加速度的に広がるマナチャージの輪、そして皆の本当の顔
そんなわけで、奇妙な放課後の関係が出来上がった。
クレメンズ、ゼイヴィア、メルヴィンといった攻略対象の面々に、私フィーネがラブロマンス! ではなく、大真面目に弟子入りを願われている。
どうしてこうなった。
いや、ほんとマジで。
そして、このグループに混ざってくる、もう一人の存在が出てきた。
……まあ、予測は付くよね。
「アタシだけ仲間はずれなんてずるい!」
ゼイヴィアがティナ姉に話をしたところ、当然のように放課後はティナ姉も混ざってくるようになった。
それにしてもマーガレット先生、これ一部生徒の優遇みたいですけど、いいんですかね……?
「……えっと、それはその……じ、自主的に! そう、自主的に頑張りたい人向け、ということで!」
……まあ、塾みたいなものだと思えばいっか。無料だけど。
あれも学校教育とは別に予習復習をすることで学力の差が出てくるものだけど、それを優遇として厳しく管理する教師とか聞いたことない。
そりゃそーだ、自主的に頑張ることに悪いことなどないのだから。
ってなわけで、再び始まりました気功の——もとい、魔力を安定させる呼吸法。
私は皆の前で実演して、それから周りの皆を見ていく。
先日と同じようにマナチャージを順番に、一人ずつやってもらうのだ。
ちなみにちゃんと、事前に『勝手に魔法を使わないように』と厳命してる。
まず、クレメンズ。
さすがにセンスは良いね。私が支えようとすると近くにゼイヴィアが待機してくれたけど、倒れること自体はなかった。
そりゃあね、シンディと一緒にラスボスに挑む王子様だもんね。魔力の扱いが下手なわけがない。
魔法を使い終わった後、ドヤ顔で腕を組んでゼイヴィアを見ていた。
「はいはい、ソラっちはすごい」
「敬意が足りんぞ、エグゼ」
二人はお互いを略称で呼び合う仲。なんだかそれだけで、特別な感じがあるね。
この辺りの関係も興味深い。
でも仲よさそうに悪友って感じで笑う表情からは、お互いの立場を感じさせない等身大の子供らしい本当の顔って感じがする。
……んー、それにしても……何かひっかかるんだよなあ。
でも……何が、だろう。
また後でじっくり考えよう。
次に、ゼイヴィア。
作中最優秀なだけあって、魔力の扱いはぶっちぎりの巧さ。
さすがとしか言いようがない。あと魔力量もやっぱりちょいと多めな気がする。
「問題なさそうですね」
「……フィーネは、どうやってこの呼吸法を?」
「その、本当に自然に、そういうふうに最初にやったというか……たまたまぴったり嵌まったというか……」
「……凄いね。こういうことをすぐに思いつけるのは、やっぱり頭がいい証拠だ。知識だけじゃなく、知恵が働くというか。凄いよ、フィーネは」
はい来ました! ゼイヴィアの褒め殺しタイム!
学園一番を約束されている彼は、自分に厳しく他人にもやや厳しい。
そんな彼の攻略方法、親密度の上げ方が知識量全振りなだけあって、親密になる頃にはプレイヤーを甘やかすが如く褒めまくってくれる。
……ってことは、今の私、それぐらい頭いい扱いってこと?
こ、これはますます、高等部になってから期待を裏切れなくなってしまいましたね……。
ひえー、塾講師みたいなの異世界あるのかな。なかったら、マジで自主勉強がんばらねば……。
「次! はいはい次アタシ!」
二人のマナチャージを見て待ちきれない様子のティナ姉は、元気よく手を上げてずずいと前に出てくる。
うーん、やっぱりこういうところティナ姉って感じで可愛い。
……ほんと、明るい女の子だなあ、レヴァンティナ。
こうやって学校に居ると……どうしても、ゲーム中の眉間に皺を寄せ続けた顔を思い出してしまう。
本当の、顔か。
——本当の顔があるのは、ティナ姉とアンヌお母様だけなのかな。
「《マナチャージ》!」
そんなふとした疑問も、ティナ姉の全然話聞いてない感じの叫び声を聞いてかき消える。っていうか現実に引き戻される。
これ初日に最初の生徒がやった、明らかに気合い入れすぎて強いマナチャージが発動しちゃうパターンだ!
そりゃそーだよね! ティナ姉だもんね!
私は慌てて、倒れかかってくる目の前のティナ姉に抱きつく形で、身体を支える。
「ふしゅぅぅぅ〜〜〜〜〜……」
そして、耳元からわざとらしいほどに聞こえてくるティナ姉の息を吐く音が聞こえてきて、すぐにティナ姉は立ち上がった。
「……す、すごい! これすごいわ! 身体が軽い!」
それからティナ姉は、その場でぴょんぴょん飛び跳ねたり、なんかバク転とかやり始めた。ほんとアクティブだなあ……って、ぱんつ! ぱんつまるみえ!
「ティナ姉、落ち着いて!」
「落ち着いてられないよ! たのしい!」
「下着見えたのお母様に言うよ?」
ティナ姉、ぴたっと止まる。
伝家の宝刀、アンヌお母様チクりの刑。
「じょ、冗談だよねフィーネ。ね?」
「……まあ、今回は大目に見るけど、次お淑やかにできなかったら予告なくお母様に言いますので」
「う……まさかフィーネがマナーの先生と同じようなことを言うなんて……」
言われてるんじゃん!
そりゃまあ、ティナ姉がいろいろ令嬢として残念なのは予想が付いたし、実際残念なのはスザンナから聞きましたからね。
徹底的にとはいかなくとも、ちゃんと素敵なレディになってもらいます。
ただ……本当に明るく楽しいティナ姉は新鮮で、その表情を見られるだけで嬉しくあるのも事実である。
なので、基本的にティナ姉に対しては甘い対応をすることになりそう。
姉馬鹿であると同時に妹馬鹿です。うちの姉妹が最高に可愛い。
——自分?
いや、自分のことは内面熟知してるんで、とても可愛いとは思えないですね……。
そんなトラブルもありつつ、今日の放課後が終わったのでした。
みんな感触を掴みつつ、これならと眠る前に練習をするみたい。
私も負けないように頑張らなくちゃ。四回五回、日課にしてみようかな?
そんなことを思いながら、私は姉妹揃って帰路についたのでしたとさ。
——しかし私は、ティナ姉の口にチャックがついてないっぷりを忘れていた。
三人で揃って帰ってきた理由をアンヌお母様に聞かれて、私が誤魔化す前にティナ姉は元気よく叫んだ。
「マナチャージの練習、フィーネに教えてもらってたの! クレメンズとゼイヴィアも一緒よ!」
それから……まあ、言うまでもないよね。
「フィーネ。食後、部屋に来るように」
はい。
本日付で、私はマナチャージにおけるお母様の先生にもなってしまいました。
作中最強ボスの先生やる負けボスってどーなんだろーね?
ちなみにお母様、初日で二回重ねの立ち上がりを成功させました。
やっぱすげーわこの人……。