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ルビーとの会話、二人が取り巻きであった理由

 作品における脇役、というものの存在を意識する。


 悪役令嬢あるあるなんだけど、悪役令嬢には取り巻きってのがいる。

 メインとなる一人と、それを持ち上げる二人。

 漫画でも何でもそうだけど、その一人一人の人生なんて考えることはあまりない。

 見た目が違うだけの、なんか囃し立てるだけの役。


 でも、現実はそうじゃない。

 同じ格好をしたバックダンサーがいたとしても、その一人一人の性格や生い立ちが全く違うように、ただの囃し立てるだけの脇役にも当然生まれてから今までの人生がある。

 ルビーも、その一人。

 きっと、フィーネより圧倒的に聡明に見えたスザンナ同様、ゲームとは全く違う存在感で私の前に現れることだろう。

 脇役、ルビー。果たしてどのような人物なんだろうか。


 ——まあ、原作シンデレラにとっての継母の次女という私こそが、本来は一番脇役ポジションなんだけどね。




 その日の午前も無事終わり、約束の時間となった。

 シンディとも当然一緒に登校しているため、事前に私がルビーと会いに行くことも知っている。


 このことに関して、事前に手を打っておいた。


「シンディ」


「あっ、クレメンズ様」


 ティナ姉に言って、出迎えに来てもらうように頼んだのだ。

 すると、結果ティナ姉より先に現れるのはクレメンズである。


 一体ゼイヴィアが何を仕組んだのか、クレメンズはこちらを見ながらもシンディに控えめに手を振ってアプローチする。

 腕を組んで扉にもたれかかりながら、組んだ手の指を動かすようなキザな挨拶。

 クラスの女子は「キャー!」である。


 お忍びアイドルの顔バレか。

 いや似たようなもんだったわ。


 いくら頭で『全ての皇族貴族は平等』と分かっていたとしても、新入生にとって当たり前のように王子が現れるのはそれだけで一大イベントだ。


 ただ、一部うらやましがっているような表情を見せる人もいる。

 ……それこそ、原作での私のような感じの。

 まあ……気持ちは分からないでもないけど、ね。

 でもそれは、一度平行宇宙(ゲームせかい)で死んだ私からすると、高望みにもほどがあるってもの。


「シンディならクレメンズ様と並んでも、見劣りしないわね。私は普通だし」


「へっ!? そ、そんなことないですよ。フィー姉様だって十分お綺麗で」


「お姫様枠に入れるほど自惚れてないよ。そこまで自己評価が高すぎるほど自信満々なんてなれないって。普通の神経してたらね。シンディも、あくまで私から見てアリってだけだから。まあ本気でシンディなら、って思うけどね」


「も、もうフィー姉様ったらぁ……」


 赤面しつつもニヨニヨしているシンディの可愛さに、私も口元が緩む。

 そして、ちらりと周りを見ると……うんうん、何人か下を向いている人もいる。


 そう、私自ら『王子と釣り合わない』と断言するのだ。

 実際客観的に見て、フィーネの見た目って極端に悪いわけじゃない。

 だから、私がそう宣言することで『普通の神経してたら王子様に釣り合うと思い込むとかないわー』と皆に意識させたのだ。


 さすが貴族令嬢だけあって、子供といえども効果覿面である。

 王子に釣り合う相手は、王子が選ぶのだ。


「あ、スザンナが来た。それじゃシンディ、また次の授業で」


「はいっ!」


 こちらに見えるように手を振るスザンナ……と、ルビーも陰に隠れて一緒にいた。

 私は二人に合流し、シンディはクレメンズとティナ姉のところへ向かう。


「お待たせしましたわね」


「ううん、ちょうどいいタイミングだよ。行こう」


「……。……?」


 ルビーはこっちを見ながら首を傾げている。

 なんだかこの子もこの子で、独特の魅力があるなあ。


「お昼は先日同様サンドイッチをもらって庭でいいよね」


「構いませんわ。ルビーも?」


「ん、ん。それで、いきましょう」


 猫背気味のルビーと一緒に、サンドイッチを取って目的の場所へ来た。




 約半月ぶりのスザンナとの昼食。

 しかし今回のメインはルビーだ。


「それで、えーっと……ルビーから私に、質問はある?」


「うえっ!? うえ、うええ? わたしから、ですか?」


「そんなに狼狽しなくても……何もないのなら、いいけど」


「いえ、あります、あります。……まず、あのシンディって子、義理の妹なんですよね」


 おお、まずはシンディのところから来たかあ。

 私はもちろんと頷く。


「さっきの、フィーネ、見てました。ふしぎ……別人? 別の人でしょ?」


 一瞬どきっとする。

 比喩のつもりで言ってる……のだと思う。本気で別の人だと思ってない……はず、だと思う。


「ちょっとルビー、はしたないですわよ」


「だって、この人、存在としての基本骨子が違う。そもそも、フィーネは、美人も嫌いだし、男は一人ですら譲らない。それが、私の知っているフィーネ、です。……あなたは、誰?」


