フィーネとしての自分の信じる道
王城のサロンで皆が沈黙していると、王妃ヘレン様がひとつ溜息を吐いてカップを手に取った。
一口。静まりかえった部屋にソーサーとカップが触れる音が響き、ヘレン様が私を見る。
その目は、優しくもなければ、厳しくもない。対等な存在として私を見ていた。
「ひとつ、いいかしら」
「はい」
「あなたは、私の味方?」
……随分とストレートにぶっ込んできたもんだ。コレにはさすがにお母様も息を呑んでいる。
この発言が出来るのは、なによりこの人が王妃だからだろう。
圧倒的強者の視点からの、確認事項。
ここで飲まれるわけにはいかない。
私の答えは、決まっているのだから。
「自分の家族の味方である限りは、ずっと味方ですよ」
それ以上でも、それ以下でもない。
もう、ありもしない破滅フラグをぐだぐだと引き延ばす段階は終わったのだ。
私は、この世界で自分が望んだ人達と、自分が望んだ未来に向かって進むために頑張ると決めた。
そのための力は蓄えてあるし、それなりに頑張ってきたつもりだ。
自分はもう、ただ逃げるだけの命第一な転生者ではない。
フィーネとして望んだ未来を、自分のやりたいことようにやる、この世界の住人の一人だ。
「……じゃあ、王家がトラヴァーズの権利を保障しているうちは?」
「もちろん、キングスフィア王家への協力は惜しみません」
はっきりと、信念を持って答えた。
王妃様は再び「ふー……」と息を吐き、深く椅子に腰掛けた。
ちらと横目で、クレメンズとシンディを見て、次にゼイヴィアを見る。
それから私の方に視線を戻す。
「……もう既に、三手ほど仕込んである、か」
「そのつもりで動いたわけではないですよ、結果的に、です」
「ならば尚のこと恐ろしいわね」
再び王妃様は、カップに手をつけて紅茶を飲む。
みんなの紅茶は冷めてしまったけど、さすがにこの状況で自由に飲む気にはならないみたい。
ティナ姉もさすがに王妃様相手だと、雰囲気に飲まれている部分もあるのか珍しく察している。
どれほどの時間が経過したか……十分ぐらいそうしていた気もするし、ものの数秒だったかもしれない。
「……試したようで悪かったわね。元々トラヴァーズには世話になってるし、息子の望むことは応援するつもりよ。悪いようにはしないから、そこは安心してちょうだいな」
「ありがとうございます」
王妃様の返事に頭を下げて答える。
私の審査はこれで終わったようだ……さすがに緊張した。
やっぱこの人、こえーわ。
「ところで」
ヘレン様は、最後に一つ質問をした。
「レヴァンティナは、何を仕込んでいるのかしら?」
仕込み。
それは先ほど出た単語であり、ここでは私達家族が誰と関係を持っているかという話に繋がる。
あの視線の動きから察するに、クレメンズとシンディ、そして私とゼイヴィアが関係を持っていることを察している。
それ故に、さっきの発言になるわけだけど……。
「……分かりません」
「え」
私がはっきり答えると、ヘレン様が少し間抜けな顔をする。
ティナ姉は自分の名前が急にやり玉に挙がったため、急に興味が惹かれたように私達を交互に見る。
そんなティナ姉に心の中で笑いながら、私はハッキリ宣言した。
「そもそもティナ姉を制御するとか不可能ですし、何より色について全く想像できません。姉の自由度は私の手には余りますって。そう思いません?」
私がそう答えると、ヘレン様は目をまん丸にして……今日一番の笑い声を上げた。