表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/95

束の間の談笑と、ジルが探った角度

 あまり王城をうろつくのも良くないなと思い、メリウェザーさんの提案でペルシュフェリア家に移動することとなった。

 アンヌお母様も、ジルも同意。


「ティナ姉はどうする?」


「アタシも聞くわ。たぶん聞き流しちゃうと思うけど、後で要約して教えてよね。仲間はずれみたいなのは嫌よ」


「もちろん!」


 やっぱりティナ姉って、こういうときにちゃんとフィーネと一緒にいてくれる素敵なお姉さんだ。

 だから大好き。


「シンディは?」


「私のお父さんのことですよね。もちろん、私も聞きに行きます。以前もフィー姉様にお父さんを助けてもらったのに、これからずっとフィー姉様にばかり任せるわけにはいきませんから」


 シンディは本当に、私のことを大切に想ってくれる女の子になった。

 最初は、シンデレラの義姉として破滅する運命から逃れるためだったけど、今はもうそんな理由がなくても、私が頑張らなくても破滅しないとしても……それでも、みんなを守りたい。

 だから、そんなシンディの期待にもしっかり応えて、シンディに誇ってもらえる自分を目指して頑張ろうじゃない。


「それじゃメリウェザーさん、お願いします」


「ああ、いいだろう。……それにしても」


「ん?」


 メリウェザーさんは、私のことをじっと見る。いやいや、照れますって……メリウェザーさん、そりゃもうイケメンの完成形の一つってぐらい滅茶苦茶イケメンですし……。よく似てるんだって、高等部時代のゼイヴィアに。


「本当に、みんなの中心はフィーネなんだね。こうして皆の反応を見させてもらったけど、なるほど確かに、人を引きつける何かがある」


 えっ、えっ、いきなりどうしたんですか団長様。

 私、結構自分のことでいっぱいいっぱいなどこにでもいる普通の悪役令嬢です。いや悪役令嬢はどこにでもはいないか。


「あの、その、恐縮です……」


 さすがに過分な評価で頭を掻きながら照れたけど……メリウェザーさんの目は、友好的でありつつもどこか値踏みするように鋭い。

 敵対的ってことは全然ないけど、本当に私のことを計っているみたいだ。


 そして、この目が初日のゼイヴィアに少し近かったことを思い出した。そして何より、レイチェルさんの目も時々こうなる。

 うんうん、やっぱり親子だね。


 -


 すっかり馴染んでしまった、勝手知ったる他人の家ことペルシュフェリアのお屋敷。

 今日はメリウェザーさんの先導で、サロンも大人数だ。


 ゼイヴィアは、小声でメリウェザーさんに話しかける。

 先頭でゼイヴィアの隣にいる私だけ聞こえるような形だ。


「ああそうだ、父さん」


「ん?」


「ジルのこと、フィーネは一目で分かったけど他の二人はそうじゃないから、気をつけて」


 びくりと震え、メリウェザーさんは私の方をじっと見る。


「……分かったのかい? あの子のこと」


 コレは間違いなく、ジルが男の娘で在ることを見抜いたという話だね。


「ええ、本当に偶然と直感ではあるのですが。いろいろ家のしがらみもあるでしょうし、何より本人の資質もすごくいいですから、本人にも伝えず秘密にしておきます」


 私は笑顔で、それとなく返した。


「……」


 が、メリウェザーさんはそのまま黙って前を向いてしまった。

 ……あれ、何か良くない回答だったかな。


「いい回答だね」


 と思いきやゼイヴィアは私の反応を褒めてくれた。

 うーん? よくわかんないけど、ゼイヴィアが褒めてくれたのならきっと大丈夫、万事オッケー。


 ちなみに並び順としては、私のすぐ後ろにアンヌお母様とレイチェルさん、最後にティナ姉とシンディとジル。

 ジルとシンディの甘いもの談義に、ティナ姉が加わっている形で微笑ましい。

 甘いもの大好きグループである。


 もちろん私も好きだよ。




 さて、いつまでも仲睦まじく——特にティナ姉とシンディについてはこうして好きなことを好きなだけ話すという機会がないだけに——会話させていたいけれど、そろそろ本題に入ってもらおう。


「ジル、それじゃ情報を合わせていきましょう」


「ええ、分かったわ。といっても概ねは変わらないわよね。貴族の旦那様を襲撃した山賊の親玉、家主のトライアンヌ様に成敗される! そして男は処刑」


 ジルの問いに頷く。当事者だったし、その場にいたし。その後の展開も、聞いたとおりだ。


「ジルの言ったとおり。供述内容も、誰から話を聞いたかも結局口を割らなかった。覚えてないの一点張り」


「そうね。……でも、私はエドワード様を狙った犯人を逃すつもりはありません。だから私は、賊のリーダーが何も覚えていないと仮定して、別の角度から事件を観測していました」


 ……別の、角度?


「私が調べていたのは、クライドさんです」


「クライド? 誰ですか?」


 ゲーム中に出て来なかった登場人物の名前が出てきて驚く。

 そして私は、次の言葉に更に驚いた。


「取り調べを行っていた方。その人の変化が気になって注視していました。成果はありましたわ」


 ……やっぱこの子、凄いわ。

 最後のルートであり、教会の最終兵器。

 それは魔法だけではなく、その頭脳の優秀さにもある。


 相手は完全にミスをしたね。

 狙ったのが、私やシンディの父親のエドワードさん、を狙ったつもりだったのだろうけど。

 ジルにとっての神に等しいエドワードさん、を狙ってしまったのだ。

 教会の将来トップなのに、神に等しい人がパティシエってどうなんだろうって思うけど、こういうのは仕方が無い。私だって神仏並にゲームの作者様は神様だったからね。


 私は握りしめた手の汗を拭くのも忘れ、その小さな神童の顔を見つめ返す。

 どんな情報を掴んだのか、緊張しつつ耳を傾けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