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友達同士の秘密共有なら、仲間外れはナシで

 雨の中、私は走る。


——ルビーがいない。


 スザンナから報告を受けた私は、急ぎスザンナとともにルビーの家へと向かうよう詰め寄った。少しスザンナは怖がらせてしまったかもしれない。

 シンディとティナ姉もついてくると言ったけど、二人には真っ先にお母様へと報告してほしいと言った。

 最も確実なのが、アンヌお母様が出てくることだ。


 二人は納得すると、すぐにお母様を呼びに走った。

 私はスザンナとともに、ルビーの家まで行く。


 ルビーのお母様はやつれた顔をしていたけど、それでも娘の危機にぼんやりしているばかりではない。

 私が質問すると、細かいことにすべて答えてくれた。

 何の道具を持っていったか、など。


 最後に、ルビーのお母様は私に告げた。


「フィーネのこと、最近はルビーもとても楽しそうに話してたの。あそこまで夢中に話すルビーを久々に見た」


「え? ルビーが?」


「そう」


 あのルビーが、私の話をそんなに……?


「今のあなたを見ていると納得するわ。子供だけでは危険……と言いたいところだけど、きっとフィーネは一人ででもルビーを助けに行くのね」


「もちろんです。大切な友達ですから」


 私の返事を聞いて、ルビーのお母様は何度も頷く。


「私もついていくわ」


「いいえ、できればスザンナのお母様と合流してください。出来る限り固まっていた方がいいです」


 ルビーのお母様は真剣な顔で頷くと、道具を取りに一旦家へと戻った。


「ちょっと! わたくしもついていきますわよ!」


 横からスザンナが大きな声を上げるけど、私はそんなスザンナの両肩を少し強めに握りしめる。

 再会してから、あまりこういう強めの対応をしたことはなかった。スザンナは当然、私の反応に驚いている。


「スザンナ、あなたはマナチャージ何回できる?」


「……は? 何ですの突然に。そもそも二回してはいけないのが基本ですわ」


「《マナチャージ》、《マナチャージ》、フゥッ、《マナチャージ》」


 目の前で実演した私を見て、スザンナは雨に濡れていないルビー宅の玄関で尻餅をつく。

 その姿を見て、私は扉から離れて次の魔法を叫んだ。


「《エアフィールド》!」


 瞬間、風の膜が私の周りに広がり、雨が全て吹き飛ばされる。

 濡れない私を見て、スザンナはさすがに驚いた顔で口をぱくぱくしている。

 いつも堂々としているスザンナの、初めて見る姿だ。


 この姿を見せた理由。

 スザンナに、伝えたいことがある。


「秘密だよ」


「え……?」


「私がマナチャージを多重で使えるのも、魔法をかなり使えるのも、ほとんど知られてないの。スザンナは友達だから、私達だけの秘密」


「……」


「そして分かるよね」


 私はスザンナに、びしっと指をつきつける。

 一瞬はっとすると、スザンナはすぐに頷いた。


「ルビーも、秘密を共有する友達、ですわね」


「そういうこと」


 以心伝心、言いたいことは伝わった。

 ここまでの秘密を共有するんだ、友達同士が仲間外れでいいはずがない。

 知った以上、その秘密を共有する仲間はルビーもいるべきだ。


「私、これでも結構強いからね。すぐに見つけてくるから、待ってて!」


「わかりましたわ、フィーネにお任せします。……必ず助けてくださいね」


「もちろん!」


 私は頷くと、ルビーの家から学園方面まで目指して走り出した。



 スザンナには力強く返事したものの、未だ鳴り止まない雷鳴の音とともに雨に濡れる街を見ると、どうしても不安で押しつぶされそうになる。


 彼女とは短い付き合いだけど、それなりによく知ることができたように思う。

 喋りは独特で、そこらのヒロインよりよっぽど濃いキャラ。

 怠そうな雰囲気と喋りの割に、頭の回転が速く、ずばずば切り込んでくるタイプ。


 真面目、という印象はない。

