メルヴィンの話と、ちょっと感じてしまう責任
グラメルヴィン・シルフカナル。
同級生攻略対象の一人である彼は、少し変わったキャラ付けをされている。
その見た目はどこか日本人女性のようで、成長した頃にもその印象は変わらない。
口数が少なく、ともすれば大和撫子のような雰囲気すらある。
しかし攻略対象の一人なだけあって、クラスでも地味あった彼が次第に成長していく様は、爽快感がある。
その手助けをするのがシンディだ。
生者必滅、栄枯盛衰。
かつての先祖が圧倒的な武勇で爵位を得たシルフカナル家。初代様の魔法は、それはもーすんごいものだったらしい。
それから代々、優秀な魔道士を輩出してきた……わけではない。
二代目以降から親の七光りと言われてきたシルフカナル家は、次から次へと魔道士を輩出するものの、中堅止まり。
初代様の威光には、ほど遠い。
そんなシルフカナル家の扱いは、さながら『没落貴族』のようなもの。
貴族としての扱いはあるが、討伐成績からは決して裕福な生活ではない。
(ちなみにトラヴァーズ家が裕福なのは、お母様がチョー強いから! お母様ありがとう!)
そんなわけで。
息子のメルヴィンは、当然のようにめちゃめちゃスパルタ教育を受けている。
魔法の授業でマナチャージを使いこなしていたのも、必然であるのだ。
そんなメルヴィンと、マナチャージの授業で失敗したことでたまたま後ろにいたメルヴィンに助けられてしまい、シンディはメルヴィンからマナチャージを勉強する。
成長していくシンディと、伸び悩むメルヴィン。それでも根気強くメルヴィンを攻略していくと、やがてピンチが訪れる。
シンディのピンチに、メルヴィンは覚醒!
イベントバトルで電撃魔法を覚え、シンディを助ける!
君の真摯な愛が、俺を強くしてくれた!
メルヴィンルート入ります!
はい、入りませんでした。
最初に倒れ込んで関係を持つところを私が助けちゃったために、二人は未接触。
ナチュラル無自覚にフラグをブチ折ってしまったため、メルヴィンとシンディの縁はなくなってしまったのです。
——って思ったんだけど。
「……私であってる?」
「うん。フィーネ。俺に魔法を教えてほしい」
えーっと……マジで私っぽいですね。
メルヴィンは、現段階でまだまだ伸び悩んでいる時期。
そして、シンディと一緒に切磋琢磨して……。
「マナチャージ、二回やってた。昨日、家でやってみたけど……とても立ち上がることもできないし、意識も保てなかった」
……ああ、そっか。
成長したいという目標に対して、私を見てしまったのか。
しかし、それで危険とされている二重マナチャージに行ってしまうあたりが、メルヴィンのすごいところだ。
「なんと危ないことを……私も最初は、気絶したんですよ」
「でも、今は使いこなしている」
そう言って、メルヴィンは私の近くで膝を突いた。
「あれほど綺麗なマナチャージが出来るようになれば、きっと俺も……」
そう言って、視線を下げるメルヴィン。
……そう、これが逆ハーレムルートなしであり、同時にマルチエンディングを迎える作品の難しいところだ。
教育ママに厳しく育てられるメルヴィンは、全てのルートで当然のように親から厳しい指導を受けている。
そしてシンディがメルヴィンを選ばないルートでは、基本的にメルヴィンの才能の花が開くことはないのだ。
正直、メルヴィンを選ばないルートのメルヴィンを想像するのは、ちょっときついなーと思う。
でもそれって、あくまでゲームシナリオだし、別にルートを選ばなかったとしても現実世界で誰かが不幸になっているわけではない。
シナリオライターのテキストを、電源付けてプログラム動かして読んでいるだけ。
でも、今は違う。
明らかにメルヴィンは、ここにいる。
そして、私がシンディとのルートを潰した。
このまま行けば、メルヴィンは未選択シナリオ確定。
そんな状況にしてしまった自分にも、さすがに責任は感じてしまう。
関係ないと言ってしまえばそれまでだけど……でも、本来シンディには魔法を教えなかったのだ。
見過ごして、枕を高くして眠ることなんてできないだろう。
何より……彼の事情を知っておきながら、女生徒の私に頭を下げる彼の気持ちを踏み躙るような真似、私にはできない。
「分かったわ」
私はメルヴィンに頷き、シンディの方を向く。
「せっかくだから、シンディも一緒にマナチャージの練習をしていかない? 私達で、ある程度復習するの。メルヴィンもそれでいいかしら」
「……いいの? 本当に?」
「ええ」
私が頷くと、メルヴィンは嬉しそうに立ち上がった。
「あ、ありがとう……!」
彼は何度も頭を下げ、私はそんなに気にしなくていいよと頭を上げさせる。
私も覚悟は決まった。さあ練習を……と思っていたところ、誰も残っていないはずの教室に四人目の声が響く。
「あの、えっと……今の話……私も、混ぜてもらえないかなって……」
そこにいたのは——なんと、マーガレット先生。
先生が、入学したての私に、教えを請うている。
うわあ、さすがレールの存在しない自由な世界。
マジで全く知らないルート入ってきましたね……。