ディエゴの話2
そんな音楽シーンにあって、それでもやはり
ネハンが実力的には飛びぬけていた。
「だがな」
マッハパンチのキングは言う、
「おれが思うに、いや、他にもそう思う人が
必ずいるはずだ、ネハンはもっとやれる」
商用的に成功してしまって、挑戦する気持ち、
開拓する気持ちを忘れてしまっているのでは
ないか、とそう言うのだ。
「おれは、彼らに会って、ひとこと言ってやりたい
んだ」
さすがにライブの中で呼んでもらった相手を批判
しはじめても困るので、ライブ終わりにそういう
話を直接する時間を作ってもらうことにした。
「しかしなあ、おまえら本当に大丈夫か?
ケイト国務長官も危険を伴うって言ってたぞ」
みんなの中心で、ゴシが国務長官の部分を強調
する。
「その点は一応大丈夫と言っておこうかしら」
さっきから打ち上げに参加していた女性、
ケイト・レイに似た雰囲気をもつ。
「あ、知らないひともいるかしら、サキ・キムラ
です」
ケイト・レイの姪だ。たまにライブにも顔を
出していたが、こんなに逞しかったっけ?
3バンドのメンバーは、ここ最近ハントジムで
いっしょにトレーニングやスパーリングを
こなすのでよく知っている。
「コウエンジ連邦の諜報部によると、当日ライブ
終わりの時間帯で偽装アンドロイドによる襲撃が
予想されているわ」
「でも、数と質で前回よりだいぶ劣ることが
分かっています」
サキがコウエンジ連邦のことを我が国と言わない
のは、複数の国籍をもっているからだ。もともと
持っていた個人国家の国籍もまだアクティブだ。
何体? という問いに、たったの100体、と
答える。前回というのが何のことかわからな
かったが、次元の違う話に、ゴシはドリンクを
とりにいくふりをして、戻ってきて末席に座る。
「じゃあ、一か月後、みんな、しっかり準備しよう
ぜ!」
マッハパンチのキングが気合を入れる。
すっかり主役が交替して、旧主役のヘンリクと
盃をかわすゴシ・ゴッシー。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水に
あらず、か」
ヘンリクがその言葉にゆっくりうなずく。
そうは言ってもな、とヘンリクに語り出す。
あの、ケイト・レイのスパーリングを見たあと
で、ハントジムで僕も護身術習わせて下さいと
は、とても言えないよ君。




