2話
「くそ、囲まれたか。うっとおしい猿どもめ」
木々の間を縫うように走りぬけ、少しばかり開けた場所にたどり着いた俺は、素早く息を整えながら毒づく。こんな深い森の中、ゆっくり深呼吸でもしたらたいそう気持ちいいんだろうが、そうもいってられない。
ギギーギギーと鈍く耳障りな鳴き声が周囲を取り込んでいる。生い茂った葉の隙間から除く怪物の姿は“猿”。
「の、はずなんだけどな・・・。いつからお猿さんたちはこんなにムキムキでトゲトゲになちゃったわけ?」
素早く敵影を確認しながら問いかけるが、むろん返事など期待していない。体高2m弱、筋骨逞しく、体毛は黒く鋭い針のようである。獲物を狙う目の赤さがまるで宙に浮いた人魂のように揺れている。・・・まあ獲物とは俺のことなんですけどね。
「1、2、3、4・・・5体か。さて、どうするかね」
これが“災厄”の怪物。自然界の動物が変異したのか、どこからともなく現れたのか、あるいはその両方か。様々な学説があるようだがそんなことは今の俺には関係ない。この状況、どう切り抜ける・・・?
決まっている!
「頼んだぜ!俺のスキル!」
瞬間、全身を黒い甲冑が包み込む。森の深さの中にあってなお暗く、鈍く輝くこの鎧こそが俺、光嶺甲の“異能”、《黒騎士鎧》だ。怪物どもにまったく引けを取っていない、傍から見れば重厚なこの全身鎧であっても使用者の俺には重さは感じられない。視界良好、感度も問題なし。最悪なのは状況だけ!!いくぞ・・・
「ッハァァァ!!逃げの一手!!」
俺の突然の変貌と絶叫に“猿”が身構えた瞬間を逃さず、包囲網を突き破る!
がしかし連中も馬鹿ではない。前方に陣取っていた猿二体が素早くとびかかってくる間に進行方向を塞ぎにかかる。空中にいる猿はいい的だが構っている間に、道は塞がれるだろう。避ける時間さえも惜しい。
故に。
ゴォン!!
鈍い音が森に反響する。筋肉猿ゴリラ(仮称)の渾身の右ストレートは俺の頭を正確に打ち抜いた。
「利かないね」
拳から伝わる運動エネルギーは殺し切れず、体が左に流れたものの許容範囲。左足にかかった重みを地面へと伝え、蹴りだすッ!素早く右斜めへ切り込み、二体目の猿を躱す。鎧はその見た目に反して音も立てずに滑らかに動く。猿どもは全員俺の後ろ、いける。
「第二段階!!」
瞬間、鎧に“鮮やかな深紅の光翼”が備わった。加速、加速、加速・・・!
猿も、森の木々さえも置き去りにして疾走する。
黒と赤。奇しくも“猿”と同じ配色でありながら、その輝きは存在の次元が違うことを叫ぶかのように輝いている。はずである。え?違うよね?猿とかぶってないよね?
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「いやーしかし、まさか降りる港を間違えるとは!」
猿どもを振り切ってからずいぶん経った。木々もまばらになり、森の終わりを告げている。汗を拭いながら一人嘆きの声をあげる。大陸についたことで興奮しすぎて飛び降りたはいいものの、まさか給油地とはね。やられたよ。旅行先の電車とかでよくあるやつ、なんか一人だけ秘境駅みたいなところで降りるやつね。周りの「こいつ間違えてるわー」って視線の意味に後から気づくやつね。
目的地である討伐士協会リッテル支部へ行かないことには依頼も受けられない。次の船は一週間後。辺鄙な給油港では交通網も整っていない。必然的に徒歩!(探せば何か手はあったのかもしれないが・・・)
地図を見るにここは突き出した半島状になっており、森を一直線に突っ切れば夜になる前にはリッテルにつくだろう、と甘く考えていたあの時の自分を殴り飛ばしたい。おかげで猿と追いかけっこする羽目になったわ。
「おっ・・・見えた!リッテル!」
ついに、たどり着いた大陸、最初の街。予想外の加速もあって、まだ時間は昼時である。
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甲は意気揚々と街へと歩みだした。
テンションが定まりません!
次第に統一されていくはずです・・・