1-10 実力測定 (3)
本棟のトレーニングルームに着くと、身体能力測定用の器具が片付けられていて、今度は魔術測定用の器具が並んでいる。
並んでいる測定用器具を見渡してみるが、身体能力測定用の器具とは違い、一見するだけでは何を測定するための器具かよく分からない。
と、そこにアルメリア先生がやって来た。今度はローブをきちんと着ていたのでやっぱり、身体能力測定に対して相当気合を入れて臨んでいたようだね…。
そして、アルメリア先生が表れた瞬間、ざわついていた生徒達が一瞬で静かになった。まぁあんなの見せられたら完全に委縮しちゃうよな。
「皆、揃っているわね? はい! じゃあこれから魔術についての測定をします。魔術については、属性適性力、魔力量、魔力操作能力、魔力出力能力の4項目を測定します。属性適性力はそのままだけど各属性に対する適性力を測定します。この数値が高い程、その属性の魔術をより高レベルで扱えるようになるわ。」
ほぅ、洗礼式の時はどの属性に適性があるかだけしか見てもらえなかったから、その属性に対する適性力なんて初めて見るな。
4年間、魔術の訓練を行ってきたからいい結果になってほしいものだ。
「そして、魔力量は魔力の総量、魔力操作量はどれだけ効率的に魔力を操作できるか、魔力出力能力は瞬間的にどれだけの魔力を捻出できるかを測定します。初めは、サラザーヴァが属性適性力、ノーマンダスが魔力量、ウィルディネアが魔力操作能力、シルファリーが魔力出力能力で、午前と同じようにローテーションしてね。」
アルメリア先生の言葉を聞いて僕達は動き出した。
属性適性力の測定器具には、赤色、黄色、青色、緑色、白色、黒色とそれぞれの属性の色をした宝石と、無色の宝石が等間隔に並んでいて、その宝石を中心に針が1本上に伸びていて、目盛りが宝石を1週するようになっている。
あの目盛りを見て午前と同じように点数化するのだろう。
そして測定器具の横には午前中と同様に記録員がいて、先頭の生徒に測定を促している。
何人か測定して、だいたい100点から200点の間に収まっている感じだった。
ただ、驚いたのは、自分の適正属性、実はサラザーヴァの寮生はみんな火属性があるのだが、火属性しか適性がないはずの生徒達でも火属性以外のすべての属性が微妙に反応している点だ。
神殿で自分の属性を言われたときに、他の属性にも微かながらも適性力があるなんてこれっぽっちも考えなかった。
まぁ確かにそうじゃないと、セルオウス学園長が全属性の魔術を使える説明がつかないから、すごく納得したけど。
ただ、そうは言っても、一番適性のある属性に比べて、他の属性の測定値はあまりにも微小過ぎて、他の属性の魔術の練習などやっても無駄だろうな。セルオウス学園長が規格外なんだ…。
そして、何人か測定して分かったが、無色の宝石は派生属性を見るためのもので、雷属性なら赤色と黄色が混じったような色になっていた。それぞれの属性の中で最大に触れたものがその人の属性適性力の数値になるようだ。
ウィルは、火属性が120点、土属性が170点で雷属性が210点、そして、ソフィーは光属性が280点でここまでの最高点で、リリーは火属性が190点、風属性が100点で炎属性が250点だった。
あと、ソフィーは水属性も60点とそれなりに高い点数だったので、あの綺麗な青い目はこの要素が絡んでいるんだろうな。水属性中心のウィルディネアじゃなくて本当に良かった…。
その後、いよいよ僕の番になった。さぁどうなるかな。
僕は一回深呼吸をしてから測定器具に触れて魔力を流し込んだ。
すると、他の学生とは異なり妙なことが起きた。
僕を測定するときだけ、針がフラフラと動いてうまく測定できない状態になっている。
記録員の職員から首をかかげながら何度かやり直しするように頼まれたが、結果は変わらなかった。
