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1-15 学年別対抗戦 初戦 (2)

 

 あたり一面が霧に覆われゼルグス達が一瞬怯んだが、直ぐにいつもの余裕を取り戻した。


「ふんっ! 今更忌々しい霧魔術なんて使っても無意味なんだよ。僕は一度捕まえたものは絶対に離さない。お前を捕まえている限り、爆炎魔術なんて使えないんだよ!」


「ホント、男の見苦しい悪あがきって最悪…」


 ゼルグスの木魔術の拘束は強固だし、この状況でミーナの氷魔術で攻撃されればひとたまりもない。ただ、僕の霧魔術は視界を悪くするだけじゃないし、この状況は事前にシミュレートしている。


「何っ!?」

「えっ? うまく魔力が練れない…」

「二人とも、ここで仕留めないとまずいぞ!!」

「…」


 僕にはこの一瞬の怯みで十分だったんだ。

 霧魔術で相手の魔力制御をちょっと乱した所で、木魔術から抜け出した。


「ウィル!」

「分かってるって!」


「まずい! アクアウォール!!」


 ウィルと示し合わせて急いで退避する。


 そこで、危険を察知したのかレイが水魔術で水の壁を作ってソフィーの爆炎魔術を防ごうとしている。ホント、いい前衛だな…。


 僕は闇属性の影魔術で退避し、後に続いてウィルが瞬雷魔術を使って退避しようとしたところで…。


「デミ・エクスプロージョン!!」


「なっ!? はえーよ!!」


 次の瞬間、アクアウォールの手前にリリーの爆炎魔術が炸裂した。


 激しい爆音を轟かせながら圧倒的な熱量の暴風が渦巻いている。


 アクアウォールの大量の水が、この爆炎で一気に蒸発させられたのか見る影もない。

 これで”デミ”なのだから恐れ入る…。


 そして、風魔術の突風程度では晴れない僕の霧魔術だけど、その空間だけきれいさっぱりなくなってしまうので、相手の魔力が感じ取れない。


 ただ、感じ取れなくても、あの爆発の中であの4人が無事であることは考えられないけど…。



 観客席も結果がどうなったのか分からず、静かに見守っている。


 僕は肩の激痛に顔をしかめながら膝をつき、霧魔術を解いて当たりを見回した。


 少し離れたところに額から汗が滲み出してやり切った顔をしているリリーと、僕を回復させようと慌てて走ってくるソフィー、そして、回避が完璧には間に合わなかった真っ黒こげの親友がいた。



 何とか勝った…。


 いや、本当にギリギリの戦いだったな。事前に連携の練習をいっぱいしたからだし、僕の奇策もうまくハマってくれた。


 肩は本当に痛いけど、僕がまだまだ未熟だったということで…。



「勝者、サラザーヴァ!!」


 そこで、アルメリア先生が試合の結果を大声で知らせた。


「うぉー!! すげーぞ、お前ら!!」

「いいもん見せてもらった! 決勝も期待してるぞー!」

「ふざけんなー! 運が良かっただけだろー!」


 観客席から喝さい、罵倒、いろいろな声が聞こえてくる。うん、確かに運は良かったな…。



 そこでソフィーが僕の元に駆け付けてくれた。その顔は涙で濡れている。


 余程、心配をさせてしまったようだ。


「ギルくん大丈夫!? 今、治してあげるからね!」


「ありがとうソフィー」


「ヒール!!」


 ソフィーが回復魔術をかけてくれる。徐々に痛みが引いてきて、氷の槍で貫かれた肩が次第に元の状態に戻っていく。


 うん? これって14歳の少女の回復魔術にしては相当なものじゃないか?


