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情報を制する者は先手を制す

 大人の文官さんは丁寧な感じの柔らかい顔をした美形さんで、こちらの話を丁寧に聞いてくれた。


 なんでこんなに丁寧なんだろ……って思ったけど、私ってそもそも貴族だもんね。トライアンヌ・トラヴァーズの娘というだけで、あまり下手なことはできないだろうし。

 お母様があれだけの魔法を使う人なんだもの、そりゃ重宝されてるに決まってる。

 家で見ている時は料理に悩む可愛らしい母親だけど、魔法を使った姿はボスの貫禄ありまくりだった。

 ていうか、あのメイク姿であれだけ強いのなら、それこそ怖がられていそう。


「……はい、その時に……そういえば、魔法というのは個人情報に含まれるのでしょうか」


「個人情報……とは?」


「あっ、すみません。えーっと、その人の秘密をばらしちゃうかなーって。お母様が秘密にしているのなら、あまり喋るべきではないかなと」


 危ない危ない、日本製のゲーム世界に転生したからって何でも通じるわけじゃないんだ。

 変な単語は使わないようにしないと。


「お母様が、魔法の種類の話をしたのなら私もします。ただ、山賊を無力化したとはお伝えしておきます」


「わかりました。お話をまとめますと……まず、エドワード様がお弟子様の店舗に店の様子を見るため出かけました。ティルフィーネ様は山賊に父が襲われたという夢の内容を伝え、予感を感じたトライアンヌ様とティルフィーネ様が馬車に乗り、エドワード様を追いました。ここまでは間違いないですね」


「はい」


「突拍子もないように感じはしますが、事実として山賊は捕まっていますからね。予知の魔法でもあるかのようです」


「それは……多分、お母様の日記を覗き見したからでしょう。亡くなったジェイラスお父様が、山賊に襲われたことを思い出していたところを読んでしまったので」


「……それは……」


「あっ、気にしないでください。元々遠い過去のことですし、こうやって今回の襲撃は防げましたから」


 それっぽい理由をでっちあげることと、聞きにくい状況を作ることには慣れてますので。

 悪役令嬢に転生した私の処世術。


「話を続けさせていただきます」


 私は頷いて、先を促す。


「横転した馬車を見て、トライアンヌ様は激昂なさったと。そこで、魔法を使って山賊を全て討伐したのですね」


「見落としがなければ、ですね。恐らく大丈夫だと思います。後は、お母様が全員を縛り上げて、兵の皆様が到着しました」


「ふむ……わかりました。それでは話を合わせますので、少々お待ちください」


「はい、お気遣いありがとうございます」


「……」


 最後に黙ってじーっと私の顔を見たおじさまは、スーッとそのまま出て行った。……なんか変なこと言ったかな。大丈夫だと思うけど。




 そして、当然のことながら両手に美少年という状態で密室に残ることになりました。

 ゼイヴィアのことは信頼してるからいいけど、クレメンズは全く分からない。

 ゲーム中は結構ノってたし、今もなんかもーそんなかんじ。

 こっちを見てるけど、そりゃまあ興味津々でしょーね。ずっとゼイヴィアが会わないようにしていたって言ってたわけだし。


「ところでフィーネ」


 当然こちらに話を振るので愛想良く顔を向ける。

 悪役令嬢なもんで、不敬やらかしたら首ちょんぱとか連想しちゃう。

 きれーに、きれーに取り繕う。


「お姫様とかに興味はあるかい?」


「はい!?」


「おいソラっち!」


 取り繕えなかった!

 なんなの、やっぱクレメンズってめっちゃイケイケ王子じゃん!?


