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チョコレートメキシコ

朝はうるさいから嫌いだ。

頭がぼーっとしてる様な気がするが、これは低血圧のフリ。

毎朝ご飯と味噌汁をガッツリ食べる。たぶん僕は胃腸が頑丈なのだろう。


いつも通り学校へと向かう。


あぁ僕はほんとに普通の人間だ!


父親は普通のサラリーマンだし、母親は専業主婦。兄は普通の大学生だし、僕は普通の高校生だ。


残念ながら問題は何一つない。




――そして、今日も当たり前の様に学校に着いた。



「おい、聞いたか?」

加藤の声はでかい。


「今日の体育、サッカーだってよ!」

柔道部の加藤は体もでかい。おまけにいつもテンションが高い。



「今日こそシュート決めてやる!」

一人でしゃべり続ける加藤。




凄くどうでもいいんですけど……。



加藤は隣の席のヤツにもでかい声で同じ話をしている。






「おい、お前寝癖ついてるぞ。」

誰かが僕の頭を叩く。


「えっ、あっ、みやっ、おっ!」


「反応キモッ!」

ミヤマが笑いながら言う。


ミヤマは同じ中学出身の友達だ。ちなみに自己チュー。



手で後頭部を触ってみると、確かに髪の毛が立ってる様な感じがする。



「まぁまぁ。そんなことより、今日ヒマだろ?」

ミヤマが続ける。


「えっ、まぁ。ヒマと言えばヒマだけど……。」


「じゃあ、ちょっと付き合え。」

何故かミヤマはいつも強気だ。


「いや、でも。何?」


「いいから、いいから。来ればわかるから。」


こいつはほんとに……。







「あー、早くサッカーしてぇ!!」



…加藤くん、そろそろ黙ってくれないか。










授業が終わり放課後になると、ミヤマが嬉しそうな顔をしてやってきた。


「じゃあ行きますか!」


「いや、どこに?」


「いいから黙ってついてこい!」



…なんという亭主関白。




僕はミヤマに連れられて自転車で河川敷にきた。



「こんなトコに連れてきて、なに?」

僕はミヤマに聞いてみた。


「んーと。そのー、俺は毎晩このあたりで素振りをしてるんだけど…。」


「素振りって、野球部やめたのに?」


ちなみにミヤマは、高校生になると野球部に入ってすぐにやめた。

上下関係というか体育会系のノリが嫌だったらしい。(ちなみに僕はずっと帰宅部です。)


「うん。いや、やめたけど昔からのクセというか、習慣というか。お前にはわかんないかもしれないけど…。」


「へぇー。」

確かによくわからない。


「いや、まぁ、素振りの話はどうでもよくて…。」


「でも、それって無駄な努力じゃね?」


「だから……。いや、その話はいいから。置いといて。」


「ふーん。まぁいいけど…。で?」


「えーっと。ここだ、ここ。」


ミヤマは橋の下で自転車を止めた。



「見てみ。あそこんとこにガラクタというか、ゴミがいっぱいあるだろ?」

ミヤマが指した先には確かにゴミが山積みになっていた。


「とりあえず、あそこ見てきてくれ。」


「……?」


「いいから。見に行けばわかるから。」


僕はミヤマに言われるがまま、自転車を降りてゴミの山に近づいた。


そこには色々なモノがあった。

傘、テレビ、タイヤ、エロ本、足…。


おっ!エロ本!……ん?


…足?あし?足!



「うわっ!」



「あはははっ!」



……マ、マネキンか…。


「はははっ。びっくりしただろー?ちなみに俺も見たとき、すげーびっくりしたから。」

嬉しそうなミヤマの声が聞こえる。


「あーっ。びっくりしたー!」

ちょっと手が震えた。


そこにはマネキン(♂)が横たわっていた。


「なんだよ!誰だよ!こんなの捨てるの!」


「…つーか、この為に連れてきたのか?」

僕は振り返ってミヤマに聞いた。



「いやいや、メインはこれじゃないんだ。」

ちょっとだけミヤマの顔つきが変わった。


「えっ。まだなんかあるの?」


「そのマネキンの下。」


「した?」



マネキンの下って……?した?地面?




