕は意識が朦朧とする中、妹を何とか安心させようと、か細い声で大丈夫だとずっと言っている。
もう、もうあんな思いはしたくない…。
そう思うと、体が熱くなってくる。絶対にもう別れないと誓ったのに、ソフィーを守ることができなかった。
僕は自分の感情を抑えることができず、魔力がグチャグチャになっていくことを止めることが出来ない。体もどんどん熱くなっていっている。
激しい焦りと怒りと、そして恐怖が僕の心を埋め尽くしていく。
そして、僕はグチャグチャの思考の中、一気に影魔術でクロエの元に向かった。それは今まで体験したことがないくらいの魔術の展開速度で、体は沸騰しているのかと思う程に熱くなっていていつもより力が入る。
試合に勝ちたいとか、そんな思いはもうなく、…ただただクロエを殺すという殺意しか湧いて来ない。
次の瞬間、僕はクロエの背後に移動していた。他の3人はまだ間に合っていない。
「クロエ様!!」
ドワーフの男子生徒が叫ぶが、もう遅い。お前達がやったように今度は僕がお前達を殺してやるよ。
真っ黒な感情が僕を支配していて、剣を握る手に力が入る。
クロエは驚いた顔をしてこちらを見ている。ここまで早く来ることは想定できなかったのだろう。
さあ、終わりだ!!
そう思い腕を振り下ろそうとした時、体中に痛みが走った。
…どうやら今の僕には限界以上に動いた反動が出ている様だ。ただ、あとは腕を振り下ろすだけ。
そう思い、剣を振り下ろすが、あまりの激痛に手元が狂ってしまった。
「キャッ!」
シュッと剣を振り下ろすが、クロエの背中を浅く切ることしかできなかった。
くそっ、と思い慌てて次の攻撃をしようとしたが、ドワーフの男子生徒が剣を突き出してきて防がれてしまった。くそっ、あと少しなのに!
体中が痛い…。あの沸騰するような感じもなくなって、どんどん体が重くなっていく。
僕は力を振り絞ってドワーフの男子生徒を抜けてクロエに向かうが、その時には双子のシルとニルがクロエを守っており、二人の盾に阻まれてしまう。
あと少し、あと少しなんだ!
そう思うが、二人は密着して2枚の盾で広く守っているのでなかなか剣が届かない。
あぁ、と思ったときにはもう遅く、クロエはドワーフの男子生徒に抱き抱えられて離れた位置に行ってしまっている。
僕の方はあまりの激痛に動きのキレがどんどん悪くなっていく。
最後はあっけなかった。
動きが悪くなった僕には双子の内の一人で対処できてしまい、もう一人が土魔術で壁を作ったことで詰んでしまった。
その後、サンダーを浴びた僕は退場させられ、1年生の優勝はノーマンダスとなった。
ただ、限界以上に力を出してしまった為か、僕は気を失ってしまった様で、その報告は後から皆に聞くことになったんだけどね…。
お読みくださってありがとうございます。
1年生の優勝はクロエのいるノーマンダスです。
ギルはこれから最強になっていくのでもう少し成長を見守ってあげて下さい。
さぁ、後は1章の終わりに向けてのラストスパートです。
もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。
さて、相変わらず拙い文章ですが今後も引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。




