サトーの話5
とにかくこのジムはよく泳ぐ。
この流派の特徴らしい。常に水をイメージしろ
だと。
こっちはスパーリング中にそんな余裕はないん
だよ。
でもまあそこまではいい。おれはなぜかほぼ
毎日、ドラムを叩く練習をやらされている。
リズムが大事なんだと。納得いかないが、
ジェシカにそう言われると何も言い返せない。
そうだ、楽器と言えば、あの女の子、アミの
ことを書かなければならない。まあ単純にいう
と、強かった。
一応ジェシカに血縁かどうか聞いてみたが、
違うという。もともとやっている音楽活動の
関係で、週に3回トレーニングに参加できる
かどうかという感じだが、数か月でどうも
おれとは違う特別メニューも秘密の部屋で
こなしているらしい。
スパーリングも、むしろ最初のうちのほうが
いい勝負できた。技を覚える速度が半端なく
速いらしい。若いからだと思うようにしている。
双子ほどボコらないのは自分の指を気遣って、
アーティストだから、と本人談。
もちろん楽器もおれよりうまい。本人の専門は
弦楽器らしいがドラムも他の楽器もうまい。
そして、ドラムの先生になってくれている。
金は払わなくていいよ、とのこと。
おじさんには若い世代の音楽の話はよくわから
ないが、その方面ではけっこうな有名人なの
かもしれない。
そう、有名人と言えば、ドン・ゴードンと双子
の練習をみることができた。無差別級で世界
ランカーの、このジム男子でおそらく最強の
ひとだ。サインをくれと言いたい。
勉強のためにスパーリングを見ていいという。
この日は主にジェニー相手に試合形式で練習
していた。印象としては、当然というか、
ジェニーがおされぎみだった。無差別選手相手
に渡り合えるだけで充分なんだけど。
だが、そのあとジェシカが教えてくれた。
ジェニーが不利になるルールでやってたんだと。
例えば、ジャケットマッチ。掴み易くなれば
小さい方が確かに不利か。
ほかにもあるのか聞いてみた。
「股間にひじうちを決めてはいけないとかー」
「練習だからケガさせてはいけないとかー殺して
はー」
なるほど。
「まあそのうちわかるよ」らしい。