「そう、この下。」


ミヤマがマネキン(♂)を足でどかした。



「何もないじゃん。」


「掘ってみ……。」


「えーっ。掘るのかよー。」


めんどくさくなった僕は、そこの土を足で蹴りながら掘った。


「ん?なにこれ?」


土の中に黒いゴミ袋が見えた。



「おっ。やっぱりまだあった!それ開けてみ。」

またミヤマは嬉しそうにした。


そういえば、黒いゴミ袋なんて最近見ないな…。

僕は呑気にそんなことを考えながら、それを手に取った。


ゴミ袋は結構な重さだ。中には白い紙袋が入っていた。


今度は紙袋を手に取る。


そこで一旦ミヤマの顔を見てみた。

ミヤマは何も言わずニヤニヤしている。


僕は紙袋の中に手を入れた。

硬くて冷たいモノが手に触れる。

とりあえず取り出してみた。


……なにこれ…?拳銃?ピストル?本物…???



「どう?どう?」

ミヤマの声がした。



「いや、どうって。どうなんだろ…。」


僕はピストルを手に持って、何故か冷静になっていた。


「何だよ。リアクション悪いなー。」


「いや、これはリアクションとりづらいって。」


「俺なんか『なんじゃこりゃー!』って感じだったのに。」

ミヤマがモノマネつきで言った。(似てない)


「いや、でも、何これ…?誰の…?」

僕はまだ理解できなかった。


「んー。知らん。たまたま見つけた。」


「本物か?」


「知らん。本物とか見たことないし……。」

僕につられたのか、ミヤマのテンションが下がる。


「で、これをどうしろと……?」


「ん゛ー。どーでしょう?」

今度はミスター口調のミヤマ。(これも似てない)


「いやいやいやいや、ミヤマが見つけたんだから、自分でどうにかしろよ。」


「えー!つーか、どうすりゃいいのかわからん。」


「やっぱり、これは警察だろ。けーさつ!お巡りさん!!」


「えーなんかー、そーゆーの、めんどくさいしー。」


こいつはギャルか…。


「だって、本物だったらマズイだろう!」


「やっぱり、お前は真面目だなー。」


「いやいや、これはマズイって!」

とりあえずピストルをミヤマに差し出す。


「じゃあ、お前が警察に持って行ってくれ。」

ミヤマがピストルを僕に押し返しながら言う。


「えっ!……それはヤダ!!」


「なんでー!お前が警察行けって言ったじゃん。」


「とにかく、ミヤマが見つけたんだから、ミヤマが行くべきだ!」


「んー…。じゃあ、お前これ持って帰れ。」


「バカ!持って帰ってどうすんだよ!」

さすがの僕もこれには呆れた。


「いいじゃん。こんなのなかなか手に入らないぞ。」

ミヤマがピストルを僕の手から取って言った。


「こんなの持ってたら捕まるって。」


「いいじゃん。警察の人だって持ってるし、なんか『正義の味方』みたいな感じで……。」


「ちょっとは真面目に考えろよ!」


「うーん……。」

ミヤマがピストルをまじまじと見つめている。



なんか嫌な予感がした。こいつ変な事言いそう……。



「安西先生、ピストルが撃ちたいです…。」


…やっぱり!!


「ダメ!絶対ダメ!洒落にならん。」


「撃ってから元に戻せばいいじゃん。」


「やめとけって。バレたらほんとに洒落にならんから。」

僕はミヤマに手を差し出す。


「絶対バレないと思うんだけどなー。だいたい本物じゃないかもしれないし…。よくできたオモチャかもよ。」


そう言いながらも、ミヤマは素直にピストルを僕に返した。


「本物だったらどうするんだよ。絶対に銃声とかでバレるって。だいたい警察官だって、そんな簡単に撃てないんだぞ。」


「そんなのピストルで自殺する警察の人とかいるじゃん。それに比べりゃかわいいもんだろ。」


「……そういう事は言っちゃっダメだって。」


…ダメだ。あんまり長くしゃべってると、こいつは本気になる。


「そういうお前は撃ってみたくないのか?」


「全然!!とにかくこれは元に戻そう。こんなの見なかったことにしよう!」

僕はそう言いながらピストルを紙袋とゴミ袋に戻した。


「とりあえず、忘れよう。何も見てない。なっ?」

ここは強気にいかなきゃ…僕はそう思っていた。


僕はゴミ袋を土の中に戻し、その上に足で土をかぶせる。


「なんかつまらん。」

ミヤマは子供みたいに口を尖らす。


「まぁ、いいじゃん。これが一番いいんだって。」


僕は最後にマネキン(♂)を元の位置に戻した。


「よし、じゃあ帰ろう。もういいだろ。」


「まぁ、お前の言う通りか…。しょうがないかな……。」


こいつ、テンション低っ!!