 僕は自分の肩を見つめながら呆然としていた。


 よく見るとソフィーは額に汗を滲ませ必死に回復魔術をかけてくれている。相当、無理をさせている様だ。


「ソフィー、もうほぼ治っているよ。すごい腕だね。お陰でもう痛みはないよ」


「うん、よかった~。でもこの後ちゃんと医務室に行くんだよ?」


「あぁ、そうするよ」


 そんなやり取りをしていると、遠くの方から…。


「おーい、ソフィー、オレも治してくれ…。このバカ女のせいで味方のはずのオレまでボロボロだ…」


「バカ女とは何よ!? あたしのお陰で勝てたんだからいいじゃない!!」


「うるせー!! なんでオレまで巻き込むんだよ!」


「しょうがないでしょ! ギルがやられそうだったんだから!!」


 相変わらず、この二人は言い合っているな。ただ、喧嘩するほど仲がいいとも言うし…。


「ごめん、ウィルくん、今行くね」


 そこに甲斐甲斐しくソフィーが回復しに向かう。うん、天使のように可愛いな…。


 なんてバカみたいなことを考えていた。




 そんな時、アルメリア先生が声をかけに来た。


「あなたたちは、一応、医務室に行って体の様子を見て貰ってね。その後は観客席に行って、他の生徒達に合流しなさい」


「はい、分かりました」




 *****



 医務室の職員に診てもらい特に問題なし、ということで解放された。


 もちろんウィルもソフィーの回復魔術で火傷はなくなり、濡れたタオルで体を拭いたことで、試合直後の真っ黒こげからいつもの状態に戻っている。流石ソフィーの回復魔術だ。



 その後、観客席に向かって廊下を歩いていると、向こうからゼルグス達がやってくるのが見える。うん、嫌な予感しかしないな。


 ゼルグスは凄い形相で僕達を睨みつけてくる。


「お前達、今回たまたま勝ったからって調子に乗るなよ。運が味方したから勝てただけで、実力は僕達の方が上だ! 次はそのことを証明してやるからな」


「はっ! 勝ちは勝ちなんだよ! っていうか、実力もオレらの方が上だっつうの!」


 ゼルグスの挑発にウィルが乗っかる。全く、ゼルグスは嫌味を言わないと生きていけないらしい。


「ははは。まぁまぁゼルグス落ち着けよ。いや~、いい勝負だった。ただ、次回もこうとはいかないよ?」


「ふん!」


 レイがゼルグスを宥めている。こいつ、気取っている所があるからプライドは高そうだけど、根はいいヤツだな。


「あぁ、今回はなんとか勝てたよ。レベルの高い連携だったから、運に味方されていなければ負けてたのは僕達だったね」


 僕の返答にレイは満足そうに頷いている。こいつとは普通に友達になれそうだな。


「ふん! おい、もう行くぞ!」

「はいはい」

「「…」」


 ゼルグスの言葉で向こうの4人はウィルディネアの観客席の方に向かって歩き出した。レイはやれやれという感じで付いて行き、ミーナはリリーをずっと睨みつけている。グレーの髪の男子生徒は一言も喋ることなく黙って付いて行く。


 彼が使っていたのは闇属性の隠密魔術で、奇襲に向いた魔術だ。音や気配を消して忍び寄り、気が付いた時にはやられているという恐ろしい魔術で、1対1には弱いがこういった団体戦には向いている魔術だと思う。


 ただ、実はセバスがこの隠密魔術が得意なので、訓練でよく使ってくれていたから今回の奇襲は直前に気づくことができたという経緯がある。


 うん、セバスには今度お礼を言っておこう。



「けっ! ホントいけ好かね~ヤツだなアイツは」

「ホントホント! あたしも頭に来ちゃうわ!」


 ウィルとリリーが怒りをあらわにしている。その横で、ソフィーも難しい顔をしているので、ソフィーも思うところがあったのだろう。


「まぁまぁ皆、落ち着いて。今回は僕達が勝ったからアイツも悔しいんだよ。文句ぐらい言わせてやってくれ。じゃあ、僕達もサラザーヴァの観客席に行こうか」


「へいへい」


 そうして、僕達もサラザーヴァの観客席に向かって歩き出した。この後はノーマンダスとシルファリーの試合だから、決勝戦に向けてちゃんと見とかないといけないからね。特にクロエの魔術を見ておかないと決勝戦の対策が立てられない。




 *****



 サラザーヴァの観客席に行くと、先輩も同級生も温かく迎えてくれた。


「お、戻って来たね。霧魔術とは珍しいものを見せて貰った。それにしても幸先のいいスタートをありがとう。これでサラザーヴァの優勝に一歩近付いたな。ははは」


 そんな中、オルフィス副生徒会長も僕達に言葉をかけてくれた。


「はい、サラザーヴァの為にまず1勝できてよかったです。決勝もしっかり戦います」


「うんうん、期待しているよ。おっと、そろそろ次の試合が始まりそうだ。次に当たる相手の情報はここでしっかりと確認して、次に活かすんだよ」


「「「「はい!」」」」


 僕達は一斉に返事をした。うん、しっかりと見て対策を立てないとね!




