初めての校外活動で、魔道士の役目を学ぶ
本日の授業は、少し変わった授業だ。
私はその授業の特異性を、隣にいる見知った人を見ながら意識する。
「フィーネちゃんはこの中で一番隣に居なくても大丈夫そうだけど、知ってる子がいると安心しちゃうのよね」
「あー、その気持ち分かります。って私はまだ属性習いたてですよ?」
「そうじゃないのは、アンヌから聞いてるわよ〜?」
「うっ……そういえばレイチェルさんは先日も来てましたね……」
そう、隣に居るのはゼイヴィアの母親レイチェルさんである。
この世界の結婚年齢の低さと、まだまだ小学生の母親ということもあり、見た目はかなり可愛らしい女性だ。
本日の授業は、実際の魔物討伐を行う。
行うといっても、実際に行うのは今回付いてきた選抜魔道士グループである。
私やクラスメイトの皆がすることは、それを見ることだけ。
それだけでも、一体どういうことを勉強しているのかをしっかり意識できるようになる。
これから自分たちが魔法を学んでいくのは、自分たちだけが使える力で皆を守るためなのだと。
……そして、このイベントは原作のフィーネにとって、一番最初に明確な害意を向けるシーンでもある。
フィーネは実際にはぐれた魔物をシンディにぶつけて殺害を謀る。
今回は、そうはならない。
なんといってもシンディが、ずっと私と繋がっているからだ。
「フィー姉様、怖くないのですか……?」
「怖くないこともないけど、でもレイチェルさんが一緒だし」
「まあ、そんなに信用してもらえるのなら頑張らなくちゃね」
レイチェルさんは、私と同じ風を基本属性に持つ人。
そして王国内でも間違いなくトップクラスの女性魔道士。
参考になる部分は沢山あるはずだ。
「今回はアンヌも来るはずだったんだけど、再婚相手の……エドワード様だったかしら」
「お父さんが?」
「何でも『緊急の予約客』ということらしくて、急遽アンヌが入ることになったのよ。本来ならそんなことで対応するはずないんだけど、相手が大物らしくて」
へえ……そんなことが。
アンヌお母様、来たかっただろうなあ。
「それにしても……」
レイチェルさんが、シンディの方を興味深そうにじっと見る。
大人のガン見に、私の腕を掴む力がちょっと強くなる。
「な、何でしょうか……?」
「いえ、ゼイヴィアもあなたに感謝していたみたいだし、私からもありがとうって言っておきたくてね」
「……え? え?」
何故かお礼を言われたシンディは首を傾げる。私も首を傾げる。
「何かありましたか?」
「ふふっ、秘密」
はぐらかされて、シンディは再び首を可愛らしく傾げる。そんな動作がいちいちあざといほどに可愛い。
ふーむ……。ゼイヴィアとシンディとなると、確実にクレメンズ関係だと思う。
ゼイヴィアからすると、シンディの存在は……。ああそっか、そもそもシンディを紹介するまでは私をクレメンズが聞きたがっていたんだっけか。
そりゃあ確かにシンディの存在は有り難いはずだ。
つまり今の話は、シンディのお陰でゼイヴィアが私を……!
あうう、しまった! これ私を中心とした話だ!
っていうか、それってやっぱりゼイヴィアから見ても、王子に取られたくないと思うぐらいシンディより私一本に絞っているという意味で……!
「あらあら、フィーネちゃんってば……やっぱり、頭いいのね。入学したての子とは思えないわ。アンヌったらどんな魔法を使ったのかしら」
「えっ!? フィー姉様、何か分かったのですか?」
「ひ、秘密っ!」
えー、と口を尖らせるシンディを無視してずんずんと進んでいく。
……まあ、腕を組んでいるのでそのまま一緒に来るだけだったんだけどね。
さて、魔物に関しての説明をしよう。
まず大前提として、この辺りには学園の周りを囲うように建てられた壁を越えられない程度の魔物しかいない。
そりゃまあ学園の周りにそんな怖い魔物がいるのならもっと警戒しているし、第一そんな場所に学園が建つはずがない。
だから、魔物がいることも含めて実地訓練に向いた場所なのだ。
「それではみんな、一カ所に集まってね。そろそろ出てくるはずだから」
先生の指示でお互いを確認しながら二十数名ほどの生徒が集まっていく。
相も変わらずシンディは私と一緒。
そういえばメルヴィンは…………あっ、いたいた。
その視線は、レイチェルさんの方をじっと見ている。
そっか、メルヴィンにとってもレイチェルさんは目指すべき人だ。
特にスーパー教育ママから厳しく強くなることを言いつけられているメルヴィンにとって、レイチェルさんの戦いを見ることは何よりも大切なこと。
「しっ、音が聞こえてきたわ。そろそろ見えてくるはず」
レイチェルさんが宣言し、皆が声を止める。
いよいよ魔物との対面だ。
……なんか遅いな。
ていうか、だんだん音が大きくなってきているような……。
「おかしい、わね……」
レイチェルさんが杖を構える。
他の大人達も緊張しだしたようだ。
ぱきり、と音を立てて森の奥から陰が現れる。
その大きさは……明らかに、人間の背丈より大きいもの。
マーガレット先生が呆然と呟く。
「……こんな場所に……どうして……?」
正面に現れたのは、明らかにここら辺りで出てくるはずのない、紫色の巨大な猪だった。