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マーガレット先生の授業と、放課後のお話

 今の状況を言うと……右から左。

 ぼんやり声が横に抜けていく、みたいな感じかな?

 私は先生の授業を、完全に聞き流していた。


 内容としては、四則演算とか出てきましたね。

 そりゃ9歳だろうと、習わなければこういうことって普通分からない。

 当たり前っちゃ当たり前だよね。


 でも、さすがにりんごが3個と4個というのをこの精神年齢で学ぶのは微妙な気持ちにもなる。

 さすがに貴族用の学園なだけあって、みんな文字を読めるからすぐ理解してはいたんだけど、さっきまでの授業に比べてどうしても退屈だ。


「フィーネさん?」


「ふあっ? はい?」


 とか思ってたら、あくびが出かかったところで思いっきり指示されてしまった。


「睡眠不足ですか? それとも……」


「いえっ! その、ええとはい、そうでして! すみません!」


 決して先生の教え方が退屈なんじゃない。

 習ってる内容が退屈なだけなのだ。


「……分かりました。試験はちゃんと受けてくださいね」


「もちろんです……」


 ああ、いけない、真面目に受けなくちゃ……。

 授業を真面目に受けて成績が悪いよりは、授業を休んでても成績がいい方が将来的にはいいだろう。

 だけど、印象としては圧倒的に前者の方がいい。っていうか後者は最悪だ。


 私は授業内容を、四則演算の勉強というより将来目をつけられないための勉強として真面目に受けようと思った。

 黒板の内容より、マーガレット先生の観察をするように。


 ……マーガレット先生は、見目麗しい……というのとはちょっと違うけど、ほんわかした優しい先生だ。

 金髪のふわふわーっとした、少女漫画のヒロインが大人になったような先生。

 背丈は子供の私から見ると大きいけど、お母様よりはだいぶ低い。


 これもいわゆる脇役が可愛いっていううちの一つだなーって思う。

 男性向けゲームだったら、マーガレット先生は絶対攻略対象。それぐらい可愛い。

 男子高校生と新任教師の禁断の恋……いいね。

 まさに少女漫画だね。


 先生は、困った時のお助けキャラだった。

 RPGパートで助けてくれることもあったね。

 それに……悪役令嬢フィーネにいじめられた時に、よくシンディを助けてくれた。


 そんなことを考えていると、授業が終わった。


「はい、それじゃあ今日はこれぐらいかな? 明日から、どんどん授業が増えてくるけど、みんな優秀そうだから安心ね」


 マーガレット先生は、笑顔で手を叩くと皆をまとめた。

 ホームルーム的な簡素なやりとりがあって、すぐに解散。

 最後にまたメルヴィンがちらっと……やっぱりシンディじゃなくて私だよなあ……。

 さすがに気づいてないフリも無理があるので、小さく礼をする。




 生徒もほぼいなくなったかな? というところで、約束通り私のところに先生がやってきた。


「フィーネさん、いいかしら?」


「はい。それじゃ……あっ」


 移動しようとしたところで、腕をひしっと抱きしめられる。

 私の右腕が、シンディの身体に捕まってしまった。


「あら? シンディさんは残る必要ないけれど、一緒に来る?」


「はい、お願いします」


 別々に帰るという選択肢はシンディの中にないようで、手を繋いで教職員室に。


 いざ入ると、周りが大きい大人だらけで気圧されてしまう。

 ゲーム中に何度か見た顔もいらっしゃって、一貫校だなあって感じだ。

 みんな貴族なので、一般的な学校に比べて生徒数は少ない。それでも全員を回すのは大変なようで、皆が書き取りなど細かく頑張っている。

 あとびくびくしてるシンディはかわいい。大丈夫だよー、お姉ちゃんが守ってあげるからねー。


 ゲーム中でも(シンディが)お世話になった、マーガレット先生の机のところまでやってきた。

 先生は椅子に座り、本を手に持つ。


「まず、フィーネさん。あなたはマナチャージをどれぐらい知っている?」


「マナチャージですか? 基礎練ってこと……あと、次の魔法をちょっと強くする、ぐらいの感じでしょうか」


「それは、本を読んで理解したのかしら」


「いえ、本には載っていなかったので体感上です」


「それでは、マナチャージは基本的に二度重ねて使ってはいけないというのは?」


 ……えっ?