 私が思っていた以上に、かなり踏み込んでくる。

 ルビーのことを侮っていたかもしれない。

 ごまかしが利かないぐらいぐいぐい来る。


 ……ならば、間を取るしかない。


「本当は……過去の記憶が曖昧だから、確かにルビーの言うとおり別人なのかもしれない」


 別人であることを半分認める。別人であることを明確に意識していながら、ね。

 私の告白に、ルビーは……驚かず、「ふむ」と口元に手を当てて頷くのみ。


「半分がフィーネ、半分が別人格……そして後者が強く、前者の記憶を、持っている……?」


「そ、そんな感じ……かな? 全く別人というほどではないのだけど、過去は結構悪いことした記憶もあるし……」


「疑いませんよ。ええ、私のこと、忘れてないんですもの。それが理由の、両方、です」


 え? 理由の『両方』って何だろう?

 比喩表現的なやつ?


「本来のフィーネは、女の名前なんて、覚えない。友達だと思ってたの、わたしだけ、みたいな。だから、わたし……ルビーの記憶があるあたりが以前のフィーネであり、ルビーの名前を覚えているあたりが以前のフィーネじゃない、です」


 ……お、驚いた。ふわっとしたポエム的な言い回しなのかと思ったら、とっても論理的だ。

 その理屈を十二分に納得して理解したように、スザンナも頷いている。


 マジか。取り巻き二人、めっちゃ頭いいんじゃん。


 それぞれに、設定されていないパーソナリティがあるとは思っていた。

 だけどこれは想像以上だ。

 誰かがふわっと脇役として設定したような頭脳ではない、生きた人間の叡智って感じ。


 私は、先ほどのルビーの言葉を思い出す。

 ああ言った、ということは……。


「……過去の私がルビーのことをどう思ってたかは、もう思い出せないけど……。私は、友達のつもりというか……えっと、ルビーさえよければ……ずっと友達、でいたいんだけど、どうかな?」


「……!」


 ルビーは、そのちょっと病弱気味な目を開くと、黙ってこくこくと頷いた。


「ふふふふふ……今の方が、絶対いい。元のままなら、さすがにもう、付き合えないって、お母様に、言うつもり、だった。だけど、今のあなた、とっても良い。特別、です」


 私にとっては、ルビーほど特別なキャラクターいないと思うよ。


 二人が味方にいるの、かなり安心感あるなあ。

 これからは取り巻きとしてではなく、対等以上の女友達として二人のことを尊重しよう。

 きっと貴族社会の大先輩だ。




 ふと、思いついたことを聞いてみた。


「例えばだけど」


「うん」


「私がワガママと犯罪、殺人未遂の果てに王子の反感を買って処刑されたら、二人はどうする?」


 二人は顔を見合わせて、同時にこちらを向いた。


「他人の振りして他国に身を隠しますわ」


「同じく、逃げ、一択です」


 はい疑問解決。

 そりゃこんだけ頭のいい初等部の二人なら、状況を理解して逃げるぐらい平気でやりますね。


 それではその全てを踏まえた上で、最後の質問だ。


「自分で言うのもなんだけど、私みたいなのに関わりを持とうとしてくれた理由は? もし元の性格のままでも、スザンナは私に声をかけてきてたよね」


 私の疑問は、それだ。

 どうしてスザンナとルビーは、フィーネの取り巻きなんてやっていたのか。


 スザンナは少しルビーを見たあと、小さく頷き合って私に話しかけた。


「私もルビーも、両親共々魔力が低いのですよ。それでも学生時代は、ばらばらに選ばれて同じ班に振り分けられていたトライアンヌ様に、ずっとお世話になっていたのですわ」


「はい。それ以来の、付き合い。ここだけの話、あなたというより、あなたのお母様の、傘の下。そこに入って、おきたかった、です」


 なるほど、納得できる理由だ。

 親同士の付き合いということは聞いていたけど、貴族の確執ってんじゃなくてレイチェルさんと同じように友人同士の付き合いなんだね。


 ……だとすると、この二人も決して魔力が高いわけではないのか。


 私は、ふと二人に提案してみた。


「今ね、放課後に何人か友人知人を集めてマナチャージの練習してるの。二人はもう私の友人だし、もしよければどうかな?」


 今度は二人とも互いに目を合わせる前に、同時に頷いてくれた。

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