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1-14 学年別対抗戦 初戦 (1)

 

 控え室に着いた僕達は相手チームの事について分かっていることを確認し合っていた。


「いいかい、ウィルディネアの1年生で僕に嫌味を言ってくるヤツがいるだろ? あいつはゼルグスと言って木魔術が得意でかなりの要注意人物だ」


「あたし、あいつ嫌い。何かすごく偉そうだし!」

「うん、うん!」


 …別に好き嫌いの話をしている訳ではないが、まぁ仕方ないか。確かにプライドは高く、平民だけでなく、貴族でも自分より格下と思うとすぐに見下してくるヤツだからね。


「うん、まぁ嫌いなのは分かるけど、あいつの木魔術は実際に結構厄介なんだ。そもそも木魔術は攻撃にも防御にも使えるし、相手を拘束することもできる優秀な魔術だからね。それでね、あいつはちょっと曲がった性格をしていて、拘束してから相手をいたぶるっていう戦闘スタイルを好んでいるんだ。この拘束から逃げ続けるのがなかなか大変でね…」 


「はん! あいつの木魔術なんてオレが薙ぎ払ってやるよ!!」


「そうよ、あたしの爆炎魔術で燃やし尽くしてやるんだから!」


 この二人、考えが似てるな…。


「いや、ウィルはともかく、リリーの爆炎魔術は試合を決める重要な一発だから使いどころは考えないといけない。特にリリーの知り合いのエルフを除いた二人の情報は全然ないからね。試合は開始直後、ソフィーが僕とウィルに支援魔術をかけて、リリーの爆炎魔術が使えるまで相手の攻撃を抑えないといけなくなると思う。ちなみにリリーの知り合いのエルフの子は氷魔術で攻撃してくるんだよね?」


「そうよ。ミーナっていう子で、プライドが高いからいけ好かないんだけど、氷魔術の腕はなかなかのものよ。しかも、あたしと違って手数もあるから鬱陶しいことこの上ないの…」


 うん、改めて考えてもウィルディネアは強敵なんだよね。


「まぁ、その氷魔術は僕とウィルで捌くしかないね。手数があるってことは威力はあまりないだろうから致命傷だけ防いで凌ぐことになりそうだな。リリーは爆炎魔術の為に集中してもらって、ソフィーは支援と回復でサポートをしてくれ。リリーの準備ができたら練習していたあれをやるからそのつもりでね」


「おぅ!」

「うん!」

「任せて!」


 ウィル、ソフィー、リリーの順で皆が元気よく返事をする。


「さて、じゃあ行こうか」


 そう言って、僕達は控え室を後にした。



 *****



 闘技場の中央に審判のアルメリア先生を挟んで僕達サラザーヴァとゼルグス率いるウィルディネアの学生が並んでいる。1年生の主審はアルメリア先生みたいだね。観客席はこれでもかと盛り上がっていて応援や野次が飛び交っている。


 ウィルディネア側はゼルグスとミーナの他に、水色の髪をして左手に盾を、右手にロングソードを持った男子生徒と、黒に近いグレーの髪のこれと言って特徴のない男子生徒の二人がいる。この二人の実力が分からないのが本当に不安だ。


