ゴシの話29
いや、これは、間違いない。
これはもう、ダンスの才能という問題ではない、
音楽そのものの才能だ。それを確かめてみよう。
翌日、無重力下で音合わせのため、
8人はホテル近くのスタジオへ向かう。
今日一日、ここでこもるのだ。
よし、とりあえず本格的になる前に、エマド
あたりに見てもらおう。ほとんど寝ないで
考えたのだ。
「エマド、ちょっといいか」
機材の準備を手伝っているエマドに何やら紙切れ
を渡す。エマドはそれを見る。
紙切れにはこう書いてあった。
タイトルは
「立ち向かうんだ」
ゴシ・ゴッシー
風の中 君の姿に 走り寄る
悪漢に 私の心も 荒れ模様
倒されど 私の心は 倒されじ
警察だ 私の声に 走り去る
大丈夫かい とにかくケガは 無かったかい
君は泣く 私の声と やさしさに
君は泣く 私の声と やさしさに
紙切れに目を落として数秒後、何か我慢するよう
にエマドが口を押える。
「お、おい大丈夫か?」
「い、いや大丈夫です、うっ」
「おーい、エマドくーん!」
「あ、じゃあもう始まるんで」
「あ、持って行っていいよ。遠慮せず」
全体音合わせにエマドが向かう。
目が潤んでいたな。
今日のランチは外には食べにいかず、軽食だ。
みな思い思いにサンドイッチなどをつまんでいる。
ここでは、エマドとアミ、フェイクの3人が
昼食中だ。
「エマドさあ、さっき2回ぐらいペットの音
外してたよね?」
アミが鋭く指摘する。
「ああ、これのせいだ」
さっきの紙切れに二人が覗き込む。フェイクが
飲みかけたジュースを吐きそうになり、むせる。
「何時代?」とアミがぽつり。
「だろお? でさあ、おれが不覚にも笑いかけた
のが、このタイトル部分」
「あ、ほんとだ。なんでタイトルまで」
そんなこんなで夕方となり、音合わせも無事
終わった。ホテルへ帰る道すがら、さきほどの
紙切れをアミがウインとマルーシャに見せている。
ウインは相当笑いをこらえている。マルーシャは、
そうねえ、と言って肩をすくめる。
「もうそれ採用!」と言ってウインはついに
大声で笑いだす。斬新だけど、とマルーシャ。
遠くで歩きながら、ウインの笑い声を聞いたゴシ
は、何を笑っているのか知るよしもなく、箸も
転げる年ごろか、と独り言ちした。




