初めてエドワードさんと親子になれた気がする
山道の真ん中に転がった山賊達をどうするか……と思ったのだけど、お母様が見事にロープで縛っていきました。
妙に縛り慣れてるなと思ったのだけれど、こういう野生の魔物とかを縛って吊したりとかしたことがあるらしい。
ああ、当然のことながらゲームにはなかった部分だ……当たり前だけど、モンスター倒してゴールドゲットとか有り得ないわけで。
やっぱお母様、超優等生でベテランなんだなあ。
ちなみに、馬車の人が速攻で戻って救援を呼んできてくれたので、王都方面から兵士さんがやってきてくれました。
貴族であるトラヴァーズ家があるの、当然のように王都内ですね。
ちなみに伯爵位です。討伐チーム入ってるから、領地経営系ではなくて戦闘要員系貴族。
だから、王族が集まる学園はエリート揃いなのだ。そもそも勉強できるという時点でエリート向けだからね。
そんなわけで、この騒動は無事に終わった。
横転した馬車の中で起きたエドワードさんは、後から状況を聞いてそれはもう驚いていた。
そりゃそうだろう、殺されるかもしれなかったことはもちろん、自分の奥さんに助けてもらったんだもん。
白馬の王子様ならぬ夫人様、ってね。
ひととおり落ち着いたところで、山賊を縛っていた兵士がこっちにやってきて、今後のことを話した。
ふと思ったんだけど、私いる必要ありますかね?
「あの、えっと私はもう帰っても……」
「そうですね。トライアンヌ様、いかがなさいましょう」
お母様は兵士さんに……首を横に振った。
「いいえ、フィーネには来て一緒に説明していただきたく思います。証言の一致も必要でしょうし、私よりも聡明で頭が回る子よ」
「僕からも、フィーネの証言はあった方がいいと思います」
あ、あららーっ!? 両親共々に推薦されて、行くことになっちゃいました!?
だってほら、今の私ってばめっちゃお子様ですよ。
まあ話が合うかどうかは重要かもね。だってほら、お母様めっちゃ暴走してたし。
なんかこう、魔法を使うバーサーカーって感じだったよね。
まあ、行くこと自体は苦じゃない。っていうか、ちょっと行ってみたい。
兵士さんは驚きつつこちらを見る。
「ふむ……わかりました。でしたら、フィーネ様さえよろしければご一緒いただければと思います」
「あっ、えっと、丁寧にありがとうございます。子供ですから、そこまでかしこまらないでいただいても結構ですよ。私が行くことでそちらが助かるのでしたら、私の証言をご活用ください。今この場で話したら意味がないでしょうし、到着してからお話ししますね」
それっぽい理由を構築して言うと、兵士さんは目を見開きながら頷いた。
「……失礼ですが、お子さんは幾つでいらっしゃいますか?」
「ふふっ、九歳です。料理も教えてもらっているくらいで、自慢の娘ですわ」
「素晴らしいですね……私の娘」
転生チートです、後々落第生になっちゃったらすみません。
神童のまま学生時代も才女でいけそうだけど、成人した頃にはただの人になりそう……。
うう、子供の頃に頑張りすぎた、成長した頃はもうちょっと頑張らないとな……。
そんなわけで、王城方面に行くこととなった。
馬車の中ではアンヌお母様とエドワードさんの間に挟まった。
二人は、なんかもう私のことをがっしりハグしていた。もう春も近いので暑いですね……。
いや、熱い。熱々カップルに挟まないで下さい、私はホットサンドの具材じゃない。
「ふふふ……ジェイラスは勇者の主人公に憧れていたみたいだけど、最後は山賊に殺されてしまった。そのジェイラスに比べて、フィーネは本当に勇者様ね」
「そ、その……どうも……」
「でも、どうして? なんでそう思ったの?」
そりゃもう、シンデレラのパパは死ぬのが定番なので。
なんてことを言えるはずもなく。
こういう時は、一番それっぽくて、一番追求されにくい言い訳を言うのだっ!
