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王城に来たら出会える人に出会ってしまった……

 馬車から降りたら、目の前にいたのはずっと家に来ていた男の子。

 びっくりした。一応確認しておかないと。


「ゼイヴィア様は、何故こちらに? レイチェル様の付き添いでしょうか」


「うん。家に早馬でトライアンヌ様が山賊と争ったと聞いたので、同行させてもらうことにしたんだ。トライアンヌ様はお一人でも何度か家に来ているし、心配だったから」


 そっか。アンヌお母様って当たり前だけど、個人的にレイチェルと付き合いがあったからゼイヴィアとも会っていたわけだ。

 当然私よりもアンヌお母様の方が、ゼイヴィアと会った回数は多いだろう。離れたところに住んでいるから、子供だけで勝手に会いに行くのはさすがに早い。


「フィーネも巻き込まれたのか……」


「あー……まあ、そんな感じです。見ての通りお母様が強かったので怪我とかは全くありません」


「さすがうちの母のライバル。実力は本物だね」


 ゲーム中では、そのアンヌお母様を圧倒できるのがゼイヴィアなんだけどね。

 そう考えるとほんと天才だなって思う。


「ティルフィーネ様、よろしいですか?」


「はい。それではゼイヴィア様、私はこれで……」


「待って下さい。聞き取りに同席しても構わないでしょうか」


「エグゼイヴィア様、しかしそれは……」


 なんと、ゼイヴィアは私の聞き取りでも一緒にいたいと言いだしてきた。生真面目で規律正しい子なので、こうやって突っ込んだことを言ってくるのは珍しい。


 正直ちょっと嬉しいし、安心する。精神年齢とは関係なく、身の丈が子供な以上はいきなり大人に囲まれるというのは怖い。

 日本でも何かのスクール海外交流で白人の人に囲まれたときはちょっと威圧感ありました。でかいもん皆。

 今はその比じゃないぐらいみんな大きい。


 ただ、兵士さんはお仕事なのだ。それに、相手は貴族とはいえ子供。

 ゼイヴィアのお願いを聞くとは思えないけど……。


「——ならば、俺もエグゼに同席しよう。構わないな?」


 奥から、全く違う声が出てきた。

 それは、鋭い少年の声。まだ声変わりしていないけど、爽やかさもあり威圧感もある、自信に満ちあふれた声だ。


 奥から現れたのは、赤い髪の……。

 ……いや、ちょっと待って。

 あの中性的なセミロングヘアにツリ目の少年。

 この状況で、エグゼイヴィアをエグゼと友人のように……そして特殊なあだ名で呼ぶ男。


 そんなの、もう一人しかいない。


「ソラっち!?」


 その名前を聞いて、やっぱり、と思った。

 以前も話したが、ソラっちというのはクレメンソラス・キングスフィアの略称のこと。

 通称クレメンズという攻略対象のメインキャラだ。


 ……まあ、つまり。

 王子様である。


「クレメンズ様、しかし……」


「山賊を尋問するわけじゃないんだし、官の者を排除するつもりもない。ただ同席するのみだ、構わないな? 父には後で俺が言っておこう」


「そういうことでしたら……了解しました。それではフィーネ様、お待たせして申し訳ありません。あちらの部屋へ」


 兵士さんに催促され、お母様は別の部屋へと向かう。私はお母様に手を振って応えた。あ、レイチェルさんが向こうは聞くのね。会釈会釈。


 私も二つ隣の部屋に入っていく。隣に座ったゼイヴィアが小さく唸った直後、クレメンズがその反対側にやってきた。

 うわー、乙女ゲームの両手に花ですね、これは。

 神童と王子に挟まれる悪役令嬢。

 元フィーネちゃんだったら飛び跳ねて喜ぶところ。


 でも実際あれだね。

 こういう『やめて、私のために争わないで!』みたいな立場になると、すっげー気まずいね。

 気持ち的には10:0でゼイヴィア寄りだから、ゼイヴィアは安心してね。伝えないけど。

 あ、今の私ってちょっと悪女ムーブ入ってるかも?


「君が件のフィーネか。ゼイヴィアから聞いていたが、なかなか会わせてもらえなくてね」


「ご学友とお話は伺っております、クレメンズ様。ティルフィーネと申します」


 私は無難に頭を下げる。

 私の言葉を聞いて、満足そうに頷きゼイヴィアの方へと向く。


「……彼女のこと、紹介しなかったのには理由があるのかい?」


「単純にソラっちには別の子の方がいいと思っただけだ」


「ふうん? エグゼがそう言うなんて、興味が尽きないね」


 なんとも怪しい会話になったところで、大人の人が入ってきた。

 多分この人が、書き取りのための文官さんかな。怖そうな人でなくてよかった。


「お話に伺ったとおり、クレメンズ様もいらっしゃるのですね。それでは早速ですが、始めさせていただいてもよろしいでしょうか」


「俺は構わない。フィーネ、どうだ?」


「はい、私も問題ありません」


「ふうむ……悪くないよな」


 クレメンズが私を興味津々に見ながら小さく呟く度に、反対側のゼイヴィアが唸る。クレメンズ、ちょっと煽らないでほしいです……。私めっちゃ貴族のお嬢様だけど、どのあたりが貴族嫌いなのか。

 うー……シンディも連れてくればよかった……。


 私はとりあえず気を取り直して、正面の文官さんの方に向き直って先ほどの出来事を話し始めた。

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