一足お先の魔法属性鑑定
改めて説明しよう。
このゲームの魔法には、四つの属性がある。
火は風に強い。
風は土に強い。
土は水に強い。
水は火に強い。
基本は四すくみで、それぞれの属性を一人が一つ使う。
覚醒メルヴィンの雷みたいな特殊なものもあるけど、実は水に強い……わけではない。
お母様は土以外の弱点がないのだ。
自分で作った灰を被る、灰被り姫。
それが『グレイキャスター・シンディ』というゲームである。
シンディは、その燃えるような眼に象徴されるように、火の魔法を覚える。
シンデレラというのなら青い眼の女の子のような気もするけど、実際は赤い眼なのだ。
それが、この子の特徴となっている。
私は白いショートヘアに、エメラルドのような綺麗な瞳。
瞳の色と魔法は一致するわけではないけど、私の場合はその眼が象徴するような爽やかな風の魔法を使う。
もちろん上位の風魔法は、空気を切り裂き嵐を呼ぶ魔法になるんだけどね。
マナチャージの授業はそれからの一ヶ月で更に皆上達し、マーガレット先生のクラスはうらやましがられるようにすらなっていた。
こういう授業の進み具合に関する話がクラスごとにずれちゃって大丈夫なのかとも思ったけど、逆に返されてしまった。
『そもそも全員を横並びに進めたら、常に一番遅い人に合わせることになるけど』
……そりゃそのとおりである。
成績が一番下の生徒が満点を取るまで優秀者も次の学年に上がれないなんて制度になったら大変だ。
別のクラスの優秀者などを入れ替えて授業を行うという例はあるみたいだけど、それも先生と保護者の両方が判断するみたい。
他の先生も負けじとクラスの授業を気合い入れてやったり、保護者からあっちに移してほしい的なお願いがあったりしたとか。
でも、ここは全てが平等な学校。王子様=クレメンズですら自分で勝手にクラスを変えられないという説明を受け、保護者各位はぐぬぬしつつも聞くしかない。
あと何よりも……今年はクラス全体が優秀だったという例だけど、マーガレット先生は去年度一番進みが遅いクラスの担当だったということを説明すると、保護者も声が詰まる。
自分の子供をクラス替えさせた途端に最下位になる可能性が高いからね。
つまり、どちらがいいかなんて分からない。
それでも分かることは、ただ一つ。
最後は私が家でマナチャージをやっていたのと同様、自分自身が頑張るしかないのだ。
努力は宿題と違って、誰かが代用してくれるわけじゃないからね。
まあそんなわけで、私達は一歩進んでの授業となった。
「大前提として、皆さんは魔法を覚えても、学校以外で勝手に魔法を使ってはいけないわ。平民に使うなんて言語道断よ」
そわそわしている生徒や、あんまり真面目に聞いていない生徒もいる。
先生はその生徒に向かって、しっかり念を入れて説明する。
「守れなかった場合は、学校をやめてもらうのよ。過去にそれで辞めた生徒はいるわ。上級生は今の貴方たちより、とっても強い魔法使いなの。中等部はもっと強くなるし、高等部は大人顔負け。だけど退学したら、その場で終わり。今隣にいる子にも、永遠に置いて行かれるわ。一年も経つと、もう埋めようもない差が生まれるの」
『クラスメイトとの差が生まれる』と言われた時点で、話半分に聞いていた子にも緊張が走る。
……いい教え方だ。
子供は純粋。その言葉の聞こえはいいが、実のところ子供は善悪の判断が何も付かず、どんな悪事も悪いことと認識しないことにある。
今のこの子たちは、きっとその判断ができない。
だから子供に性善説を説くより、『隣のクラスメイトより弱くなる』という純粋に嫌がる状況を説明する方がいい。
力には、責任が伴う。
貴族の権利である『ノブレス・オブリージュ』が、ここではそのまま魔法の力になる形だろう。
それを覚えるのは、きっとまだまだ時間がかかる。
……大人だって、欲が出たら守れない人は守れないものだからね。
先生が、ぱんっ! と手を叩く。
「少し怖がらせてしまったけど……でも、あなたたちはちゃんと私の言いつけを守ってくれると思っているわ。大丈夫、このクラスはとっても凄いの。真面目に練習していたら、きっとみんな凄い魔法使いになるわ」
みんなの緊張もそこそこにほぐれてきたところで、属性を見る儀式が始まった。
まず、全員で学園長の部屋に入ることになる。
学園長の部屋はとても広く、なんかもう土地が余ってる世界ならではの豪華さって感じ。
ちなみに毎週の朝礼みたいなものがあるわけではないため、学園長に会うのは入学式以来。
柔和なおばさまという感じの人だけど……きっとこの人もすごい人なんだろうな。
「三ヶ月目で属性測定なんて、去年の汚名をばっさり塗り替えちゃうリベンジね、マーガレット先生」
「は、はい、光栄な限りで……!」
学園長を前に、急にハンカチを取り出して汗を拭き始めるマーガレット先生。
「ところで、例の生徒は」
学園長が顔を寄せて、小声で——しかし他の生徒が黙っているので、よく聞こえる声で——マーガレット先生に話しかける。
例の生徒……?