「その、昨日なんですけど……寝付きが悪かったのか、夢で見たんです。山賊に殺されている誰かの夢」
「それは……」
「ごめんなさい、アンヌお母様。お料理の本と一緒に、お母様の日記も読みました。それで起きたときに『お父様』のことを夢の中で連想したのかと思ったのですが……一人で遠出をするエドワードさんを見て思ったんです。これは『エドお父様』の夢なのではと」
二人は息を呑む。
それっぽい理由であり、同時に完全な形の予知夢だ。
少し突拍子もなさすぎたかもしれない。
「……本当に、フィーネが一番の勇者様ね。私は……私は、もうフィーネがいなかったら、今頃……っ」
私を抱くアンヌお母様が、ぶるりと恐怖に震える。
……アンヌお母様は、二回目なのだ。
ショックを受けた後のことを『ガクッときて』と表現することがある。本当に体から力が抜けてしまい、そのまま免疫力が落ちるのか病気になったりする。
その最大の影響が、配偶者を失うこと。一節には、十年は老ける……十年は寿命が縮むと聞いている。
それを、結婚から間もない旦那を二回連続。まだ二十代のアンヌお母様に耐えられるはずがない。どんな年齢でも耐えられないのだから。
……それを、二度やったのが、ゲームの世界のトライアンヌなのだ。
原作のように旦那の金を狙った相手ではなく、自分が資金援助する上でのバツイチ恋愛結婚。
その直後の、旦那の逝去。
エドお父様の存在は、ゲーム中に出て来ない。
そして、トライアンヌは作中最も感情表現の薄いキャラだ。
だから、知らなかったのだ。
再婚したてのアンヌお母様が、こんなに相手を大切に考えていたなんて。
「ああ、フィーネ……私はあなたに、何を返せるのかしら……もうあなたから与えてもらってばかりで、私はどうやってお返しすればいいか分からないわ……」
「ううん、私はシンディと仲良くしてくれたら、それでいいけど……でもアンヌお母様も別にシンディ避けてないからなあ」
「……っ、あなたという子は……!」
ハグが強くなっ……うおおアンヌお母様力強い!? めちゃ強いです緩めてくださいギブギブ!
ああ、そっか、今の私の台詞かなりいい感じでいい子ちゃんでしたね……!
義妹のことしかお礼に考えてないとか、そりゃ感動しちゃいますよね!
私としては、それが自分の命に繋がるから一番の重大事項なんですけどね!
と、ここで頭の上に大きく温かい手が乗る。
お母様はハグ中だから……エドワードさんだ。
「エドお父様、と呼んでくれたね」
え……あっ、そうでしたね。
「聞きたいんだ。君は、僕を父と呼ぶことに抵抗はないのかい?」
うーん、そもそもアンヌお母様とも赤の他人みたいなものだしなあ。
今ではすっかりお気に入りのお母様だけどね。
「別に抵抗ないですけど、そういえばどっちの方がいいですか?」
「エドお父様と是非呼んでくれ。アンヌと同じような呼び方だから嬉しい」
「相も変わらず熱いですねー。わかりました、エドお父様」
「ああ、ようやく血が繋がっていないフィーネが実の娘のように感じられてきたよ。君みたいな姉をもらえて、シンディは世界一の幸せ者だね」
むしろ私の方が、家事手伝いも進んでしてくれる無欠点完璧美少女のシンディを妹にもらえて幸せ者ですって。
ああ、でもこれでエドワードさん——エドお父様と親子になったって感じがするね。
私だって血の繋がりがなくても、大切な実妹のつもりでどんどんシンディを可愛がっちゃうよー。
親子の会話も弾み、次に何の話をしようかな、と思っているところで王都に到着した。
まずはエドワードさんが降りて、アンヌお母様に片手を出す。
んんーっ、紳士。これが執事みたいな人じゃなくて、パティシエのファミリーパパによるエスコートなんだからいいね。
ホラ、お母様も赤面してないで降りた降りた。
そして私も降りようとしたところで……。
「アンヌ!」
「レイチェル!?」
アンヌお母様の友人が来ていた。ていうかレイチェルさんだ。そういえばアンヌお母様を大会で下した魔法使いトップの人なんだから、こういう事件の時は当然呼ばれるか。
「お、お久しぶりですトライアンヌ様」
それに続いて、ちょっと声変わりしたかなっていう声が響く。
っていうか、え? なんでこんなところに……?
「……って、フィーネなのかい!?」
「あはは……こんにちは」
そこには母親レイチェルについてきていたであろう、ゼイヴィアがいた。