悪役令嬢はいます!
スイーツ、という単語に違和感を覚えなくなったのはいつからだっただろう。
当時『すぐ流行に流されるパンピー女子』という嘲笑の象徴となっていた、ケータイ小説を揶揄するような(実際には使われていない)新語みたいな扱いの『スイーツ(笑)』という言い方も、今となってはその単語もすっかり一般化して使うようになっていた。
最初は『スイーツなんて言い方流行らない』って言ってたのにね。日常って、そんな感じで知らない間に変わっていくものだと思う。
ところで別にケータイ小説のように殴られたり、レイプされたりドラッグキメたりしてないけど——
——私は死んだらしい。
はっきり覚えていないけど、部屋で一人の時だったと思う。
天涯孤独である私らしい、淡泊な最期だ。
かつてのケータイはガラケーと呼ばれるようになり、時代はケータイ=スマホへ。
小説サイトは現代舞台から別世界へと流行が代わり、今や日本人は頻繁に転生して異世界へ飛んでいる。
ここでの流行は、男向けはとにかく最強ものが多い。
女の子向けは『悪役令嬢』時代到来である。
悪役令嬢に関する細かい説明は省くとして……このジャンルが流行するにあたって、一部の人から疑問が湧いた。
曰く、『悪役令嬢というキャラはそもそも乙女ゲームに存在しない』と。
恐らくアレだ、女主人公のライバルで、ドリルヘアーの先輩お嬢が出る漫画と、どこかでごっちゃになっちゃったんじゃないかな。
だって男向けの恋愛ゲームだって、攻略ヒロインの他に登場するサブキャラは仲の良い男友達だけだ。だから女向けだって、乙女ゲームのサブキャラは仲の良い女友達だ。
——その悪役令嬢に転生したと気付いたのが、つい先ほどの話。
かわいい主人公ならいいなとか、ちょっと地味だけど愛嬌のあるサブキャラだといいなとか……そういうことも思わないような、少し特殊な境遇のキャラに転生した。
まず、転生先の、このゲームの話をしよう。
タイトルは『グレイキャスター・シンディ』。内容は、生まれの貧しい少女が家族に虐げられながらも、義務教育として学生生活を送り、校内で出会った男性と恋に落ちるという作品だ。
シンディという名前は、シンシアの省略形。だけどこの作品では音の響きが似ているだけで、元となった別の名前がある。グレイは灰のことで、それに関連したシンディという響きに近い名前の原作。
その作品名は『灰かぶり』である。
そう、シンデレラだ。
シンデレラの家族といえば、継母とその娘二人。そのキャラ達ももちろん、このゲームに出てくる。
主人公に陰湿な虐待の限りを尽くす、誰もが知っている悪い女たち。
——いたよーーーッ!
世界的に有名な悪役令嬢いたよーーーッ!
そうだね、鏡に誰が美人か聞く女王とか、ダルメシアンを追いかけ回すセレブとか、悪役の女の人ってあの辺のアニメ映画に結構いたね!
うんうん、それをモチーフにした作品なんだから、間違いなく悪役令嬢だ。
このゲームの悪役三人組、名前は継母がトライアンヌで通称アンヌ、長女がレヴァンティナで通称ティナ、次女がティルフィーネで通称フィーネ。
そして今、目の前にある鏡に映る、ゲームでよく見た白のショートヘアをした少女が、そのフィーネ。
見事に私は、そのフィーネに……悪役令嬢に転生した。
……ここで後回しにしていた、このゲームのストーリーの流れをお話ししたい。
このグレイというのはもちろん灰色のこと、そしてキャスターってのは魔法使いのこと。
しかしこの作品の主人公シンディは、灰を被らない。作るのだ。
このゲーム、基本は乙女ゲームであるのだけれど……ゲームシステムが、RPG。
美しさだけでなく、魔力も最高の才能を持って生まれたシンディは、学園で自らの魔法の才能を開花させる。適性は、全てを灰に還す火炎魔法。
シンディはその魔法を使って、学園の見目麗しい王子様達とともに自らの障害を取り除いていくのだ。
燃やした敵の灰を被るので『灰被り姫』。
ツッコミどころ満載である。
が、いちおー嘘は言ってない。
自らの障害である悪役令嬢の悪事を取り除いていくというこの作品のメインストーリー。
最初のボスは、シンディの火属性に相性抜群の風属性で、まだまだ小手調べみたいな相手。
プレイヤーがレベリングしなくても余裕を持って倒せるのが、第一ボスであり次女のティルフィーネ。
つまり、私である。
……そうなのだ。
私はこのままだと、灰被り姫に、灰にされる。
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