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小さな、相棒。
僕の家は。
古くから続く、お茶農家だ。
なんでも、盆地のすり鉢の斜面が
お茶の栽培には良いらしい。
寂れたとはいえ、近くに温泉もあったので
ばあちゃんの時代に、民宿も始めた。
看板だけは、まだ出してるけど。
おかげで、小さい頃から僕の為の部屋があった。
今は、僕だけの部屋ってわけでもない。
たいていは、ムギが一緒にいる。
ムギは、姉貴が拾ってきたネコだ。
麦畑の中で、うずくまってたらしい。
そして、毛並みも麦色。
誰が名付けたって、わけでもない。
ムギは、めったに鳴かない。
時々心配になって、
[なきかた、わすれちまったのか?]
と、聞いてみるが。
もちろん、返事はない。
部屋に入れて欲しい時は、引戸をカリカリするだけだ。
僕の秘密を誰よりも知っているのは、
このムギ、だ。