お城の中で意外な出会い
お城での用事も済んで、これで特にやることも残ってないかな? と思いふらふらと城の中を歩く。
その中で、私は見知った顔に会った。
「ジル?」
「……ん? あっ、フィーネさんではないですか!」
まさかのジルちゃんがいた。
そりゃあやんごとなき身分の方ではいらっしゃいますが、王城にいるとは思わなかったのでびっくり。
でもジルちゃんだって、私達と一緒にいる面々にもびっくり。
「まあ、メリウェザー様もいらっしゃるなんて、一体どのようなご用事だったのですか?」
「ヘレン様にご挨拶したの。後は……ちょっと個人的な用事」
「個人的な……といいますと、もしかしてエドワード様の事件に関することでしょうか」
————。
……は?
一瞬思考がフリーズした。
ジルが言ってきたのは、まさしく私の個人的な用事そのものドンピシャである。
驚かない方が無理というものだ。
「な、何故そのことを……」
「やっぱり、そうでしたの」
若干かまかけであることに気付いてはいたけど、そんなことを気にする余裕など全くない。
だって、話していないどころか入学前の話だ。
知っているはずないと思うのだけど……でも、事実としてジルは私の目的を知っている。
これには隣のゼイヴィアや大人グループも驚きだ。
「どこで知ったのか、聞いてもいいかしら」
と、ここで後ろから低い声が廊下に響く。
これは……アンヌお母様……!
ちょっと怖い! 冷や汗出てきちゃう声!
しかしそんなアンヌお母様に対しても物怖じしないジルちゃん。
それどころか、ぐいぐいきた。
「もしかして、トライアンヌ様でいらっしゃいますか! あのエドワード様をお助けになったというお方! お目にかかれて光栄です!」
「えっ、いえ、だから私は……」
ずずいと前に出てきて、アンヌお母様の手を握るジルちゃん。
そういえばこの子も立場的にはすんごい子だし、心臓に毛が生えているぐらい物怖じしない子でしたね……。
そして私は、今のジルの言葉の選び方で、何故ジルが知っているかに気付いた。
「もしかして、エドお父様のことは個人的に調べたりしていた?」
「ええ、もちろんです。貴族襲撃の事件は一応軽くでも目を通してはいるのですが、その中でもこの王国の至宝であるエドワード様に手を出したとあっては、このわたくし黙って見ているわけにはまいりません」
やっぱり。
ジルちゃんの甘いもの好きというか、エドワードさんに対する尊敬……というよりむしろ崇拝に近い感情、半端なく高かった。
ぶっちゃけ王族よりエドワードさんの方が上にないですかね。
っと、そのことを他の人達にも連絡しなくちゃ。
「アンヌお母様、この子はジル。いろいろ説明は端折りますが、新入生でクラスメートで、エドお父様のタルトの味が分かる子です」
「……そうなの?」
「フルーツタルトの味の差が分かって、元の店からエドお父様の移転先を探し当てたぐらいには」
「まあ……」
トライアンヌ、さっきまでの緊迫していた雰囲気はどこへやら。
エドワードさんを評価する話題が出てくると、露骨に嬉しそうな声色に変わったぞ。
やっぱり可愛いぞ氷の夫人トライアンヌ。
ジルも、どうやら先ほどはちょっと喋りすぎたと思ったらしい。
「ご家庭の話に踏み込んでしまって申し訳ありません、どうしてもエドワード様のためとあらば、放置しておくのは拙いと思ったもので」
「え、ええ……それに関しては怒ってはいないわ。そこまで考えてくれているのならね。エドの為、なのね」
「はい」
アンヌお母様が思案顔で少し口元に指を当て、それからジルに聞いた。
「事件に関する話、どれぐらい知っているか聞いてもいいかしら」
「内容のすり合わせですね、喜んで!」
「それでいいかしら?」
アンヌお母様がレイチェルさんの方を向き、レイチェルさんはメリウェザーさんの方を向いて頷き合った。
「話を聞くに、どうやら他人事とは言ってられないだろうし……一緒に聞きましょうか」
私達は、事件の黒幕に近づくために各々の知識と知恵を持ち寄ることになった。