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明らかになった、ティナ姉の答え

 本日は、休校日。

 先日シンディとお話しした際に話題になった、ティナ姉がどう思っているかってことを、私が聞く日。


 アンヌお母様には、事前に事情を説明している。

 お母様にとってもティナ姉の様子は気になっており、同時に懸念材料だ。

 今のところ、シンディとエドワードさん側には、こちらの家族に対する悪感情はない……と思う。


 アンヌお母様が、シンディとエドワードさんと一緒に、三人でお店に行く。

 それを見届けると、私はまずキッチンに向かった。


 あれ以来、ティナ姉と私の会話回数は明らかに減っていた。

 必要最低限で、露骨に避けているということはない。


 が、避けられていないだけ。


 かつては、ティナ姉から積極的に私に関わろうとしてくれていた。

 転生初日に抱きしめてくれた、体温高めの姉の抱擁は、よく覚えている。


 キッチンに入った理由は、会話の切っ掛け作り。

 私が選んだのは、甘い甘いお菓子。

 ティナ姉も喜んでくれた、クッキーだ。


 小麦粉、バター、砂糖……それに、バニラの粉末もある。

 高価なのかと思ったら、普通に普及品みたい。そのあたりの事情は、そりゃ地球とも違うよね。


 火の魔石によるオーブンをつける。

 電気ガス水道の代わりに、魔石を使う。


「……あれ?」


 オーブンを使おうとしたんだけど、火が付かない。


「ど、どうしよ、魔力切れだ……!」


 何でもかんでもうまくいく、というわけではなく。

 魔石は電池やガスみたいに、魔力が切れるとどうしようもない消耗品だ。

 そして私の手から出るのは、風の魔法のみ。


「火をつけないと、これじゃ仕上がらない……どうしよう」


「——こう?」


 隣から、小さな声。

 その瞬間、目の前のオーブンにぶわっと赤い光が弾ける。


「ティナ姉……!」


 そう、ティナ姉が火の魔法を使ってくれたのだ。

 一年生の実技において、ティナ姉は学年の成績優秀者。さすが将来ボスとして君臨するだけの魔法使いだった。


 私は火の付いたオーブンの扉を閉じると、視線をこちらに合わせないティナ姉に……思いっきり飛びつく!


「わっ……?」


「ティナ姉、ティナ姉……!」


 以前とは違い、今度は自分から飛びつく。

 最初に触れた時と、同じにおい。心なしか、体温が高く感じる。


「ちょ、ちょっと、フィーネ?」


「……」


 私は、しばらくその胸に顔を埋めると、落ち着いてから離れた。


「ご、ごめんティナ姉」


「いいけど、急にどうしたのよ」


「だって……ティナ姉、最近あんまり話しかけてくれないんだもん」


「……!」


 ティナ姉は、気まずそうに視線を逸らす。

 ……やっぱり、その顔だ。


「どうして? シンディとばかり話しているから?」


「それは……違うよ、そうじゃなくてさ」


 ティナ姉はようやくこちらに向くと、私の頭を撫でる。

 そして、オーブンの方を見て蓋を開け、着いていた火を消す。

 クッキーは、すっかり完成していた。


「……えっと、いろいろあるんだけど……フィーネって、アタシの妹じゃない?」


「当然だよ」


「うん。確かに妹。なんだけど……気がついたらいろんなことできるようになってて、私が戸惑ってるのにシンディともすぐに打ち解けて、エドワードさんとも。だから……なんだか、アタシだけ置いて行かれてるみたいで……」