 な、なんですかそれは。

 そんな項目、ありましたかね……?


「いえ……全く……」


「でしょうね。シンディさんは、知っていましたか?」


「い、いえ……フィー姉様の持っていた本は、学校の本とは違ったものでしたから」


「そうなのね。ちなみにお母様はこのことを知っている?」


「はい。確かに使ったら驚かれたことはありますけど……でもその時は、数度使ってちょっと枯渇しただけです。大分前ですよ」


 マーガレット先生は、頭を押さえている。

 ……今の答え、どのあたりがだろう。やっぱり数度ってのが驚くのかな。


「一応フィーネさんに教えておくとね……学園の先生の中で三度使える人は、私の知る限り学園長ぐらいです」


 ……えっ?


「四度は、聞いたことありません。……嘘ではないわよね?」


「そ、それはないです!」


「では、やってみてくれる? そろそろ授業での魔力も落ち着いた頃だと思うから」


 備え付けのソファを、先生が指差す。

 まあ……あそこなら、大丈夫かな?


 私が横になると、シンディが握り拳をぎゅっと胸に持ってきて「がんばって!」と健気な応援をしてくれた。

 よーし、おねーちゃんめちゃがんばっちゃうよー。


「では、いきますね。すぅ……《マナチャージ》。フッ、《マナチャージ》、フゥッ。……すぅ、《マナチャージ》。ふぅ〜」


 三回目の瞬間、ぶわっと髪が逆立ち、私の身体がソファの上でジャンプした時のような浮遊感を覚える。


 気功の基本は、呼吸の意識。

 短めに吸って、止めて、ゆっくり吐く。この吐くときに魔力を広げるイメージがしやすい。

 身体の中心に吸って溜めて、吐いて口から……ではなく、身体の中に循環させるのだ。


 そういえば禅とかも、自分の内側に宇宙を感じるとかいうよね。

 あのへんも、もしかしたら有効なのかもしれない。今度やってみよう。


 さて、次は四回目だ。


「すぅ〜……《マナチャージ》……! ッふぅ〜〜〜〜〜〜〜…………」


 本当に、ジェットコースターに乗った感覚。

 私は今ソファの上にいる。にも拘らず、ぶわっと落ちてるのだ。

 身体が自由落下し、心臓が浮き上がるあの感覚。


 ——でも、大したことではない。

 全く恐ろしく感じないのだ。

 何故なら私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 この感覚は、安全が保証された環境で体験済み。まあ、こんなもんだなー、という感じ。もっとヤバいタイプの落下型アトラクションに比べると、普通普通。

 むしろ懐かしくてちょっと楽しいぐらい。


 ってわけで、数度の呼吸で落ち着いたところで立ち上がる。


「……これでどう、で……す、か……?」


 私が起き上がると……教員達がぞろぞろと私のところに集まっていた。

 威圧感がやばい。9歳女子に、この視線は滅茶苦茶居心地悪い。


「あの、えっとマーガレット先生。そろそろ帰ってもいいですか?」


「……はっ!? そ、そうですね! それではお帰りください!」


 何故か妙にかしこまったような返事をもらい、起き上がる。

 ふわっと膜がかかってる気がするけど……うん、歩けるね。


「ええっと……それじゃシンディ、帰ろっか」


「は、はいっ……!」


 そして私が部屋を出ようとすると、教員達が無言でぶわっとモーセの海みたいに割れた。

 無言だけど、若干視線逸らし気味だけど……明らかに、私めっちゃ注目されてる。

 シンディも、今はもう怯えているというより戸惑ってる感じだ。


 私は教員達の反応を見て、今日初めてマーガレット先生から一つのことを新たに学んだ。


 人前でマナチャージを複数回は、やらないようにしよう……。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィーネちゃんはうっかりさんだなぁー(白目)
[一言] 流石というか、なんというか…
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