 ゼルグスは開会式の時は睨みつけていたが、今は嫌な笑みをしながらこちらを見下した様な態度を取っている。


「逃げずにこの場に来たことだけは褒めてあげるよ。と言っても優勝するのは僕達ウィルディネアで、お前達は初戦で儚く散るんだ。不憫でならないね」


「はっ! 優勝するのはオレ達サラザーヴァだっつうの!」

「うん、儚く散るのは君たちかもしれないね」


「舐めるな雑魚共が!」


 僕達の反論に気を悪くしたゼルグスが叫んだ。


「まぁまぁ、勝負はやってみないと分からないよ。」


 僕達とゼルグスが言い合う中、水色の髪の男子生徒が言葉を発した。


「おいおい、レイ、何を言っているんだい? 勝負の結果なんて始まる前から分かり切っているとも」


「ははは、まぁ僕も負けるとはこれっぽっちも思ってはいないから安心したまえ」


 レイと呼ばれた男子生徒もかなり自信があるようだ。装備から前衛と思われるので、横でウィルが闘志を燃やしている。


 もう一人のグレーの髪の男子生徒は黙ってこちらを見ている。というか、注意して見ていないとその存在を忘れてしまうくらいに存在感がない。


 僕は若干の不安を覚えていた。



 一方、女の子達も激しい言い争いをしていた。


「エルフの恥さらしがよくも抜け抜けと代表になんてなれたものね?」


「何よ、偉そうに! あんたになんて負けないんだから!!」


「あなたがこの私に? 冗談も休み休みに言って欲しいものだわ。あなたの下品な魔術なんて使う前に終わらせてあげるわ」


「は~? あたしの爆炎魔術が下品な訳ないじゃない! そんなあんたこそ、ちまちまと嫌らしい魔術使って。あたしがそんなしょうもない魔術、一掃してあげるわよ!!」


「あわわわ…」


 リリーとミーナが言い合いをしている隣でソフィーがオロオロしている。

 というか、この二人かなり仲悪いな。



「はい! おしゃべりはそこまで。それじゃあ学年別対抗戦、1年生の部の初戦、サラザーヴァ対ウィルディネアの試合を行います! 両チームとも準備をして下さい!!」


 アルメリア先生が試合開始を宣言する。そして、僕達はお互いに距離を取り、臨戦態勢に入る。


「準備はいいわね! それじゃあ…、始め!!」



 始まりの合図が言われた瞬間、僕達は相手の方に向かって走って行った。その間にソフィーとリリーが魔術の準備をする。


 先にソフィーの準備が整った。


「ヘイスト!」


 その瞬間、ウィルがグンッと加速する。ウィルは自信に瞬雷魔術でも能力の底上げをしているのであっという間だ。


 ちなみに、ヘイストは移動速度を上げる支援魔術で、このヘイストの状態に慣れる為に特訓をしていた。


 一方、相手側はやはりレイが前衛の様で盾を構えて待っている。ウィルの速度はなかなかのもので、並の1年生なら瞬殺だろう。


「うぉりゃ!」

「ふん!」


 ウィルが勢いよく槍で突き、レイが盾で防ぐ。


「なっ!!」


 次の瞬間、ウィルの槍はレイの盾を滑るように逸れてしまい、勢い余ってウィルが大勢を崩す。どうやら、レイは事前に水魔術で攻撃をいなす準備をしていたようだ。水魔術は攻撃よりもこういった柔の技の方が向いている。


「隙あり!」

「うおっ!!」


 その隙を許すつもりはないようでレイがロングソードで迎撃をする。そこまでの流れに淀みはなく、レイという男子生徒の力量を表していた。


 しかし、ウィルも易々とはやられず、崩された体制から無理やり攻撃を避け、そのまま一旦距離を取って体制を整える。


「決まったと思ったのに恐ろしい運動神経だな…」


「まだまだこれからだよ!」


 ウィルが言い返すが、これはまずいな。レイの戦闘スタイルはウィルにとって相性最悪だ…。


 ウィルは力と力で勝負するタイプだから、ああやって受け流されると持ち味を活かせない。ゼルグスめ、きっちりと対策を立ててきている。



「はははは。脳筋の対策なんて簡単だよ。じゃあ準備できたから行くよ! ツリーウィップ!!」


 ゼルグスが魔術名を言った瞬間、地面から太い木の根が何本か出てきてウィルと僕に向かってくる。その根は僕達を拘束しようと足元や武器を持っている手を執拗に狙って来ている。これに捕まったらお仕舞いだ…。


 僕とウィルはゼルグスの木魔術から逃げることを最優先にせざるを得なくなるが、その間にレイがウィルに攻撃を仕掛けるので、ウィルは防戦一方になっている。


 ただ、なんとか捌けているのがウィルの凄いところだ。もちろんヘイストあっての動きであることは間違いない。


「ははは。早く捕まって楽になれよ!!」


 くそっ! ゼルグスを叩きに行きたいが、他の二人がいるから不用意に前に出れない! 僕は他の二人に注意を払いながらウィルや後衛の女の子達がやられないようにゼルグスの木魔術に対処していた。



 そうこうしている内に、ミーナも準備ができたようだ。


「串刺しになりなさい。アイスジャベリン」


 数本の氷の槍がウィルと僕に向かってくる。しかも2、3本はきっちりと後衛の二人に向かわせるのが嫌らしい。


 氷の槍に対して後方に行くものは打ち払い、自分に来たものは避けることに専念する。威力が低いからなんとかなると思ったけど、ゼルグスの木魔術もあるし、こんなの当たったら一気に終わる!


 ウィルは槍で、僕は剣で何とか氷の槍を捌いたが、このままだと確実に捕まる。


 リリー、まだか…!


 そう思った所で、僕は背中に冷や汗を流した。しまった! もう一人いたのに、完全に意識から切り離されてしまった。


 慌てて、姿を探したがどこにもいない。


 まずい、まずい、まずい…。



 ふと、後ろからうっすらと魔力と殺気を感じた。


 僕は慌てて振り返り剣を構えると、そこには短剣を持った最後の一人の学生がいて僕に切りかかって来ていた所だった。


「よく分かったね…」


「君は闇属性だったんだね…」


 き、危機一髪だった。闇属性は隠密性に優れている魔術だ。相手の使いどころもうまくて、運が悪ければ先ほどの一撃で僕は退場していたと思う…。




 この奇襲への対策のやり取りは本当に短い時間だったと思う。


 ただ、この試合が始まって初めて僕の注意がゼルグス達から離れてしまったのがまずかった。


「ギル!!」


 ウィルが叫んだことで慌てて体を動かしたけど遅かったようで、肩の後ろから氷の槍が突き刺さってしまった。


「!!!」


 痛い! 痛すぎる!! あまりの激痛に眉根を寄せて悶絶してしまう。


 そして、その隙をゼルグスが逃してくれるはずもなく…。



「ははは。やっと捕まえたよ。これで一人目の退場だね」



 僕の足にゼルグスが放った木魔術が絡みつき、それを皮切りに腕や胴体にも木の根が巻き付いて身動きが取れなくなってしまった。


 あとは一定以上のダメージを受けると控え室に強制転移されてしまう。僕が居なくなるとウィル一人でこの4人を抑えるのはほぼ不可能だ。


 グレーの髪の男子生徒が短剣を持って近づいてくる。…まさに絶体絶命の状況だ。




 その瞬間、やっとリリーの準備が整った。


「ギル、準備できた!!」


 ふ~、何とか間に合った。



 僕は安心していつもの魔術を使う。


「ミスト」



 次の瞬間、あたり一面が霧に覆われてほとんど何も見えなくなった。



お読みくださってありがとうございます。


これ以上書くと今日中に投稿できなくなるので一旦区切りました。


いや~、いろいろな小説で作者の方が言っていましたが、戦闘シーン、本当に難しいですね。

なんか単調になっている気がするし、うまく盛り上げられていない気が…。


精進します!



相変わらず拙い文章ですが引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。


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