「こんなことは初めてですね…。アルメリア先生に相談してくるので少しお待ちください。」
そう言い残し、アルメリア先生のところへ行ってしまったが、程なくしてアルメリア先生が来て同じように唸っている。
「うーん、こんな事初めてだなー。まぁ今日のところは振れ幅の中間の点数にするしかないかな。ギルバートくんだったわね? ごめんけど、その内、詳細に解析させてもらおうと思うから、その時は付き合ってね?」
「はい。僕は構いませんよ。」
「ありがとね。それじゃあ、火属性も水属性も210点、闇属性が320点で、霧属性が350点くらいかな? 間を取っているのに1年生にしては随分と高い点数ね。」
ありがとうございますと言おうとした瞬間、ノーマンダスの生徒達が一斉に騒ぎ出した。
「おー!! 魔力量800点超えてる!」
「すごい!! 流石クロエ様だわ!」
他の寮の生徒も驚いてそちらを見ている。
「はー!! 1年生で魔力量800点!? いや、あり得ないんですけど!!!」
うん、僕の隣のアルメリア先生が一番驚いている。
そのせいで、せっかく属性適性力の点数が高かったのに、もう誰も僕の方を見向きもしない。なんだか遣る瀬無くなってきたな…。
それにしてもクロエ・ドリリアはやっぱり規格外の人種みたいだ。学年別対抗戦でこの子と戦うと思うと、少し不安になるな…。
その後、すべての測定を終えた結果は1位がやはりクロエで、点数は2010点、2位が僕の1780点だった。
クロエは魔力量と魔力出力能力が突出していて、属性適性力と魔力操作能力は僕の方が点数は高かく、どれも満遍なく点数が高い傾向だった。ただ、魔力操作能力は1年で1位だったのが嬉しかった。
ちなみにクロエの点数は過去の1年生最高の現生徒会長アリス・フォレスティアの1820点を超えて歴代1位だったらしい。
というかアリス生徒会長の点数に肉薄している僕も結構頑張っている方だと思うけど、やはり上には上がいるもんだね。
そんなクロエは、特に結果に興味がないのか、つまらなさそうに窓の外を見ていた。まるで、ここにいるのは自分の本位ではない様に。
そんな姿も絵になるので、多くの男子生徒は見とれていたと思うけど、僕は何だか彼女が自由に生きることができない籠の中の鳥みたいで居たたまれない気持ちになった…。
「はい! 注目!!」
そんな中、アルメリア先生が生徒の視線を集めるために掛け声をかけた。
「初めに言った通り、この実力測定で成績に応じてポイントを与えます! まず、身体能力測定の1位と2位、魔術関連測定の2位のいるサラザーヴァに30点与えます!!」
その言葉が終わるや否や、サラザーヴァの生徒達が一斉に騒ぎ出した。
「うぉー! やったぜ!!」
「すごい、すごい!! 私たち幸先いいわよ!」
そこで、ソフィーが僕とウィルの方を向いて満面の笑みを浮かべて来た。
「すごいね、ギルくん、ウィルくん! 二人の活躍があったからだね。」
「おぅ! 2位だから悔しいけど、これは素直に嬉しいな!!」
「ありがとう。うん、僕も2位は悔しかったけど、サラザーヴァが1位になれてよかったよ。
これは本当にそう思う。別に戦闘をして勝った訳じゃないけど、皆が一緒に喜ぶのはやっぱり嬉しいんだよね。
「はい! 一旦落ち着いてね! 次は魔術関連の測定で1位だったノーマンダスに20点、平均的に能力の高かったシルファリーに10点を与えます! ウィルディネアはこれからもっと頑張ってね! ということで、本日はここまでになります。各自気を付けて帰るように!!」
その後、生徒達は各自の寮に向かって歩いて行った。
僕達4人も寮の方に向かうが、学年別対抗戦に向けて動きの確認をする必要があるので、寮のトレーニングルームに行くことにした。
*****
サラザーヴァの寮のトレーニングルームに着いた僕達はさっそく動きの確認をし始めた。
