1章 2『手帳』
────「どこだ..ここ...」
あまりの目の前の光景に夢かと疑うが、元々自分は眠りが深いタイプだったし、夢と分かった途端目覚めてしまうのが関の山だ、
しかも突っ伏して寝ていたはずなのに立ち尽くしている有様なのでさらに訳が分からなくなる、
「ひとまず状況確認とするか...」
あからさまな石造りの家や道それに道を歩く多くの衛兵や馬車見ているだけで心が踊るような光景ばかりで何時間眺めていても飽きない、と思う
「そして決定打は...」
全身を覆うローブに背丈ほどあるだろう大きさの木に石のようなものをはめた杖を持った人が衛兵たちのすぐ後ろを歩いていた、
「中世風の景色に衛兵に魔法使い....これって...」
「異世界ファンタジーじゃねぇか!!!」
そうして叫ぶパーカーにズボンのTPOを少しも弁えていない奇妙な格好をした人間を道行く人達は無視して
通り過ぎて行った。
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「ったく、どうしたもんかなぁ、異世界ファンタジーと言っても魔法の使い方もわかんねぇしどこに行けばいいのかも分からん、極めつけは所持品は無しときた...」
ユウマは異世界転移から約30分程で『詰み』を確信していた。
「こんな時は神様とか超絶可愛い異世界ヒロインとかが助けてくれるんじゃないのかよ!」
お決まりの神様やチートが無い事に不満をこぼしながら人通りの多い露天通りを歩く、様々な店が並んでいるがどれも値札やら商品の名前が読めないのだ、
「自動翻訳も機能してないしどうやったらこんな事になるんだよ...」
やはり、異世界ファンタジーに期待を抱きすぎるとこうなってしまうのかと自分に落胆し再度通りを歩き始める、
「いてっ」
よそ見をしていたのが原因で人にぶつかってしまったみたいだ、ぶつかった人はユウマの身長より一回り小さくユウマ胸のほどだろうか、全身を白いコートのようなもので覆いフードも被っているので分かりにくいが身長と布越しでもわかる身長に合っていない起伏から少女だろうと思った
「おぉ...すまん」
思わず謝るが少女は何も言わずに通り過ぎるが懐から黒い手帳のようなものが落ちた
「ん?なんだこれ...おい!落としたぞ!」
落ちた手帳を慌てて拾い少女へ声をかけるが人混みの中へ紛れてしまい少女の影はもうない。
「どうしたもんかなぁコレ、」
お巡りさんに届けようにも交番の場所は分からないし、肝心の落し物は素直に届けるという概念があるのか自体曖昧な世界なのだから困る。
「適当に歩き回ってたら見つかるかもしれねぇしもう少し城下街探索といきますか!」
幸いな事に一般人との会話は可能なところに神様の僅かに残された慈悲に感謝しながらこの世界の情報を少しだけ手に入れた。
まず、ここは世界で真ん中よりやや南に位置する王が治める国家『エルレア』ということ、
そしてこの国には今、王は存在せず、代わりに王城のお偉いさん達が頑張っているのだとか、
世界には魔王は存在しないらしく居ないことに驚いた自分を子供たちが腹を抱えて笑っていた、少しだけ
ムカついたのでフードをひっくりがえしてやった。
この国は世界の中でも有数の大都市らしく、探し物ひとつするのにどれだけの時間がかかるか分からないのでひとまずは歩き回った後に少しこれからの事を考えるのと一緒に休憩をしようと思った
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「ったくあんだけ歩いて収穫無しだ、広すぎんだろ王都」
結局2時間ほど歩いても収穫はゼロだった、
日はもう傾き、空は橙色に染まっていた。
「腹、減ったなぁ、」
最後に食べたのはカップラーメンを少しだけ口に運んだだけなのだから腹が減るのは当然だろうなと思う、
しかしこの世界の通貨など持っているはずもなく
しかも銅貨銀貨金貨ときた、これからが心配だ。
「そういえばこの手帳って何書いてんだろうな、」
人の物を勝手に見る行為に罪悪感が湧き上がるがそれ以上に異世界人がどんな事を手帳に書き留めているのかという好奇心が脳内を支配している、
「落とした人の責任でもあるし、いいだろ、」
落とした人が悪いという昔ながらの免罪符をこぼしながらその1ページ目を開く、
「──んぁ??」
瞬間世界が歪み上下左右が分からなくなる、
自分が立っているのかすらもわからずに目の前の光景に酔って急速に嘔吐感が湧き上がってくる、自らの吐瀉物に喉を詰まらせ自分の身に何が起こったのかを理解できずに己の意識を手放した。