3話
長旅を終え、俺は記念すべき最初の街、港町を満喫していた。町を知るならまずはマーケット。ちょうど昼飯時であることだし、ここは調査といこうか。
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「いいねいいね、この感じ。活気があるなー」
異国情緒と港町特有の魚介と香辛料の香りを楽しみながら散策をする。すこしばかり酸味が強く、日本人の好みとは違う気もするがそれも冒険の醍醐味。
「おいしいねーこれ。素材がいいのか、おじさんの調理の腕か、どっちもかな!」
目の前の露天店主に聞こえるように大きめの独り言を言ってみる。かかれ・・・!
「ははっ、ありがとな、にーちゃん。ものが分かるやつは好きだぜ。旅行かい?リッテルを楽しんでいってくれよ。」
やけにガタイのいい店主の笑顔が太陽に映える・・・これぞ港町!
そしてこれが俺流コミュニケーション術!話を引き出せそうな相手を釣り上げる技である。漁港だけに。
「旅行と言えば旅行だけどね。ほら、俺、ブレイザー!てなわけでこの街の協会ってどんな感じか教えてもらえるとすごくうれしいなーなんて。」
顔だしたらよそ者はシメルゼ、なんて古典をやられたらたまったものではない。温厚であれ、討伐士!できれば美人であれ、受付の人!
「おおっと、見かけによらないもんだな。討伐士か。若いのに大したもんだ!ほれ、サービスだ。いっぱい食べて大きくなれよ」
「んで、察するに日本から渡ってきた新米討伐士が初めてのよその協会に踏み入る勇気がでない、ってとこか。気持ちはわかるぜ、うんうん。俺も昔、修行の旅に出たときはな……」
「ストップ!落ち着いて、そう、落ち着くんだ。あのー、昔話も興味ないわけじゃないんだけど、できれば協会のお話を・・・」
店主が遠い目をしてトリップを始めたのであわてて止めに入る。とんだ大物が釣れたものである。
「おっとそうだったな。それでリッテル支部の話だが、そうだなぁ、討伐士は地元のやつが多くてみんな気のいい奴らだよ。最近はちょっと森が騒がしいとかなんとか言ってた気がするな」
「森・・・」
協会については安心できるみたいでよかったが、なにやら不穏な言葉が。森って言うとたぶんあの森だよねこれ。さっきまでお猿さんとピクニックしてたあの森だよね。
「そう、森だ。リッテルと言えば海のイメージだが、あの防壁の向こうには大きな森が広がってんだ。木材やら魔力資源が採れるってんで、リッテルには欠かせない森なんだけどよ。まあ来たばっかの兄ちゃんは見たことないか。」
ふつう、そこの港から来ますもんねー。
「いや、なんというか、まあ、実は……」
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「ぶはははっ!兄ちゃん面白いな!給油港で降りて森を突っ切るやつなんて初めて見たぜ!」
「しかし、運がいいのやら悪いのやら・・・今の森は怪物が増えてるって話だ。よく無事に抜けられたなぁ。よほど腕が立つんだろう、やっぱり人は見かけによらないもんだ。」
店主が豪快に笑い、なんとも言えない表情で俺を見てくる。そこには心配と安堵の色が見え隠れし、見知らぬ若者に対してこれほどまでに気持ちを傾けてくれる人情味が、なんとなくこの街を好きになれそうな予感となって胸を暖かくしてくれた。
「運がよかったんだよ、ほんとに。はあー思い出したらムカついてきた!あのムキムキ猿共は必ず成敗してやる!」
本心が半分と、店主を安心させるための演技が半分。俺は元気だぞというところを見せておく。ブレイザーが一般人に心配かけさせるわけにはいかないよな。
「猿ってぇと、そりゃ第二指定のスピーナじゃねぇか。あいつらは群れるし、しつこいし、ランク以上の危険性があるって話だ。ほんとによく無事だったなぁ」
すこし呆れたように店主がつぶやく。
かえって店主を心配させることになってしまったようだが、情報が得られた。どうやらあのくそ猿どもはスピーナというらしい。しかし、あれが危険度第二指定・・・
もっと危険度が高そうな感じがしたが、森が騒がしいってのと関係がありそうだな。狂暴化、しているのか?
「スピーナ、ね……」
一瞬、思考に意識が流れた俺の様子を見て、これは危険な目にあったのだろうと勘違いしたのか、店主がことさらに明るく話を続ける。(まあ、実際に囲まられて殴られたわけだけど!)
「そうだ、どっかの言葉でトゲって意味らしい。体の毛がトゲみたいになってたろ?ま、俺としては奴らの刺々しさから来てんじゃないかと見てるがな!」
「そんなこと言ったら怪物は全部スピーナになっちゃうじゃん!」
店主の気遣いが嬉しく、つい笑いがこぼれてしまう。
「はははは!そんだけ元気なら大丈夫だな!討伐したら、もっかいここに来い。サービスしてやるよ。ただし、無理はすんなよ。まだ若けぇんだからな。」
「よっし、おじさんありがとう!なんかやる気出てきたからさっそく協会にいってくるわ!」
レベル2とは思えない“スピーナ”に、きな臭さを感じつつ、この街の人々のためにここはブレイザーの腕の見せ所!と奮起し、歩き出す。新米だけど。
「おう、気を付けてな。もしキースってやつにあったらよろしく言っといてくれ。串屋のマルコからだってな。それじゃ、がんばれよ新米討伐士!」
手を振って別れると、店には次の客がやってきて店主はすぐに魚を焼き始める。
キース、キースね。店主からの餞別だろう。ありがたい、また来るよ。てかうまい。ここ通うわ。
よし、じゃあ、いくぜ・・・リッテル支部!!
怪物総スピーナ説