「フッ、フッ!」
「うぉりゃー!」
僕とウィルがソフィーの付与魔術を受けた状態で模擬戦をしている。
練習用で刃がつぶれた剣と槍と言えど、当たり所が悪いと洒落にならないので手なんて抜けない。
しばらくやり合った所で一旦休憩することにした。
「二人ともすごいわね! エルフは魔法がメインで使っても弓だからこんな模擬戦初めて見たわ!!」
「いや、ソフィーの付与魔術が優秀なんだよ。いつもより動きがすごくいい。」
「そうだな! はじめは動きすぎて戸惑ったけど、すぐ慣れた! ってかオレは逆に付与魔術が切れた瞬間のドッと体が重くなる瞬間がやばいわ。あれが本番で来ると思うともっと練習しないとなって思うわ。」
ウィルの言葉には全面的に賛同する。付与魔術は優秀だが、頼りすぎると危険だな。自分の実力以上に動けてしまうから微妙にイメージと違うし、切れた瞬間の反動がすごい。
ソフィーがなるべく切らさないように魔術を重ね掛けしているのは分かるのだが、まだ未熟だし、実践で常に味方に付与魔術をかけ続けられるとは思わない。これは反復練習をするしかないな。
「それにしても途中で使った瞬雷魔術だけど、あたし達全然分かんなかったわよ!」
「うんうん、全然分からなかった。突然ウィルくんが消えたように見えたもん。」
模擬戦の途中でウィルが使った瞬雷魔術について二人が感想を口にしている。
ただ、この瞬雷魔術、僕は食らわなかったと断言しておこう!
うん、やっぱりウィルは魔力の動きが分かりやすいから、来る瞬間が分かるんだよな。
「だろ? なんでギルには通用しないかねー。」
「ははは。さっきも言っただろ。ウィルの場合は魔力の動きが分かりやすいんだよ。瞬雷魔術の上級者は魔力の動きを直前まで悟らせないから、気づいたときには発動直前でどうしようもないんだ。お前ももっと魔力操作の練習をしないとな」
「うへー、あれは地味だから嫌いなんだよ…。」
そんな話をしながらふと気になった。
「そういえばリリーは爆炎魔術が得意なんだよな? トレーニングルームじゃ爆炎魔術なんて使えないから、どこか確認できる場所を探さないとね。というか前から気になってたんだけどエルフで爆炎魔術が好きな人ってリリーくらいしかいないんじゃない?」
エルフは基本的に森の中とか近くで生活しているので、爆炎魔術なんて物騒なものは使わない気がするんだよね。
「よくぞ聞いてくれたわね! ええ、あたしくらいじゃないかしら? あたしは爆炎魔術が大好きなの。あの爽快感、たまんないわ! なんなら今ここでもぶっ放したい!!」
グッと拳を握りしめ熱く語るリリーを見ながら、聞かない方がよかったと後悔した。うん、このエルフは少しおかしい…。
「って、ダメなことぐらいちゃんと分かってるわよ! 何よ、その目は。もちろんやらないわよ!!」
呆れて物も言えないという目で見ているとリリーが弁解する。もう遅いけど…。
「何よ! じゃあ明日はあたしの爆炎魔術を披露してあげるから楽しみにしてなさい!!」
「へいへい、楽しみにしとくよ。」
ウィルがそう返して、今日の練習は終わりにした。
明日も何があるか楽しみだけど、リリーの爆炎魔術だけはちょっと怖いという危機感を持ってしまった。
何はともあれ、今日はゆっくりやすんで明日に備えようかな。
お読みくださってありがとうございます。
やっと実力測定終わりました!
1話で終わると思っていた過去の自分をぶん殴りたいですね。
にしてもイメージ通りの文字数で話を組み立てる難しさを痛感しています。
テンポよくサクサクすすむ小説を書いている作家さんを心から尊敬するようになりました。
相変わらず拙い文章ですが引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。