まさしく、とぼとぼと自転車に向かうミヤマ。

その後ろから僕も自転車に向かって歩いた。


……なんか疲れた。



まぁいいや。さぁ、帰ろう!!


あんなのは僕達には関係のないモノだ!!




そして、僕達は自転車に乗り、それぞれの家に帰った。









――その夜、僕は夢を見た。




僕は保安官だ。



街の荒くれ者達を自慢の銃で撃ちまくる。




誰も僕を止められない。




僕は銃を撃ちまくる。




僕は正義の味方だ。僕が正義だ。




僕は銃を撃ちまくる。




正義の名のもとに――




次の日の朝、僕はご飯と味噌汁をガッツリ食べて、いつも通り学校へ向かった。



「おい、聞いたか?」

いつもの様に、加藤がでかい声で話しかけてくる。


「ゆうべ、川の近くで発砲事件があったらしいぞ!」

今日も加藤はテンションが高い。


「ふーん…。」


「今朝のニュースでやってただろ。ヤクザが病院に運ばれたって。」


「知らね…。つーか、あんまりニュースでヤクザとか言わないだろ。」


「お前は、なんでそんなにテンションが低いんだよー。」

加藤はそう言うと、また次の相手を探しに行った。



あれ?…川の近くで発砲事件って……いや、まさか、あれは関係ないだろう。


そう思いながらミヤマを探したが、見あたらない。


遅刻か…?まぁいいか。






結局、その日ミヤマは学校に来なかった。




僕は気になって放課後ミヤマの家に行ってみた。

ミヤマの家に行くのは中学生の時以来だ。


マンションのエレベーターに乗りながら、別に電話でよかったかな……などと考えている。


まぁ、いいか。

僕は薄茶色のドアの前に立ち、インターホンを押した。


「……はい。」


髪の毛ボサボサでスウェット姿のミヤマが出てきた。


「あ、ミヤマ。」

僕はすんなりとミヤマが出てきたので、少し驚いた。


「おう、どうした?」

少しダルそうな声でミヤマが言う。


「あ…、いや、えーと。今日、休んだから。」


「え…?あ、そうか。いや、なんか風邪ひいたっぽい。」

ミヤマは不思議そうな顔をしている。


「ふーん……。」

あれ?僕は何しに来たんだっけ?


「で、どうした?何か連絡か?」


「……あ、いや。……忘れた。」

なんだ、これ。僕は何してるんだろう。


「ちぇっ。なんだよ、それ。」

ミヤマは小さく舌打ちをしてから言った。


「まぁ、いいや。思い出したらメールでもしてくれよ。」


「うん。あ、明日は学校来るのか?」

こんなこと聞いてどうする。


「え、あぁ。まぁ、行けたらな。」

相変わらずダルそうなミヤマ。


「そうか。じゃあ、帰るな。」


「おう。じゃあな。」

ミヤマは軽く手を振った。




――ほんとに僕は何をしに来たんだろう?



発砲事件の事や、ピストルの事。それに、学校を休んだ事――僕はミヤマにいろんな事を聞きたかったのに、言葉がうまく出てこなかった。




日も暮れかかった頃、僕は一人であの場所に行ってみた。


マネキン(♂)がまだ横たわっている。




僕はそこでいろんな事を考えていた。



確かめてどうする?


あったらどうする?


なかったらどうする?




――結局、ピストルを確認するのはやめた。



結果はどうであれ、僕の明日は変わらない。




そうだ!明日からまた普通に生きるだけだ!







僕はマネキン(♂)のそばに転がっていたバットを蹴飛ばし、自転車に向かって走った。

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