 ……うーん、本当にゼイヴィアから聞いてたのと違うんだろうか。

 ちら、とゼイヴィアの方を向く。そちらには目はツリ目だけど眉はハの字という、なんともそそる表情でこちらを見るゼイヴィア。

 心配してくれるのは非常に嬉しい。それに、ゼイヴィアが嘘を吐いているとはあまり思えない。


 反対側だから、クレメンズには私の表情は見えないはず。

 私は、『余裕』を見せるように小さく笑って眉を上げた。

 あちらが反応を示す前に振り返り、クレメンズの方へと向き直る。


「そうですねー、お姫様は服を沢山買っていただけるし、お菓子も毎日食べ放題! なのでしょう?」


「……ん? まあ、そう……だな」


「その上一日中遊んでいても怒られないし、どの令嬢よりも、家臣よりも偉くなるのでしょう?」


「……」


「なら、楽しそうですね〜。お姫様」


 私は目を細めて、精一杯口を横にニィ〜〜〜〜ッと引きつるように伸ばした。慣れないので、ちょっと口元が痛い。


 クレメンズ少年は、表情を消して絶句。

 ちょっと威圧感のある表情なので怖いけど、相手は十歳だし、なんといっても隣にゼイヴィアがいる。

 この心理的な差は大きい。一人だと絶対にこういうことできない。


 私の顔から視線を逸らせて数秒……クレメンズは椅子に深く座り直して息を吐いた。

 私はすかさず、身を乗り出して畳みかける。


「どうかなさいましたか?」


「いや、いい……疲れただけだ」


「あら、そうですか〜。お話をしたくなったら、いつでも一人でおいでなさってどうぞ?」


「……考えておく」


 よし、勝った。


 私が何をやったか。

 そんなのもちろん、玉の輿狙いの肉食系女子として『がつがつ攻めた』だけだ。


 以前より、ゼイヴィアから『ソラっち=クレメンソラス王子の代わりに、がつがつ来るタイプの貴族令嬢を避けるよう調査に来ていた』と教えてもらっていた。

 その話が嘘偽りなければ、それに該当するような反応をすれば拒否感を示すのではないかと思ったのだ。


 ……っと、そうだ。


「ああ、でも」


 ふと思い出したように語る。


「シンディは、あまり貴族慣れしてない子でしたわね」


 ぴく、とクレメンズが動く。

 ……かかった。


「シンディ……というのは?」


 私はゼイヴィアにアイコンタクトを取る。ゼイヴィアは驚きつつも、小さく頷いた。

 やっぱり。

 だってこの間、ゼイヴィアはシンディをクレメンズに紹介したがっていた。だから、私が来る前に二人が会っているのなら、話を聞いているはずなのだ。


 それを分かっているから、この質問も誘導しやすい。


「私とティナ姉……ああ、レヴァンティナです。ご学友ですよね」


「ああ、あの子か」


「はい。二人はジェイラスお父様とアンヌお母様の娘。ですが先ほどお話にあったように、お父様は山賊に襲われて以前お亡くなりになりました。最近結婚したのが、平民のエドワード……今回被害に遭われたエドお父様ですわ」


「その、連れ子か」


「はい。平民上がりで掃除好きの子です。貴族らしさはありませんが、熱心で素朴な義理の妹です。何より、あれほど素朴でありながらこの国で一番容姿が優れているのが特徴ですね」


 すっと、クレメンズが身を起こした。


「まだ国中の女性を見ていないフィーネが、それを言うのか?」


「一度ゼイヴィア様も見ていらっしゃいますよね。学園にシンディより可愛い子、いると思いますか?」


「……あの子以上を探すのは、ちょっと自信ないね。対抗できそうなの、先代王妃様の若い肖像画ぐらいしか思いつかない」


「そうか……それほどか」


 クレメンズ様、すっかりシンディの方へ興味津々。

 心の中でガッツポーズ三回。私は勝った。

 先にクレメンズがどういう性格と目的か知っていた以上、相手を誘導することに成功した。


 ……え、なんでそんなにクレメンズ避けるのかって?

 だってシンディと取り合ったら嫌なので……。


 もちろん、シンディが誰を選ぶのかは分からないけどね。

 可能性としては、やっぱり王子様と一緒になってほしいと思うわけだ。


「……ふむ」


 ふと、クレメンズが今までとはまた違った表情でこちらを見た。

 私は首を傾げたが、そこで扉が開く。


「お待たせして申し訳ありません、話が揃いましたので、こちらへ」


 三人のお喋りタイムは終了だ。


「俺はここで戻る。エグゼ、後はよろしく」


「結局最後までいないのかよ。まあ気分屋なのはいつものことか……分かった、また明日な、ソラっち」


「おう」


 軽くひらひらと手を振って、クレメンズは出て行った。

 ファーストコンタクトとしては、ゲーム以外のいろいろな面を見られてよかったかも。


 さて、お母様に会いに行こう。あっちはどうなったかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 盗賊が言っていた「何故だ、今日は来ないはずじゃ……!」って台詞は伝えなかったのね(フィーネに聞こえてなかったかもだけど クレメンズ君はまだ幼いせいかフィーネの嘘は嘘は見抜けなかったか~ 今…
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