 だけど……不真面目かというと、それは絶対に違う。

 彼女は誰よりも、自分の人生に真面目に生きているのだ。


 じゃあ、何故ルビーは突然いなくなったか。


「私の、せいなのでは……」


 ……考えすぎなのかもしれない。

 だけど、彼女がいなくなったということは、狙われる理由があったということ。


 誘拐。

 しかし、ルビーは魔法学園に通う貴族とはいえ特別裕福なわけでもなければ、王国中枢に近しい存在でもない。


 ただ……敢えて言うなら、私の友人だ。


 山賊に襲われたエドお父様の娘であるフィーネの友人。

 もしも、そのせいでルビーが狙われたというのなら……!


「私の、せいだ……」


 ルビーは馬鹿じゃないことはもちろん、鈍いわけでもない。

 まして貴族の通学路であるこの付近で誘拐されたとなると、普通の犯人とは思えない。

 間違いなく、手練れだ。それも山賊などとは訳が違う、相当なレベルの。


 そんな連中にルビーが狙われるとしたら、真っ先に疑ってしまうのは自分しかいない。


「私のせいだ……!」


 自分の口から自分を責める声が溢れ出る。

 しかし、今は自分の気を滅入らせるだけの悲観主義ペシミズムに酔っている場合ではない。

 この瞬間にも、ルビーの身に危険が迫っているのだ。


「必ず助ける。こうなった以上、なりふり構っていられない。《マップ》」


 ある程度家が少なくなった道に出たところで、私は自分だけのチート魔法を使う。

 街の様子が手に取るように分かる。向こうが住宅街で、あっちが学園で……。


 土砂降りの中、ほとんど人も出ていないはずの道から外れた遠くに、複数の人がいる。


「あんなところに、一体何の用が……?」


 私はその方向へと足を進めた。




 普段は人の入らない森の中、魔物もいない平和な森だが、虫も多く決して歩きやすい場所ではない。

 草木を踏みしめながら、私は木々の間を進んでいく。

 未開発というか……こんな場所がそのまま残っているんだから、日本の狭い土地感覚とは大分違うなって思う。

 バスとか乗っても平野ばかり数時間とかあったりするからね。


 マップの魔法は、さすが反則魔法ということもあって便利だ。

 マナチャージの影響か、かなりの範囲を見られるようになっている。


 森の中で気付きづらかったけど、いつの間にか日が沈んでいた。


「……こんなところに、小屋?」


 明らかに街から離れたところに、誰が使うのか分からないような小屋がある。

 中にあるのは、一人の人間の反応。


 そして——。


 私は、扉を開く。


「んーっ!」


 恐らくそうだろうという予想通り、中にはルビーがいた。

 口元に布を被せられて、苦しそうにしている。

 普段の眠そうな眼は見開かれ、何度も大きく首を振っている。


 ああ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。


「《マナチャージ》」


 私が小さく呟くと、ルビーの動きが止まる。


「……《マナチャージ》、フッ」


 二度目のマナチャージを小声で使ったところで、ルビーが再び瞠目する。


 小屋の中に、足を踏み入れる。

 中は暗く、森全体に当たっていた雨音のボリュームが小さくなる。


「……」


 ルビーを、黙ってじっと見る。

 一歩近づく。

 一歩、一歩。


「大丈夫」


 私はルビーに一言告げると……手を()()に向けた。


「《マナウィンド》」


 発動した魔法が、私の後ろに迫っていた人物を吹き飛ばして巨木に叩き付ける。

 人間に向かって撃つのは厳禁だけど、今は知ったことではない。


 私は怒っているのだ。


「な、何故……」


「私の方が一枚上手だっただけ」


 返事を聞くと、ルビーの方へと歩きながら後ろを向いた。

 さあ、誘拐犯とのご対面といこうか。

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