作り物じゃないクラス、そして新たな攻略対象
入学式を除いた、学園初日。
始まったばかりの学園生活、まずはクラスメイトの自己紹介からだね。
先生が一人ずつ名前を呼んで、一人ずつ立ち上がる。
名前は家名で順番に呼ぶらしい。日本だと名字であいうえお順ってところだね。
乙女ゲーでもギャルゲーでもBLゲーでも、基本的にクラスメイト全員の固有名詞がある恋愛シミュレーションは少ない。
学校ものの漫画ですら、クラスメイト全員の名前があるのって珍しいパターンだもんね。
ましてや攻略対象じゃないのにキャラクターが設定されていたら、そっちの方が好みだったりしかねない。
人の好みは十人十色だもの。アニメでもよくあるよね、『あのモブ好き』って現象。
ま、そんなわけで私は改めて、完全に転生したことによる差異を意識した。
学園に通っているのは、主人公と攻略キャラと友人キャラと悪役キャラだけじゃない。
学園の人間一人一人に名前があるのだ。
そういえば学校の先生っていろんな条件があって、そのうちの一つに『生徒の顔と名前を覚えるのが早い』ってのがあったと聞いた。
私もちょっと無理。私の中学の時の学年主任とか、みんなの顔と名前と特技一致させてたもんね。
すごいよアレ。オタク女子としては、あの能力は絶対ないと思う。
とまあそんなわけで、私は今必死になってクラスメイトを覚えているのだ……!
みんなモブじゃない。みんながみんな、自分が主人公の話だ。
一人一人……と見ていってるうちに、とある人物の自己紹介に飛び上がった。
「メルヴィン。よろしく」
後ろの方で小さく喋ると、そのまま椅子に座る。
メルヴィンの名前は、グラメルヴィン・シルフカナル。
攻略対象の一人で、黒髪黒目のロングヘアで、ちょっと口数の少ない男。
魔法はあれで雷属性。実は怒ると結構激しい……んだけど、主人公のピンチにしか怒らないので、基本的に好感度はめちゃ高い。
そっか、シンディのクラスメイトって彼か。
私はぼんやり彼を見ていると、ふと目が合った。
なんとか会釈すると、向こうも小さく頭を下げて応えた。……あんまり怪しまれないようにしよう。
「次、シンシア・トラヴァーズさん」
あっ、シンディの番だ!
隣の席で、シンディが立ち上がる。
「あ、あの、私シンシア・トラヴァーズ……です! 最近トラヴァーズ家に入ったばかりの元平民ですが、な、仲良くしてください! シンディと呼ばれているので、そう呼んでいただければ……!」
明らかに男子とか、ぐわっと注目が集まる。
うんうん、そうだろう。シンディは可愛いだろう。
私だって初見で、身体から発光してるんじゃないかと思うぐらいだったもんね。
そんなクラスの様子を見ながら笑顔で頷く私。
とまあ、そんなことをしているものだから。
「次、ティルフィーネ・トラヴァーズさん」
当然、次に呼ばれるのは私だった。
そりゃ同じ家なんだから当たり前すぎる話ですね!
なんもかんがえてなかったよ!
「あっ、えっとどうも、名前長いのでフィーネでお願いします。シンディとは同い年の義理の姉なんですけど、見ての通り仲がいいので妹共々よろしくお願いします」
男子から、わりと不躾な感じの見比べる視線が分かる。
……まあ、子供だもんね。我慢我慢。
そりゃ妹に比べて見劣りするのは分かってますけど。かなり見た目も違うのも気付いてますけどー。
しかし、その視線に気付いたのは私だけじゃなかったようで。
「あっ……!」
シンディが、私の手を少し不安そうに握ってきた。
もーっ、大丈夫だって。こんなことで比べられても、あなたを嫌ったりしないよ。
この年齢で気遣いもできるんだから、天使ちゃんだよなー。
仲の良さそうな様子は、男子も少し気にしているようだった。
私に失礼を働くと、シンディに嫌われちゃうよ!
……妹の威を借る姉である。とほほ。
一通りの自己紹介が終わったというところで、マーガレット先生が手を叩いた。
「はい! みなさん一年間よろしくね! それじゃあ次は」
そして、この学園生活の中心になるであろう授業が始まる。
「まずは魔法の授業から始めてみましょうか」