 ……ああ、そうか。

 私は、妹として少しやらかしすぎてしまったのか。


 フィーネはティナの妹。まだ子供なのに、料理も勉強もできてしまう。

 それは私の転生前の年齢も関わっているのだけれど、そんなことティナ姉には分かるはずがない。

 自分の妹が、母親以上の能力を発揮するのだ。

 だったら自分は何なんだと思ってしまうこともわかる。


 でも、そんなレヴァンティナのことが、私はますます可愛く感じてしまうのだった。


「ティナ姉。私はね、ティナ姉に置いて行かれる気がしたんだ」


「……へ?」


 驚くよね。そのまま返されたら。


「私って、多分ティナ姉みたいに大きくならない。ティナ姉と一緒の学校に行ったら、きっと守ってもらうばかりになっちゃう」


「フィーネ……」


「シンディも同じ学年、男子はちょっかいを出す。その時、きっとティナ姉は私達を助けてくれるの。ティナ姉はいつでも頼りになって……それでいいのかなって」


 私は手袋をはめると、オーブンの中からプレートを出す。

 そして、お皿の上に出来たてのクッキーをざらざらと入れる。


「役に立ちたいんだ。ティナ姉にはもちろん、アンヌお母様のためにも。料理も苦手っぽかったし、ね」


 私はそのお皿を、サロンのテーブルに乗せる。

 ティナ姉と一緒に隣同士で座って、クッキーを手に取りティナ姉の口に入れる。


「おいしい?」


「……うん」


「良かった。ティナ姉に食べてほしくて、頑張って覚えたから」


 半分は嘘。だけど、この辺りの材料を調べた残りの半分の理由は、ティナ姉だ。


 ティナ姉の愁いを帯びた表情を見てると思ったのだ。

 表面上明るい子だけど、もしや結構思い詰めるタイプなんじゃないかって。

 だって、フィーネがゲーム中で死んだ後は、あんなに鬼の形相で諦めることなく追いかけてくるのだ。普通の精神力じゃない。


 でも……それは、フィーネのことが大事だっていう証明だよね。


 ティナ姉は、クッキーを食べながら、じわりと涙をにじませる。


「うん、うん……おいしい……フィーネが、アタシのために、がんばって……おいしい、やっぱりフィーネはすごいよ……」


「良かった。これからも、よろしくね」


「もちろん……!」


 私は久々にいっぱいティナ姉と話して、クッキーを食べた。

 ……あ、これ昼食とか入らないパターンですね。

 ま、たまにはこういう日もいっか。




 食べ終わったところで、すっかり元気になってくれたティナ姉に本題。


「それじゃあティナ姉、いい?」


「うんっ、なーに?」


「シンディが、ティナ姉と仲良くしたいっていつも悩んでて。ティナ姉から見て、シンディって苦手だったりする?」


「ううん、大丈夫だけど」


 あら?

 あっさり大丈夫宣言された。


 ……もしかして私と会話が足りなかったから、あんなふうになってただけ?


「じゃあ、次から——」


「でも、だめ」


「——え?」


 ティナ姉から続いた言葉は、まさかの拒否。

 ……何故? やっぱりシンディとフィーネが仲良し一緒なのが駄目?

 それとも、やっぱり美貌に嫉妬しちゃう系?


 私は、その返事を待つ。

 そして……返事を聞いて、ようやく私が答えに至らなかった理由を知った。


 そう。

 ティルフィーネは知らない。

 ()()ティルフィーネですら思い当たらなかっただろう。

 何故なら、フィーネは物心がついていなかったから、記憶に残ってない部分なのだ。


 最初、シンディを受け入れられなかった理由。

 そして、シンディと握手を交わした理由。

 シンディと()()は握手を交わすことが出来た理由。

 その、謎の答え。


 ティナ姉の言った言葉は、こうだ。


「アタシのお父様は、ジェイラスお父様。でもアンヌお母様は、お父様のことを忘れちゃったのかなって……」


 そう。

 私はすっかり目が曇っていた。シンディにばかり注目して考えて、エドワードさんと一緒に住むということに対して意識を割けていなかった。


 レヴァンティナは、亡き実父のことをずっと大切に考えていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィーネちゃんが主役の百合ゲーはいつ出ますか? プレイ用、観賞用、保存用、布教用の最低4本は買いたいのですが…
[一言] なるほどなるほど。 明らかになってみるとなんとも微笑ましい。 今度は親子の対話が必要ですね。
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