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足し算じゃなくて、かけ算だった魔法

 毎日の魔法の練習は忘れない。

 いずれちゃんとそこそこ強い1ボス系女子フィーネちゃんという実力になるために、鍛錬を怠ってはいけないのだ。


 ただしアンヌお母様を心配させてからというもの、魔法は名前を調べるだけに留めて発動まではしていない。

 すっかり娘になってしまったのか、それとも同年代の苦労人のように見ているからなのか分からないけど、あの人の困る顔を見たくないのだ。


 だからずっと、マナチャージで我慢。

 その代わり、マナチャージはがっつり練習。


 ……まあ、最近は練習する必要あるのかなって思い出したけど。




 ある日、ふとそういえばマナチャージを二度三度やったという言い訳をしたなあと思い出した。

 その時、アンヌお母様は驚いた顔をしていたけど。


 私は就寝前、いつ倒れてもいいようにベッドの中に潜ると、日課を始めた。


「……《マナチャージ》」


 目を閉じて、息を吸いながら一秒。


「ふぅーっ」


 次に息を吐きながら、二秒。

 これぐらいで、大体自分の身体にふわーっとした力の膜ができたような感覚が現れる。

 最初に比べて、かなり……温かく? わかんないけど、なったような気がする。

 こう、野菜星人のスーパーパワーみたいにしゅわんしゅわん鳴りながら身体の周りにオーラが見えたらいいんだけどね。


 なんとなく、ほわーっとした感覚の中で、もう一度その言葉を小さく呟く。


「《マナチャージ》」


 同じような感覚に身構えていると、今度はふわっと飛び上がったような、なんだか変な感じ。

 先ほどとは全く違うマナチャージだった。


 同じように深呼吸して、落ち着ける。

 さっきまでよりも、もーちょっとあったかい感じがする。でも、これ以上温度が上がっても『熱い』という感覚にはならないだろうなって。


 ……そっか、これ、もしかして二重チャージか。

 マナチャージって、魔力を安定させる基礎練であるのと同時に、魔法を発動させるための準備練習か。

 溜めてショット、みたいなゲームの溜めパワーで、溜める力をもう一度使ったというわけだ。


 危険な感じはない。

 ならば、言った分ぐらいはやってしまおう。


「《マナチャージ》」


 その瞬間。

 ジェットコースターの下り坂に来た時のような、心臓が浮き上がる浮遊感が襲ってきた。

 懐かしいなこの感覚。


 ……じゃないよ! 明らかにマナチャージ二回目と違うよ!

 とりあえず息を吸ってー、吐いてー。


 気功の要領で魔力を安定させるの、ほんと向いてる。

 三回目のマナチャージもすぐに安定してきた。


 チャージ魔法の上からチャージ魔法、まるで3を3回足したのではなく、3を3回かけた感じ。

 9になるかと思ったら、27になってる。


 もう一度しても、死にはしないとは思う……。

 でも、さすがに使う気は起きない。バンジーとかスカイダイビングみたいなことになりそうで。


「あはは……こりゃ驚くわけだ……」


 マナチャージの二回三回って、気軽にできていい魔法じゃなかったんですねお母様!

 フィーネちゃん反省。

 でも、やっておいてよかった。必要に迫られて使った時に驚いてたら、嘘吐いてたことばれちゃうもんね。


 マナチャージ三回は、温かくて、それでいて体力も一気に抜ける感じ。

 一気に疲れる感じが……あ、これ就寝前にいいかも……。


 そうだ、自主練の一つにしよう……。



 すっかり距離も縮まったアンヌお母様の買い物に着いていき、すれ違う人に挨拶をする。

 普通の女の子ですよー。どーもどーも。

 みんな返してくれるので、それだけで安心してる。


 ……でも、気付いている。

 私の服が結構いい服を着ていることに。だから失礼のないように礼をしてくれていることに。

 結構庶民派だけど、やはり私は家名付きの貴族のお嬢様なのだ。


 お母様には、もっと安い服をねだりたかったけど、今沢山ある服から更に増やすというのは逆に贅沢な気がして言いづらい。

 うう……何かの機会に、ちゃんと伝えておこう。


 そういえばお母様、最近不思議なのだ。

 食材を買いに行く際に、果物系のお店を見て微笑むことが多い。

 私やティナ姉にフルーツ煮でも食べさせるのかと思いきや、買うわけではない。

 アンヌお母様、フルーツ好きなのかな?


 すぐに果物のお店からは離れて、今日も野菜を買い込むお母様。

 隣にいる私に相談しながら、食材を選ぶ。

 本格的に、アンヌお母様の中で私が料理の先生になりつつある気が……。


「これで、全部?」


「そうですね」


 私の返事にアンヌお母様が茸を籠に入れる。欧州のキノコのことは、さすがにそこまで詳しくはない。

 バター炒めで使うと聞いたので、この辺りはお任せ。


 足元に、枯れ葉の音が響く。

 踏みしめると、ばりばりと響く乾いた音。

 落ち葉を見ると、田舎で落ち葉の山に火をつけていたことを思い出す。


 ああ、この季節ならサツマイモを食べたいなあ……さすがに薩摩、日本の鹿児島まで取りに行こうとは思わない。

 この時期なら、バターで食べるのならやっぱりあれだよね。

 そんなことを思いながらも、アンヌお母様のバター炒めも楽しみなフィーネちゃんです。


 転生して、半年以上だろうか。

 季節は巡り、すっかり秋の終わりになっていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 豚が掘り出すキノコ? [一言] MPを数値化して見ている訳じゃないから、それが乗数なのかどうかは「わかってしまうのだから仕方がない」ってやつなのかな。 入学試験で魔力球を爆発させるま…
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