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学園長の秘密、ティルフィーネの秘密

 以前の練習でもあったとおり、私が最後の生徒ということで属性判別クラス全員分が終わった。

 ざわざわしている生徒達を見て、先生は手をぱんぱんと叩く。


「それではみんな、先生と一緒に教室に戻ろうね。フィーネさんは、学園長先生と一緒に残るように」


「はい……」


 なんだかよく分からない展開だけど、学園長はがっこーのしゃちょーさんみたいなもんである。

 怖い物知らずの子供ならまだしも、ある程度精神年齢が高くなった私からしたら雲の上の人なので、大人しく言うとおりにします。


 先生に連れられて生徒が部屋を出て行く。

 最後にシンディが振り返ったので、私は心配を掛けないようにぱたぱたと手を振って応えた。


 大丈夫大丈夫。

 取って食われたりはしないよ。

 ……多分。




 最後にシンディがぱたりと扉を閉めると、こんなに広かったのかと思うほどに部屋はがらんとしていた。


「ちょっと寂しい部屋なのよねえ」


「生徒を入れるためとはいえ、ここまで広いと落ち着かなさそうです」


「分かる? ふふふ、そうなのよぉ」


 柔和な微笑みのお婆さま状態の学園長が、手招きをする。

 恐る恐る近づくと、くすくす笑われてしまった。


「もっと無邪気なものかと思ったけれど、あなたはなかなか警戒心が強いというか……思慮深いわね」


「えっ、と……そうですか? 私の友人達も、私以上に頭いい子だなーって思うんですけど」


「そうなの、名前を聞いても?」


「スザンナと、ルビーです」


「あら、トライアンヌの友人の娘じゃない。なるほど、いい育て方をしたのね」


 くすくす笑いながら思いを馳せるように宙を見る学園長。

 さすがというか、生徒と保護者だけじゃなく、それぞれの人間関係も含めてまるっと暗記していますか。


「でも、一番はあなた」


 再び学園長が私を見る。


「マーガレット先生から聞きました。私にも、あなたのマナチャージを見せてもらえるかしら」


「マナチャージ、ですか?」


「そう。四回やったと聞いてるわ」


 うわーっ、そりゃ聞いてますよねーっ!

