転生した意味、そして決意
ただの『倒すボス』としてのレヴァンティナではなく、『一人の人間』としてのティナ姉を知った。
ずっとモンスターと一緒に現れる敵キャラを攻撃していただけのゲームプレイヤーである私にとって、その衝撃は自分の価値観を破壊させるのに十分だった。
――私の中で、一つの決意が生まれる。
「ティナ姉」
「なーに?」
「お願いがあるんだ」
「いいよ、言ってみて?」
私は体を離してソファの隣に座り、ティナ姉も同じようにこちらを見る。自分よりも体の大きい――だけど転生前から比べたら大幅に年下の――レヴァンティナの目を正面から見据えて、今までよりはっきりとした声色を出した。
「私は、優しいティナ姉が大好き。だから、学園でも、私以外の人にも優しくしてあげてほしい。嫌な気持ちになっても、ぐっと堪えるぐらい、誇り高いティア姉でいてほしいの」
そんな私の宣言に、ティナは一瞬きょとんとした顔になり……少しずつ目を見開いて破顔すると、私を再び力一杯抱きしめた。
「え、え!? フィーネ、どうしちゃったのー!? 引っ込み思案だから心配してたのに、いつの間にこんなステキになってるなんて! もー、アタシの自慢の妹だよーっ! 早く学園でみんなに自慢したいなー!」
笑顔で力一杯抱きしめてくるティナ姉の暖かさと優しさを感じながら、私はゲーム中に何度も何度もシンディを操作して攻撃魔法を打ち込み続けた、レヴァンティナの最期を思い出す。
妹を殺されて、もう自分で自分が制御できずにどうしようもなくなってしまった悪役令嬢。
確かにゲーム中のレヴァンティナは、シンディにすぐ暴力を振るうし、家でも陰湿なフィーネの悪事を訴えても、全く取り合わなかったどころか、ますます暴力を重ねてくるようになっていた。
間違いなく、レヴァンティナは悪女。だけど……女なら納得してしまう理由があった。
三人の中に現れた新しい家族、シンディのあまりの美しさに嫉妬してしまったのだ。
日本人の感覚からすると、どう考えてもこちらが悪いように思う。
だけど……これは貴族にとって、単純な問題ではない。
灰被り姫は、靴のサイズが合ったお陰で王子様に見つかった。
――嘘だ。
そんなものは、シンディのメインストーリーにはそこまで影響はない。
王子様に見初められたのは、シンディがどんな貴族令嬢よりも王子様の目に留まるぐらい『ぶっちぎりで美しかったから』なのだ。結局のところ、彼女にとってのターニングポイントには、それが一番重要。
私がガラスの靴を履いていても、男物の革靴を履いた主人公には絶対に勝てないんだろう。
きっと私達じゃなくても、他の家に引き取られたとしても、同じ年頃の令嬢は思ってしまうのだ。
着飾らず灰を被っていても、生まれ持ったモノが違いすぎる。この女には何をやっても、努力では絶対に勝てない。
その、シンディの美貌と家柄のアンバランスが、この家族を大きく歪めてしまうことになった。
どんな王子も令息も、シンディさえ望めば奪われてしまう。
それどころか、王子様はシンディが望まなくても、シンディを選んでしまうのだ。
何故なら、美しいから。圧倒的に、美しいから。
だから、皆で外に見えないよう必死にシンディを陥れようとした、のだと思う。
現状ではそこまでは予想でしかないけど……その嫉妬から実際の行動にまで移してしまったのが、ティルフィーネだった、ということだろう。ティナ姉は、ある意味フィーネの一番の被害者だ。
その原因であるフィーネに、私が転生した。
まだ心が汚れていない、純情無垢で妹想いの、情熱的で優しい姉。
その顔を見ながら、私は決意する。
――この顔を、絶対に曇らせたくない。
ポジションは私の姉といっても、転生前と比べると遥かに年下。理性だけでどうにかならない部分もきっとある。
私は今更王子様の隣に自分が座りたいだなんて思わない。だけど……自分の手の届く範囲の人だけは、何としてでも守りたいと、そう思った。