最終ルートのジルちゃん攻略RTA
序盤から顔出ししていながらも、第六の攻略対象である男、ロンジャイルズ。
彼を攻略する上での最大の問題は、全ての攻略対象とのエンディングを迎えていること。
そして第二の問題は——主人公が亡き父のケーキ作りの後を継ぐ勢いで練習しなければいけないこと。
グレイキャスター・シンディでは、ゲームを進めていくうちに年齢が重なっていく。
レベリングパートの時間はそれなりに取れるものの、時間は当然経過していく。
ジルのルートでは、そのレベリングの時間が取れないのだ。
シンディは、自分の父親の話を殆どのルートであまり意識しない。
それはシンディが冷たいわけではなく、それ以外の日常が忙しい……というより、主に私の妨害で他のことを考える余裕がないからだ。
しかし、会話の中のふとした切っ掛けで、シンディはジルが昔食べていたケーキが、自分の父親が作っていたケーキだと分かる。
その話を聞いて、シンディはケーキ作りを始めるのだ。
練習に練習を重ね、材料の厳選も行う。そして当然、その間は魔法の練習や魔物退治などはやらない。
そのため、このルートに入ったシンディは、他のルートに比べてレベルが上がりにくい。
自然と通常ミッションが低レベルクリアとなり、しかも終盤までソロプレイということもあって、非常に高難度となる。
私も、今の今まで忘れていたけど。これを忘れてたことも、私の名前に関係あるんだろうか。
……ううん、今はそのことは考えないようにしよう。
これらの練習や準備など全ての条件を整えて、高等部三年になって披露するケーキでジルの心を射止めることで、初めてジルのルートが開くのだ。
ちなみにジルは滅茶苦茶強いので、仲間になってからは比較的イージーモードです。っていうかそうしないとアンヌお母様がどうやっても倒せないので。
……とまあそれがジルと心を通わせるイベントの一連の流れなわけだけど。
その会話の中に、いろいろとヒントがあるのだ。
まず、最初の段階でシンディの父親のケーキを食べたといった時点で、平民の作った物を一番の思い出に残しているというぐらい、ジルは平民に対する偏見や蔑視などがない。
それは当然、シンディに対してもそうだと分かる。まあ思いっきりルートがあるぐらいだもんね。
更にもう一つ。
シンディが父親のケーキを再現するというイベントも、最後の最後には『あの時の味だ』っていって心を通わせるシーンがある。
そのシンディの父親ことエドワードさんが現役で、しかもアンヌお母様の支援のもと知名度も高くなった店舗を構えていたとしたら。
そう。
ジルが、知らないわけがないってこと。
「本当!? 味が変わったから聞いてみたら、お弟子さんにお店を譲って別の店舗を構えたと聞いたもの。あのエドなら間違いなくそのはず!」
「あ、いつ頃ですか?」
「そうね、大体……」
「……ああ、その頃なら覆面調査に行った直前ですから。バターの量を減らしていたのが私でも分かるぐらいで、お父さん怒っちゃって」
うわ、マジの本物だ。あのおいしいフルーツタルト、私とティナ姉は全然気付かなかったけど、二人は食べてすぐに違和感に気付いたんだ。
甘い物を愛する人には違いが分かるぐらいの味の差だったんだね。そりゃエドお父様も怒るよ。
それにしても、さすがシンディのお父さん。
攻略対象のキーアイテムそのもの、本物のエドお父様のケーキの破壊力は、問答無用でこの最難関の相手の壁をふっとばしてしまった。
初手エドワード、まさに反則だ。
「すごい、本当にエドワード様の娘なのですね、感激だわ! お母様にも自慢しなくちゃ!」
「わ、わ、えっとその、嬉しいです。お父さんも味にはこだわりがある方ですから、きっと喜ぶと思います。それに何より」
と、ここでシンディが私の方を向いた。
「フィー姉様のお母様……トライアンヌ様に叱責されるまでは、お母さんに先立たれて何もできない状態だったので、むしろお父さんの今の店舗はフィー姉様のお母様のお陰という部分が大きいんですよ」
その話を聞いて、ジルは目を輝かせて私の方に向き直り、両手を握ってきた。って近い近い!
私はこいつがずっと男だと知っているから緊張してしまう!
男……男……ああもうほんっと腹立つぐらいどこからどう見ても欠点なしのピンクの天使だなこの美少女!?
「素敵ですわ! フィーネさんとも、是非お近づきになりたいです。よろしいですか?」
「も、もちろん。よろしくね、ジル」
「ふふっ、初日から友達が沢山増えてしまいました。嬉しいですわ!」
というわけで、本日最終攻略対象のジルちゃんが、エドお父様パワーにより仲間になりました。
ありがとうエドお父様。あれで落ちない甘い物好きはいない。(自分が負けた言い訳)
そうそう。
ちょっと横に置いていたけど、この可愛いピンクの男の娘天使ジルちゃんのルートの話をしよう。
攻略対象のご多分に漏れず、彼もとてつもないスペックをしています。
彼の魔法は『聖属性』というもの。
作中でも彼しか使えない、門外不出の最強属性。
ロンジャイルズ・セインティア。
あまり表に名前は出て来ないけど、この国の宗教である聖王教会はセインティア家が管理をしている。
代々その血筋にのみ発現する聖属性の色から、セインティア家は王国でも特別な地位なのだ。
彼はそのセインティアの姉妹達に囲まれた、唯一の男子。
まあ早い話が、彼が次の教皇です。