 闘技場の中央にはノーマンダスとシルファリーの生徒達がそれぞれ並んでいる。相変わらず主審はアルメリア先生の様だ。


 ノーマンダスはクロエとドワーフらしき男子生徒、そして双子かと思われる男子生徒がどちらも大きな盾を持っている。この双子のような男子生徒は完全に壁役と言う感じだ。


 一方、シルファリーはエルフの男子生徒一人に女子生徒が二人、獣人の男子生徒が一人という構成だ。獣人が前衛で、エルフの男子生徒が弓による遠距離攻撃、女子生徒が風か何かの魔術を使うと思われる。


 シルファリーも強そうだけど、僕はノーマンダスの配置に一抹の不安を抱いていた。



 アルメリア先生が双方の生徒に何か喋りかけている。恐らく、準備がいいかと聞いているのだろう。


 双方の学生が頷いた瞬間、一気に距離を取って臨戦態勢に移った。


 さあ、始まりそうだ。



「始め!!」


 アルメリア先生の合図があってから、シルファリーの獣人の男子生徒が一気にノーマンダス側に向かっていく。


 盾役の二人を抜け一気にクロエに迫る。うん、クロエが肝だろうからその選択はありだと思う。というか僕も同じことを考えるだろう。


 その瞬間、獣人の前に突如ドワーフの男子生徒が割り込んだ。


「!! あれは瞬雷魔術か!?」


 ウィルが叫んだ。


 うん、あれは瞬雷魔術だけど、あの距離を一瞬で詰めるあのドワーフの男子生徒の力量は相当高いのだろう。



 驚いた獣人の男子生徒が急いで拳を突き出すが、ドワーフの男子生徒はそれを避けて迎撃する。ただ、獣人の男子生徒の身体能力も相当なもののようで体を捻ってギリギリで回避していた。


 それ以降、獣人の男子生徒はドワーフの男子生徒にしっかりと止められてクロエに向かうことができない。



 その間にエルフの男子生徒が弓矢をクロエに向けて正確に放つが、盾役の双子が難なく防いでいる。エルフの女子生徒達も風魔術で突破口を見出そうとしているが、盾役の双子はしっかりとした連携で守備に専念してクロエに攻撃が行かないようにしっかりと捌いている。



 その間にクロエはずっと魔力を高め続けている。しかも、それはリリーの爆炎魔術よりもずっと高い魔力で。あの魔力量の迅雷魔術って…。


 次の瞬間、盾役の二人が一緒に土魔術を使って巨大な土の壁を作り出した。二人で作ったからかかなり大きく、シルファリーの生徒は攻めあぐねてしまっている。



 もう観客もこの何が起こるか予想したのか、ノーマンダスは歓声を、シルファリーは嘆息している。



 そして、その時は無慈悲に訪れた。


「サンダー」



 迅雷魔術の()()()()()、サンダー。ただ、恐らく普通の生徒が使うそれとは全く別物の魔術が使われた。


 シルファリーの代表達の頭上から太い雷が一発落ちて来た。リリーの爆炎魔術よりも大きな音で、空気がビリビリと振動しているのを感じる。あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまった。



 当然、この魔術に耐えられるはずもなくシルファリーの生徒達は全員退場していた。


 観客席の生徒達は皆言葉を失っている。だって、こんなサンダーなんて見たことも聞いたこともないから…。



「勝者、ノーマンダス!!」



 アルメリア先生の言葉を聞きながら、僕はこの次の決勝でどう戦うか頭を悩ませていた…。



お読みくださってありがとうございます。


いや~、クロエ強いです!

やっとここまで来ました。

徐々に盛り上がってきましたね。

あ、文章力のなさは痛感しているので、その内に修正すると思います。

もちろん内容ではなく表現ですのでご安心を。



相変わらず拙い文章ですが引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。


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