学園でのティナ姉の評判が気になります……
さあて、昼食……の前に、やらなければならないことがある。
もちろん、私のかわいいシンディを託すのだ。
シンディを連れて、上級生のところまで歩いていく。
私にとっては上級生か同級生かって分からないけど、上級生は一年間同学年の顔を見ているから、知らない顔=新入生ってすぐ分かるんだろうな。
まあ、10歳でナンパってことはないと思うけど、ちょっかいかけられないに越したことはない。
「君、何してるの?」
ほら、こんなふうにね。
私の周りに、上級生の男の子が三人わらわらと集まってきた。
廊下で取り囲むようにして、シンディに視線を向けながら退路を塞いでいる。
シンディが、私の腕にひしっとしがみつく。
あったかやわらかい。この子を守らなくちゃね。
「お姉様に用があって来ました」
「誰かの妹なのか? 似てるヤツいる?」
「いんや、俺しらねえわ」
今にも壁ドンでもしそうな勢いで近づく男ども。
色気づくのにはまだ早いけど、可愛い子にはスカートめくりしたいという感情であろうか。
数ある中でもひどいやつ。もうなんていうか、単純に嫌いになるし時間経過で忘れたりしないからね。
そんな感覚なのだろう。
早めに切り抜けなくては。
「ティナ姉……レヴァンティナなんだけど」
その名前を言った瞬間。
男子全員が、ずざざっ! と距離を取った。
「……え、お前レヴァンティナの妹なの?」
「はい。レヴァンティナ・トラヴァーズの妹ティルフィーネ・トラヴァーズです。こちらはシンシア・トラヴァーズ。レヴァンティナに用があって来ました」
にわかにざわつく男子諸君。……ティナ姉、一体一年間どういう生活を送ってきたの……?
「あの赤狼の妹がこれとか聞いてねえ……」
赤狼!? お姉様マジでどんな生活送ってんの!?
「そ、それでどちらに」
「ああ、えっと……まだ第三組にいるんじゃない、ですかね?」
この短い間に丁寧語にまでなってるんだけど!?
……こ、これに関してはティナ姉本人からでなく、別の人から聞いておこう。
例えば、そう、ゼイヴィアとか。
「じゃあ、俺達は行くから……」
男子達は、いそいそと離れていった。
ティナ姉パワー強すぎる。困った時は、もう名前だけでも効果あるかもしれない。
私達は三組まで行って、教室の中をのぞき込む。
見慣れない下級生の姿に、教室の視線がぐわっと集まる。
その周りの様子に気付いたのは、ティナ姉も一緒で。
「あれ、フィーネ? シンディも」
「ティナ姉、今いい?」
私はティナ姉に、軽く事情を話した。
「ふーん、そういうことならいいわよ。シンディは私とお昼が終わるまで学食ね」
「は、はいっ!」
よかった。かつての二人ならまだしも、今の二人の仲は良好だ。
これで大丈夫だろう。
「それじゃ私は、友人を待たせてるから。後はお願い!」
「いいわよ。フィーネが頼ってくれるなんて珍しいし」
そんなことはありませんとも。
ティナ姉は、こうやって並ぶと本当に体格がいいし、かっこいい系だ。
赤狼の名前は伊達ではないのだろう。
さっきも名前を出しただけで助かったし、きっとこれからの生活で、ティナ姉にはいっぱいお世話になる。
改めて、強い姉がいるって助かるなあと思った。
上はかっこよく、下はかわいい。フィーネってやっぱり、恵まれた家族構成だよね。
私は待ち合わせ場所で、スザンナの姿を見つけて駆け寄る。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「大丈夫ですわ。そんなに慌てるなんてあなたらしくもない」
——あなたらしくもない。
それは間違いなく『私らしい』ということがどういうことか知っているということだろう。
私はこの子にコンタクトを取ってよかったと思った。
「やっぱり待ってもらうのって悪いし、これからお話をするならお互い気分がいい方が絶対いいもの。ね?」
「そう、ですわね。ええその通りですわ」
スザンナは何度か頷くと、私に目を向けて唇で弧を描いた。
「何かお話があるのでしょう? 幸い持ち出しのパンもあると聞きましたわ」
「それはよかった。早速向かいましょう」
私はスザンナに頷くと、食堂へと向かった。
人の多い食堂で、私はサンドイッチを二つ取る。
食堂はバイキング制で、お金を払うことなく利用できる。さすが貴族学園! いやー、驕らないようにしよう、ほんと……。
スザンナと一緒に歩いてると、遠くにティナ姉とシンディが見えたので、軽く手を振った。あっちも気付いたので振り返してくれた。
人のいないところを探して、私とスザンナは学園の門近くにあるベンチへと出てきた。
意外と人の出入りが多いようで、この時間は人がいない。それに自動車とかがないから、出口が近くても排気ガスはないのだ。
「それで、改まって話とは何ですの?」
スザンナは、サンドイッチを口に入れながら、首を傾げる。
揺れたお下げを見ながら、私は深刻な顔をして、なんとか頭を働かせ始めた。
「実は、以前お会いしていた頃のことに関してなのですが……」