 学園長としても、マナチャージを複数回やる人の話は珍しいのだろう。

 それにしても、今から見せる……かあ。ちょっと午後の授業大変そうだなあ。


「もし見せてくれたら、あなたの魔法についてお話しします」


「やります」


 即答。

 明らかに秘密を知っていそうな学園長の言葉に、私は即イエスを返す。

 ゲーム中になかった部分、知らない知識などは徹底的に知っておきたい。


「もし、私の色について他の分野も教えていただけるのでしたら、教えてください」


「いいわよ」


 学園長がすんなり頷いたところで、私は近くに寄せてあったソファの上に寝っ転がり、慣れた単語を紡ぐ。


「《マナチャージ》」


 まず一つ。


「《マナチャージ》、ふうっ……」


 二つ。ここまでは余裕だ。

 三回目もいつもやっているから、寝ないようにさえすれば大丈夫。


「すぅ、《マナチャージ》、ふぅ〜っ……」


 天井を見る。少し髪が引っかかったので手ぐしで直していく。


「……大丈夫なの?」


「三回は入学前からの日課ですから」


 軽く手を振って返事して、最後にもう一回。


「すぅ〜……! っ……《マナチャージ》……! ふぅ〜〜〜〜〜〜〜……」


 ちょっと声に力が入りすぎたかな。

 今日はいつもよりジェットコースター感が強い。


「すぅ〜〜〜……。……。……っふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜……」


 二度目の呼吸で、手足の隅々まで魔力が行き渡ったようだ。

 少しふわっとするけど、先日より大分マシかな。

 ここ最近気合いを入れて練習し直したことも影響しているかもしれない。


 ゆっくりと起き上がる。

 ……うん、大丈夫みたいだ。


「フィーネさん……?」


「……あ、はい。失礼しました。立ち上がるのはまだ慣れないんですけど、それでもほら」


 私はその場で、軽く飛び跳ねる。

 学園長は、目玉を大きく開いて驚いていた。


「こんなもんですよ。慣れたらまあ、大丈夫。五回目とかもいけるんじゃないかなあ? まださすがに試しませんけどね」


 学園長に、ちょっと余裕な感じでスカートつまみ上げてカーテシー。


「……ふふ、ふふふふふ……!」


 黙っていたと思ったら、突然笑い出す学園長。

 ちょっと呆気にとられちゃう私に対して、突如黙ると……再びあの猛禽類のような鋭い目になった。


「光、というものは不思議でね。混ざると絵の具とは違う色になるのよ」


「光の混色……ですか? 明るくなるパターンですよね。赤青緑の」


「……噂には聞いていたけど、あなたって本当に読書家なのね。どこの本に載っていたかしら」


「えっ!? えっと、どれだったかな……すみません、濫読らんどく家でして」


「自分のことを濫読家なんて難しい呼び方する時点で、なかなかの本の虫ですね」


 ニイッと笑って、手元の水晶に手をかざす学園長。

 そこに現れたのは、眩いばかりの……マゼンタ。


 ……マゼンタ!? こんなどぎついピンクみたいな色が水晶から出るの!?


「ふふっ、初めてあなたの驚いた顔を見ました。……でも、分かるんじゃないですか? あなたなら」


「えっ……ええっと、これ、赤と青……?」


「その通り。私は、火と水の二属性ダブルです」


 ダブルマジシャン! 学園長が、相反するはずの属性を扱う魔道士……!

 ゲームではそんなプレイヤーいなかった。やっぱこの人、只者じゃない!


「すごい……!」


「あらあら、そんなこと言ってる場合かしら? あなたなら、もう私の言いたいことは気付くはずよ。ティルフィーネ・トラヴァーズ」


 学園長が、じっと私を見る。

 私が、学園長の言いたいことに気付く?


 学園長が見せたのは眩いばかりのマゼンタカラーで。

 私が放ったのは同じぐらい眩いばかりの、青。

 ……青? 光の三原色で、青があんなに眩く光る……?


 まさか。


水色シアンカラー……」


 私の呟きに、学園長が再び鋭い目でニヤリと笑う。


「そう。あなたの色は、青ではない。青は赤と緑に比べて特に弱く感じるぐらい色のはずなのよ。土は鈍い黄色。黄土色とも呼ぶわね。だけど、あなたは間違いなく眩い青を放った。それを判別するためにも、全ての生徒を私が見なくてはいけない」


 そして学園長は立ち上がり、腕を組んだ。


「トライアンヌはもちろん、キングスフィア家にも連絡をしなくてはいけないわね。二属性ダブルの風と水を持つものが現れたと」


 風と水のダブル……!


 ゲームのやられ役である妹なんて、ティナ姉に比べてスペックは全て劣っているようなものだと思っていたのに。

 とんでもない、魔法はフィーネの方が圧倒的に上だ。

 全然知らなかった。


 そう……フィーネは、そもそも努力しなくてもボスになれるほど元が優秀なのだ。

 その上で、私がマナチャージによって水属性の才能を引き出してしまった。

 結果的に出来上がったのが、今の二属性ダブルのティルフィーネである。


 やばい、本物の天才だぞティルフィーネ。


「国の未来と子孫のためにも、相手選びを考えないと。王子も候補に入るわよ」


「えっ、クレメンズ様ですか……それは……」


「おや、もう知り合っている様子……ですが、王子様相手ではあまり気乗りはしないのかしら? あまり自由には選ばせられないけれど……他に仲のいい人が?」


「うぇっ!?」


 他に仲のいい人、と言われてびくっと反応してしまった。

 学園長の話によると、完全に政略結婚の一端を担っているような気がする。

 う、うう……眼力強い。真剣な大魔道士モードの学園長の眼力めちゃ強い。


 これは、腹をくくって言うしかないか……!


「ぜ……ゼイヴィア……」


「え?」


「エグゼイヴィア様です……去年から何度も家に来ていただいています……。レイチェル様にもよくしていただいていて……」


 学園長は、きょとんと目を点にして……表情を緩めて笑い出した。


「ふっふふふふ……! これは傑作だわ! メリウェザーの長男じゃない! あなたって可愛い顔して抜け目ないのね!」


「う、うう……恐縮です……。あと、それとは別に」


「あら、まだ何かあるのかしら」


「クレメンズ様は、妹のシンディをよく相手にしてくださっているため、私がクレメンズ様を取るようなことは、最愛の義妹のためにも遠慮したいなあと……」


 ……言っておいて、後からこれが魔道士団団長と王子をがっつり狙ってる宣言でしかなかったことに気付いた。

 抜け目ないというレベルじゃない、王国の心臓部をトラヴァーズ家が独占しようとしているようなものである。


 私のそんな言葉に学園長の我慢は限界を迎え、ついに大声で笑い出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] これってどうあがいても弱点付けないやつやん。 そして王族とのコネ。 誰が手を出せるというのだろうっていうレベルのヤバさよ。
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