ヒロイン攻略対象様は、子供の頃から優秀
エクゼイヴィア・ペルシュフェリア——通称ゼイヴィア。
それは、このゲームを遊んだ人の大多数が、最初にルートを選んで攻略するキャラクターだ。
まず、大前提として、このゲームは火→風→土→水→火という四すくみになっている。
主人公のシンディが火属性で、最初のボスであるティルフィーネは有利な風属性。
中盤の壁であるレヴァンティナが同じ火属性。
そして、最後の『氷の夫人』トライアンヌが、不利な水属性になる。
主人公は、仲良くなった攻略キャラとともに、トライアンヌとの戦いに挑む。
当然のことながら、三人の悪役令嬢最後の砦だけあって滅茶苦茶強い。
その上で不利属性とあって、相当ゲーム慣れしていないと勝てないのだ。
その際に一番役に立つのが、王子様以上に魔法が得意で、アンヌ相手に土属性の魔法を使いまくれる『神童』ゼイヴィア様。
ベージュ色の長い髪にキリっとした目元をした、プレイヤーなら誰もがお世話になったゲーム中最強の魔道士様だ。
人格者で家柄も良く、当然人気も高い。
今、私の目の前にそのゲームで見たゼイヴィア初等部期の姿がある。
あの長い髪はまだ短いが、それでも男の子にしたら長めだ。
眼はぱっちりと大きく、緑色の瞳がしっかりとこちらを捉えている。
……捉えている?
「あっ、すみません。ティルフィーネ・トラヴァーズと申します」
私は慌てて一歩引き、部屋着のスカートを軽くつまんでお辞儀をする。
「レヴァンティナよ! ティナって呼んでいいわ、よろしくね!」
姉は遠慮なくグイグイ行くようだった。まあ、こういうところはレヴァンティナらしいっちゃらしいなあ。
私達の方を見て、ゼイヴィアは……何故か目を見開いて驚き、アンヌお母様の方を振り返った。
「トライアンヌ様、聞いていた話と少々差異が……」
「え、ええ……昨日から、ちょっと、ね。一時的なものか分からないけど、ゼイヴィア君も仲良くしてくれると嬉しいわ」
「分かりました」
何やらお話をすると、ゼイヴィアは私達に頭を下げる。
「エクゼイヴィア・ペルシュフェリアです。ゼイヴィアと呼んでください、お嬢様方」
「よろしくね、ゼイヴィア!」
「よろしくお願いします、ゼイヴィア様」
ティナ姉が元気よく手を出して握手する中、私は一歩引いて頭を下げる。
攻略対象で私も一番に選んだイケメンキャラと顔を合わせているわけだけど、今の私にとって彼はまだ可愛い少年だ。
この身体だと年上といっても、ショタコンのつもりはないのでさすがに射程範囲外。
それに……なんといっても彼は、私達にとって将来の破滅の種なのだ。国内最強の氷魔法使いのお母様を凌駕できる存在なのだから。
まあ、私が自分から破滅に走らなければいいだけの話なんだけどね。
「よろしく。ティナ、フィーネ」
ふわりと微笑み、ティナにぶんぶん腕を振り回されながらこちらを見るゼイヴィア。
……前言撤回。イケメンはやっぱ子供の頃からイケメンだわ。
さすが王子様に近しい一人になるだけあって、笑顔はこの年齢の時点で将来の美男子っぷりを保証しているような気さえする。
恋愛対象には程遠いけど、目の保養だわ。そりゃ元フィーネもテンションあがっちゃうわね。
お母様は紅茶を淹れに台所へ。
私とティナ姉は、ゼイヴィアとのお話タイムだ。
「ゼイヴィア、同じ学年のトップだから全然話しかける機会ないんだもん。やっぱ優秀な人は違うなー」
「はは、そういうティナさんも二組ではいい成績だと聞いているよ」
「えっ、ゼイヴィアはアタシのこと知ってるの!?」
「ティナさんというより、実技が得意そうな生徒はみんなチェックしてるかな」
マジかよ子供のゼイヴィア君、優秀すぎるだろ。
この頃から、魔道士団率いるための下準備みたいなことしてるとか、
……そっか、じゃあ何事も無ければティナ姉もスカウトされたりする可能性もあるってことなんだな。
今日みたいなやり取りは、私が転生しなくともきっとあったはずなのだ。
だとしたら……それを壊してしまったのは、やはりフィーネと考える方が自然だろう。
ああ、本当に私が問題を起こさないことがすごく重要な問題に思えてきた。
「そういえば、明日の宿題は大丈夫? かなり難しいものを学年全員に配ったみたいだけど」
「あっ、いっけない! ちょっと見てくるわ! 分からなかったら教えて!」
「いいよ」
優等生のゼイヴィアから返事をもらえて「やった!」と喜ぶと、宿題を取りに二階の自室へと駆け上がっていった。
そうなると当然、さっきまで聞きに徹していた私とゼイヴィアが残る。
ゼイヴィアがこちらを振り向き、じっと見つめてきている。
え、何かやらかしてないよね、問題とかまだ起こしてないよね!?
私は、ゼイヴィアが何を思っているんだろうと構えていると、私の目を見ながら窺うように呟いた。
「……フィーネは男子が来た時は姉より我が強い子と聞いていたのに、むしろ姉より遠慮する性格みたいだね。緊張しているのか、それとも僕はあまり好みでないのかなあ?」
……あ、これフィーネの身から出た錆じゃん。