みんなが仲良くなればいい。それで全てが丸く収まる……んだよね?
貴族令嬢誘拐事件の影響は大きく、あれ以来学園の登下校は大人が同伴するようになった。
また、通学路を巡回する兵士達の数も増えたように思う。
おつかれさまです。
特にルビーとスザンナは常に二人で登下校するようになり、教員達も必ず誰かが同伴している。
放課後部活動もないから、それぐらいの余裕はあるみたい。
私は、三人姉妹必ず揃って帰ることが決まりとなった。
親同伴しなくてもいい判断をされたのは、学園長やお母様、あとレイチェルさんの判断だ。
なんだか『フィーネちゃんがいるなら大丈夫でしょ』みたいな言葉も聞こえた気がする。もうほとんどレイチェルさんにはばれちゃってますねこれ、さすがあの作中最強といわれたお母様のライバル……。
そんなわけでして。
今日も姉妹揃って帰宅しているのでした。
ただ、途中まではルビーとスザンナも一緒だ。そこまでなら大人も一緒だし、何よりその方がルビー達も安全度が高い。
「結局、ルビーは犯人のことに全く心当たりないんですわよね」
「うん……なんでだろ、うちとかそんな、身代金も高くないだろうし、そこそこ町中だし、もう全然……誘拐犯がエルフってのも、わけわかんない。人間と、仲悪くない」
とにかく犯人が自爆してしまったのが大きい。死んでしまうと聞き出すこともできずどうしようもないからね。
「でも、本当に無事で良かったですわ。フィーネが助けてくれて……ふふっ、本当に私の親がトライアンヌ様に守ってもらったのと同じになってしまいましたわね」
「あ、そっか」
そういえば二人とも、あまり強くない両親が学生時代にアンヌお母様に仲良くすることで今の関係になったんだったね。
「……本来なら、打算的なことを抜きにして両親のお礼返しでもできればと思っていたのですが」
「うん。わたしら、結局、お世話なりっぱなし、なっちゃってるね」
二人の発言に、むしろ私の方が慌ててしまった。
「いやいや! そんな、むしろ私からしてみれば二人が友達で居てくれるだけで有り難いんだから! ていうか、昔のやらかしのことほんっと後悔してて、もう学園では友達とか誰もできないって思ってたぐらいなんだから!」
私が必死にその理由を訴えると、二人は顔を見合わせて……私の方を見て笑った。
「そう言っていただけるあたり、本当にフィーネはすっかり可愛らしい女の子になってしまいましたわね。もう昔のイメージは完全になくなりましたわ!」
「うん。ほんと、今のフィーネすごくいい。白馬の王子様、だよね。助けてくれて、改めて、ありがとうございました。昔のこととか、先日の一件で、チャラっていうか、お釣りで家が建つぐらい」
二人が笑いかけてくれて、ほんとうにこの二人が友人でよかったなあって思う。
そんな二人は、シンディにも話しかける。
「ルビーから聞きましたわ。シンディも駆けつけてくださったと」
「あっ、その、はい。フィー姉様が一人で向かったと聞いていたので、お力になれないかと」
「ルビーの友人として、お礼申し上げますわ」
シンディに対して、お嬢様然としたスザンナが頭を下げた。
もちろん、そんな反応に驚いたのはシンディだ。
「い、いえ! そんな、頭を上げてください! 私なんてほんと、平民の出で、フィー姉様に教えてもらわなければ魔法もろくに使えないような身で……」
「でしたら、あなたが貴族の仲間入りをしてくれたことそのものに感謝いたしますわ」
「うん。わたしも、シンディこそ、貴族かくあるべき、って感じ。見た目も、中身も。シンディみたいな子が、上に立つべき。その方が、他の平民も、安心して生活を任せられる。だから——」
そしてルビーは、珍しく前に出てシンディの手を取って伝えたのだ。
「——シンディが、フィーネの妹、なってくれて、嬉しい」
私はその姿に、とても特別なものを感じた。
フィーネの取り巻きとして、言われるがままにシンディへと悪戯の限りを尽くした二人。
その二人が、シンディに感謝しているのだ。
シンディは、ストレートにルビーからの感謝の言葉を告げられて、顔を赤くして照れていた。
そんな二人を見て。
「……ねーねー、あたしの妹でもあるんだけどー?」
ティナ姉がツッコミを入れる。
本気でふてくされているわけではないようで、みんな笑いながら謝った。
でも、本当に……よかった。
この子達は、名無しの取り巻きじゃない。人格のある個人なのだ。
そして脇役どころか、本来なら主人公のシンディより偉い貴族の家系なのだ。
そんな二人が、自分からシンディに歩み寄ってくれる。
きっともう、私が間に入らなくても二人はシンディと自然と会話して仲良くしてくれるだろう。
ああ、やっぱこういうのっていいなあ。
みんな仲良しが一番。どんどんみんな仲良しになっていくね。
この調子で、一人残らず仲間にしてしまおう。大丈夫大丈夫、みんな仲良くなれる。
私はその時、そう思っていた。
◇
自宅に帰った私に、お母様が封筒を渡してきた。
「これ、フィーネ宛だそうよ」
お母様はプライバシーに配慮し、すっかり私のことを信頼してくれているのか、中身のことを聞いてきたりしない。
そのことに感謝しつつ私はお母様からその封筒を受け取ると、部屋に戻って開封する。
封筒の中に入っていたのは、一枚の紙。
メッセージは、一言。
その紙の文字は、妙に赤黒く歪な太さで書かれている。
ホラー映画の演出のような。
そう、まるで血で書いたような……。
だが、そんなことも気にならなくなるほど、書いてある内容に私の思考は囚われていた。
紙に書かれていたのは、僅か九文字。
『 なま え わすれ た だろ 』
これにて二章終了です、お読みいただきありがとうございました!
途中まるっと一ヶ月穴が空いてしまい申し訳ないです。ちょっといろいろありまして……なるべくしっかりメンタル持たせて頑張ろうと思います。