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無言であることが雄弁に語る事実

 ヘレン様との最初の会話で、信頼を得る感触を掴んだところで、私は本題に乗り出した。


「ヘレン様、お願いがあるのですがよろしいでしょうか」


「今の会話の流れで断る気はないけれど、内容ぐらいは聞いてもいいわよね」


「ありがとうございます。それで、お願いというのは……」


 今日、突然王城に乗り込んできた本題。

 最近も調べていた話題について行き詰まっていたこと。

 どんな解決の糸口でもいい。何か情報が欲しいと思ったときに最初に思い出したのが、ここだった。


「以前、お父様の馬車を襲った山賊がいました。まだ拘留しているのなら会話をしたいのです」


 私の提案に、視界の端でアンヌお母様が驚いた顔でこちらを見たのが見えた。

 事前に話していなくてごめん。でも、これは必要なことなのだ。

 言って許可してもらえたかどうか怪しかったからね。


「……ふむ。大分前のことよね? 一年以上前なら、無事は保証できないけれど」


「入学前なので、一年以上前ですね……。どんな些細な情報でもいいのです、なにか会話の記録が残っているのなら、その情報をいただけないかと」


「思い出した。元平民とはいえ、貴族に手を出した山賊は処刑されるわ。会話はもう出来ないけれど……情報に関しては、全て引き出して構わないと私の名で保証しましょう。メリウェザー、トライアンヌ、二人も自由に私の権限で引き出してもらって構わないわ。レイチェルはメリウェザーを介すように」


「分かりました」


 話から察するに、主人側に権限があるということかな。

 レイチェルさんは、メリウェザーさんに黙って情報を得ることはできないけど、メリウェザーさんから情報を聞くのはアリ。


 そしてうちの場合は、アンヌお母様が主人側になると。

 さすがに元平民のエドお父様に貴族の主人としての権限を持ってもらうわけにはいかないからね。そもそも魔道士でもないし、あまり意味がない。


「ありがとうございます、ヘレン様」


「構わないわ、こちらの為になる話でもあるでしょうし」


 ……そういうところも察してるか。

 こりゃ本当に出来る人ですね、さすが女王様です。

 トップがこれだけ貫禄あるのなら、国民も安心だ。


 -


 以前来た時が、ちょうどその件の問題人物である山賊を捕まえたときだった。

 お母様にとっても、恐らく記憶に新しい事件だろう。


 トライアンヌにとってのターニングポイントが、間違いなく私の実父であるジェイラスの死だった。

 そして、二つ目がエドワード。

 三つ目が……ティルフィーネの断罪による追放。


 現在は二つ目を回避して全く違う未来になっている。

 とはいえ、油断はできない。

 元凶を倒していないため、全く問題が解決されていないのだ。


 それ故に、この世界は未知のルートに入った。

 それが『悪役令嬢の取り巻きの誘拐』という、明らかにシンデレラの話からは有り得ない、本来主人公にとって関係のない話となる。


 しかし、事実として悪役令嬢の取り巻きであるルビーとシンディは仲のいい関係になり、ルビーを助けるために動いた私にシンディもついてきてくれた。

 不思議なものだ。


 恐らく、この山賊がヒントの一つだったのだ。

 もっと早い段階で気付いて調べるように言っておけば良かった。




 後悔、先に立たず。

 後の祭り、ともいう。




「え……今、何と……」


 お母様は、初めて見る担当者の放った返答に、震える声で聞き返した。

 しかし、帰ってきた答えは当然同じ。


「ですから、以前担当していた方が急逝なさって……。ですので、資料はありますが詳細な会話の記録まではないのです」


 どうやら、相手の方が一枚上手だったらしい。

 既に前担当は証拠隠滅で消されていた。あの生真面目そうな方のことを思い出し、後悔とともに心の中で謝罪をする。

 完全に、私達の……私の事件に巻き込まれた形だ。


 ——だが、何も得ることがなかったわけではない。


 一つ、はっきりと分かったことがある。

 エドお父様が狙われたのは、やはり情報提供者がいたから。

 そして、情報提供者は間違いなく、まだ生きている。


「アンヌお母様。ヘレン様にお伝えしたいことがあります」


 私はお母様に話して、この事件がまだ続いていること、引き続き警戒するように伝えた。

 犠牲となった方のためにも、この事実を無駄にはしない。


 私はまだ見ぬ敵のことを考え、城を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 事件後は背後関係とかちょっと気にしてた気はするけど、まあ後回しになるのも仕方ないのかな
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