表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/95

本を読むティナ姉とシンディ

 馬車で家族最初の旅が終わった。

 最後にティナ姉が不思議な質問をしたけど、その意図は掴めなかった。


 ただ、変化したことがある。


「シンディ、それだと字が違うわよ」


「あっ、すみません! ティナ姉様」


「謝らなくてもいいわよ。アタシよりも進むのが早いもの。フィーネと同じクラスになるんだから、恥かかないようにしないと」


「うっ……フィー姉様と比べられるのは、今から考えても頭が痛いといいますか。あんなに読めるものなんですか?」


「ふふっ、フィーネは特別よ。学園に入ったらすぐに一番ね」


 ティナ姉が、シンディの勉強を見ている。

 もうすぐ学園生活が始まるので、文字を教えている形だ。


 ティナ姉の心境に、どんな変化があったかはわからない。

 だけど、この姿は私にとって、とても嬉しいこと。

 あの二人がこんなに近くなるなんて、ちょっと前では想像もできなかった。


 私の人生は、私のもの。

 だけど……どんなに頑張っても、他人の人生は他人のものなのだ。

 その好き嫌いの感情なんかを、私個人が修正できるはずもない。

 だから、ティナ姉がシンディを受け入れてもらうには、最低限ティナ姉の心境の変化が必要だったのだ。




 ふと、思う。

 ティナ姉がシンディを受け入れられなかったわけではない。

 シンディの父親であるエドワードさんが受け入れられなかったのだ。


 でも、それはエドワードさんが嫌いだったから、というわけでもなかった。

 実父のジェイラスさんのことを大切に想っていたから。

 それが突然変わったとは思えない。


 そうなると、理由は一つしかない。

 ——エドワードさんを認めた、であろう。




 私は二人の様子を見ながらも、手元の小皿に取ったスープを一口飲む。

 塩は……これぐらいでいいだろう。

 具材の出汁も出るし、まだ子供のうちから塩分過多になったらいけないからね。


 まー、私も子供だけど。

 いいのいいの、心はもう保護者気分ですので。


「お母様、こちらの味の調整は終わりました」


「ありがとう、それじゃ後は任せて」


「はい」


 アンヌお母様がナイフで切り終えた具材を入れたのを見届けて、二人のところへと戻る。


「どう? 分かりそう?」


「そうですね、まだ怪しい部分もあるのですが、ある程度は終えました。ティナ姉様、ありがとうございます」


「ん、いいってことよ。フィーネに比べたら、アタシも座学は劣等生だもの。それでも文字ぐらいは分かるわ、王国文字が読めないと絵本も読めないものね」


「絵本、ですか?」


「そういうの、読んだことない?」


「はい」


 ティナ姉は、いいことを思いついた、みたいな顔をしてシンディと私を自分の部屋に呼んだ。

 お母様の料理は……えーっと、スープを煮込む時間はもちろん、まだお肉を焼くんだっけか。じゃあもうちょっと大丈夫なはず。




 部屋の中に入り、ティナ姉は奥から本を出す。

 それは、以前見た絵本。


 そういえば私、ティナ姉の部屋で日記を探しに来た時に絵本読んでた。

 さすがにティナ姉も、勝手に部屋を漁られたと知ると怒りそう。

 しらないふりしておこう……。


 シンディと私が隣に身を寄せて、ティナ姉は満足そうに本を開く。

 ありきたりな絵本。

 子供向けの絵本。

 ティナ姉にとっても、子供っぽすぎるほどの絵本。


 だけど……それこそが、ティナ姉の本質だったのだ。

 最初から、答えは提示されていたのだ。


 私は……ようやくティナ姉の心境の変化が分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