と思った瞬間、マーガレット先生と目が合う。
「フィーネさん、いいかしら」
「……はい?」
何故か私が呼ばれて、隣のシンディと首を傾げながらも前に出る。
学園長先生は、柔和な微笑みで腰を屈め、目線を私の高さまで下ろす。
「あなたが、トライアンヌさんの娘なのね」
「は、はあ……」
「後で残ってもらってもいいかしら?」
断る理由もないので、黙って頷く。
学園長は満足そうに笑うと、再び先生へと顔を向けた。
うーん、何の用事だろ……?
軽く先生から四属性の説明があった後、一人一人の選定が始まる。
水晶を嵌めた魔法陣のような不思議な物体に手をかざして、ぶわーっと光の色が出て魔法の属性が分かるというありがちなやつ。
水とか使ったり、あるあるだよね。
クラスメイトの赤い光や青い光などを見ながら、ぼんやりと様子を見る。
まあ基本的に四つだけだよね。その属性に一喜一憂……というよりは、ふーんみたいな感じで反応する。
マーガレット先生はもちろん、学園長の表情に驚く。
先程までとは違い、物凄く真剣な顔なのだ。
……この人は、恐らくお母様を含めて学園から輩出された生徒全てを記憶しているのではないだろうか。
私はそんなことを思いながら、腕を組んで学園長の方をじっと見る。他の生徒の魔法は視界の隅でも色ぐらいは見える。
ゲームのストーリーにはほとんど出番なんてなかったけど、只者なわけないのだ。
スザンナやルビーと同様に、この人の人生というものを想像するのも面白いかも。後で教えてもらうってのもありかもね。
メルヴィンが緑……嵐の色ということで、私と同じ風なのだ。
ここからあの雷の力が出るのだから面白い。
……そういえば覚醒イベントって意図的に起こせたりするのかな?
起こせなかったら、ひたすら強い風魔法使いというあたりを目指してもらおう。
シンディは、もちろん赤。それもかなり強い色だ。
「わわ……ティナ姉様と同じ色ですか」
先生が書き込み、学園長がシンディをじっと見ている。
シンディが緊張から首を竦めると、学園長は表情を緩めて首を振り微笑んだ。
元平民だから、注目している部分もあるのかもしれない。
……っと、そうだ。私だったね。
「次、フィーネさん」
「はい」
私は緊張しながら、自らの身体に出る色を待つ。
ゲームの通りなら、緑のはず……だけど……。
「……。なるほど、お母さんと同じ色ね」
そこから溢れ出すのは、何故か……眩いばかりの青っぽい色。
……青?
えっ、青!? フィーネの属性、水になってるの!?
「慌てた様子ですけど、どうかなさったのですか? フィーネさん」
「えっ!? あっ、いえ……?」
おかしい。フィーネは風であるはずだ。
っていうか、風の魔法を使ったはずなのだ。この色は有り得ない。
「——これは、久々に来ましたね」
慌てる私が声のする方を見ると……先程まで生徒をじっと見ていた学園長先生が口角を上げていた。
その表情は、先ほどまで見せていた柔和な微笑みではなく、老練さを感じさせる大魔道士の媼のそれであった。




